悪夢の終わり3
「ああ、そうだ。レティアーナ、これ」
アルは麻の小さな袋を取り出した。
「最初に助けられてから、お金返してなかったから。次にお店に行くときは、ちゃんとお金持って入るよ」
「それがいいです」
アハハと全員が同時に笑った。笑いが収まる頃、船からクルーが顔を出した。
「キャプテーン!出港の準備整いましたー!」
「分かった。すぐ行く!レティ」
リックの差し出した手にレティが走って行こうとしたら、後ろからアルに抱き締められた。
「アル様……?」
「ごめん、最後に一度だけ。本当に好きだったよ、レティアーナ。今回はフラれちゃったけど……まあ、リックには敵わないしね。だけど生まれ変わった時には、俺を選んでくれたら嬉しいな。じゃあね、行ってらっしゃい」
アルはレティを放した。レティは後ろを振り返りながら、リックの元に行った。
手を引かれて甲板を登り、ディノスやユーシュテと一緒に船から手を振った。
(アル様、ごめんなさい。生まれ変わってもきっと、私……リック様を愛してしまう気がします……)
「一国の王子を虜にするなんて、あんたも隅に置けないわねー、レティ」
「もー、ユースちゃんの意地悪」
ユーシュテが縁に肘をつき、こちらを見ながらニヤニヤしてからかった。
「誰が好きになろうと、レティの心は俺以外には向かない」
「はいはい、惚気ないでちょうだい」
リックはレティの髪に手櫛を入れるようにして抱き寄せ、ユーシュテは呆れたような声を出した。
(アル様にはきっと、私以外に来世も好きになりたいと思える素敵な女性が現れます……。コレット様が未だに、この世にいない旦那様を愛されていらっしゃるように)
恋は甘いだけではない。時には酸っぱいような苦いような、胸を刺すように苦しい気持ちも生み出すのだと、レティは知ったのだった。
どれだけ誰かに何かを与えられても、優しく甘くされても、それはリックがレティに与えてくれるものとはとても比べ物にはならない。
その事はもう、十分すぎるほど分かっていた。
アル達が見えなくなって、彼を受け入れられなかった自分が何だか酷い気がして、レティはリックに体を寄せるようにして抱きついた。
そんな気持ちを知ってるかのように、リックが優しく言う。
「苦しいか?レティ。すまないな。俺はそれでもレティを離してやれないから。愛してる」
リックの大きな手が頬をすっぽり包んで、親指が撫でるように動く。
「大丈夫です。私もリック様しか選べないから、どうしても……」
「ほんっと、レティは可愛いな……」
リックが身を屈めたとき、鋭い声が飛んだ。
「ちょっと、そこのバカップル!続きは部屋行ってちょうだい。免疫ない輩の気持ち考えなさいよ。失神するわよ!」
ユーシュテが甲板に手を向ける。
残っていたクルーが全員、乙女のように顔を両手で覆っていた。
レティは真っ赤になって、リックから離れる。
興を削がれたリックはため息をつくのだった。




