悪夢の終わり2
翌朝、島からの出発を決めたリックは、レティと一緒に海岸へ立っていた。
二頭の馬と一台の豪奢な馬車がこちらに向かってくる。
黒い馬に乗っているのはサルディ、その反対の真っ白な馬に乗っているのはアルだ。
「アル様!」
レティは手を振った。アルも左手を上げてくれ、目の前に来ると馬を降りて二人の前に立った。
サルディは降りると、馬車の窓のカーテンを外側から開けた。
「もう行っちゃうんだね。何だか寂しいよ。お礼もしたかったのに」
「俺たちは別に国を助けた訳じゃないからな。それはアル、お前だ。こっちは奪われたものを取り返しただけ。礼をされることはない」
「そういう考え、ホント君らしいよね……」
アハハとアルは笑った。レティはそんな彼に訊ねる。
「王様とカルロ様は、お体大丈夫そうですか?」
「うん。陛下は元気だよ。食欲もあるし、すぐ復活する。カルロ兄さんはもう少し時間はかかるけど、大丈夫だよ。トラブルメーカーだから、俺としては大人しくしてくれていた方が楽なんだけどね」
それを聞いてレティもリックも笑った。
カルロがトラブルメーカーである姿が容易に想像できるからだ。
そんな三人を、馬車から女性が顔を出して見つめる。
「アレックス、そちらはご友人ね?お一人はお会いしてるわね」
「そうだよ。レティアーナ、紹介するね。俺の母のコレットだよ」
アルはレティに手を差し出して、コレットの側に連れていった。
レティはコレットの優しい雰囲気を見て、にっこり笑った。
「レティアーナと言います」
「まあ、可愛らしいお嬢さんね。華奢で何だか私の若い頃を思い出すわ。私よりは元気そうだけれど」
(やっぱりそうか)
リックはコレットがアルと自分の女装に対して喜んだとき、レティと似た雰囲気を感じたことを思い出した。本人が言うくらいだからそうなんだろう。
コレットは口元に手を当て、楽しそうに囁く。
「アレックスは貴女のことを、あちらの素敵な方の大事な人と言ってたわ。と言うことは、アレックスはフラれちゃったのかしら?」
「ちょっ、母さん!」
慌てた息子を見て、コレットはウフフと笑った。
「それなら、私の義娘にはなれないわね。そうしたら、せめて離れててもアレックスのお友達でいて上げてくださいね?」
「はいっ」
レティは頷いた。
楽しそうなコレットを見て、サルディは言った。
「貴女がそんな風にお笑いになるところ、久々に拝見致しました。急に外に出ると仰られるし、どうなさったのですか?」
「若い人達が頑張ってるんだもの。私も元気をもらったの。それにアレックスは最近益々陛下に似て、男前になってきてるわ。成長が楽しみよ」
コレットが言う陛下とは、恐らく亡くなった先代の国王のことだろう。
そういえば初めてコレットの所へ行ったときに、「陛下」と呼びながら振り返ったことをリックは思い出した。
窓に映るアレックスが、自分の愛した人と重なったのかもしれない。
「そうですね。お馬さんに乗ってきたアル様は、白馬の王子様みたいでした」
「レティアーナ、一応僕は本当に王子なんだよ」
「そうでした!」
レティはふふふっと可笑しそうに笑い、アルは脱力したように笑った。




