悪夢の終わり
「もう。ここいらで終わりにしようぜ」
「フッ……。いいだろう、小僧。かかってこい」
リックとウィルがお互いに剣を構えた。
(どうか、色んな物がリック様の味方になりますように)
レティの想いに翼が揺れ、光の粒がスピードを上げて上へと飛ぶ。それは鳳凰に集まっていった。
鳳凰は形を崩し、風になってステージへと飛んだと思ったら、リックを螺旋状に取り巻いた。
「!?」
リックの剣に風の力が集まり、柄は羽となり、刃は長い風の剣となる。
「これは鳳凰……?」
姿は見えなくなったが、手元から鳳凰の気配が伝わってくる。
「契約者が相手を武器にするなど、聞いたことがないぞ!?何なんだ!」
「お前にはもう、負ける気がしない。俺と鳳凰の力、受けてみろ!!」
リックが剣を構え、ウィルも焦りから我に返り、苦々しい顔をしながら同じようにした。
両者の声が重なる。
「負けない。これで、終わりだ!」
ウィルが素早く此方に向かって来る。リックはその場で剣を振り上げた。
「風の攻撃範囲は……全てだ!」
切っ先を降り下ろしたら、螺旋状に渦巻いた太い風が目にも止まらぬスピードで飛んでいく。
ウィルは巻き込まれ、鋭い刃物のような風で鎧と無防備になった体を切られ、彼を突き抜けたそれは獏にも当たった。
獏は叫び声をあげながら黒い霧になって散りながら消え、ウィルはバラバラになった鎧と一緒に床へ崩れた。
ギルのように白目を向いてピクリとさえしない。
「せ……船長が、勝ったぁあああっ!」
一人のクルーが拳にした右腕を上げ、大きな声を会場に響かせた。
次いで全員が総立ちになって両手を上げ、ワイワイと賑やかになる。
風の力が剣から抜けて、鳳凰は形を取り戻した。
それから再び風になり、リックの目に吸い込まれた。
「レティ!」
リックはレティに手を向けてくれる。
海蛇は体勢を低くして降りやすいようにしてくれたが、それを待たずにレティは飛び出した。
「リック様っ!」
飛び降りる途中で金の翼が消えた。勢いよく飛び込んできたレティを、リックは抱き止める。
人目を憚らずに抱き合う二人を見て、アルは見守りながらため息をついた。
「やっぱりレティアーナにとっては彼が一番か……。うーん、こりゃ完全にダメだね」
アルが床に降り立つと海蛇は水になり、胸に吸い込まれた。
「アレックス!」
完成沸き立つ中、サルディに背負われた国王ジェラルドが入ってきた。
「殿下、すべて終わったようですね。国王陛下も衰弱しておられますが、少し療養すれば大丈夫でしょう」
「うん、そうだね。あたたた……」
サルディに頷いたが、レティの球体が消えたせいで、緊張が抜けた今頃になって痛みが戻ってきた。
「大丈夫か……?すぐにアレックスの手当てをしてやってくれ」
「御意、陛下」
頷くサルディの前にアルは立った。
「母さんは?」
「殿下なら、きっと困難を切り抜けられると信じて待っておられます。前国王陛下の息子だからと。会いに行って差し上げてください」
「その通りだな。お前は兄上にそっくりだよ。私の息子よりずっと周りが見えている。これからも国を頼むよ」
「はい、陛下」
アレックスは頷いた。兵士も中に数人入ってきて、ウィルとギルを拘束すると運んで行った。
「リック!レティアーナ!ここを出よう」
「そうだな」
リックはディノスに誘導を任せ、レティを連れて処刑場を出た。




