呼び覚まされる新たな契約8
水はステージから溢れ、少し低いところにいたレティやユーシュテのところにも流れ込む。
レティは巻き込まれる前にリックが鳳凰と共に飛んできて、体を引き上げられた。
「きゃっ!あふっ……」
「ユース!」
ユーシュテが流れに巻き込まれたのを見て、ディノスが上から飛び込んだ。
中で流される小さな体を掴み、水上に顔を出す。
「大丈夫か?」
「ええ。ありがとう、ディノス」
二人で水に浮かびながら、上を見上げた。
「それにしてもレティ、あの子は何なの?あんな力見たこともないわ」
「俺にも分からん。契約者ではなさそうだが……。ただ本でも話でも、見たことも聞いたこともない状態だ」
レティの体は未だ妖精のように、キラキラした光の粒のようなものに包まれていた。
「ここにはどうやら……とんでもないものが他にもあったようだな……っ」
ウィルがステージに這い上がってきて、ギルも遅れて続いた。
「ただの女かと思っていたが……。どうやら違うようだ。俺は女に興味はないが、それが楽園の女神なら話は別だ」
「楽園のっ、女神だとぉ!?」
浅い呼吸をしながら、ギルがウィルの顔を見た。
「確証はないが、世間を騒がせた海賊の航海日誌に書いてあったそうじゃないか。光の楽園に導く女神――それは金の翼、金のオーラを放つ女。金色に神々しく輝き、彼女が認めた者を楽園へと導くと……。あの女はその容姿に近い」
「確かに……今はそうだ……なぁ……」
「何がなんでも海蛇とあの女は手に入れるぞ」
ウィルは立ち上がって命令した。
「獏!いつまで沈んでる!黒煙だ!」
ウィルが後ろから前に指を動かす。その動きに従って、水に沈んでいた獏がステージに転がり込んできた。
ステージが獏の口から出た煙に覆われる。
アルは海蛇の尻尾から出て鱗に足をかけ、上まで駆け上がった。
「吹き飛ばせ!」
リックの命で鳳凰が羽根を上下させ、煙を吹き飛ばした。
その消えた煙の中から、跳躍力のあるギルが突っ込んでくる。
「ヒャッホー!女を寄越せぇえ」
「させない!奴を止めるんだ」
アルが海蛇に指示を出し、長い体がギルを素早く巻き取った。
「うっ……。放しやがれぇ。苦し……。ぐっああああ!」
巻き付いた体は容赦なく締め付け、体の自由と呼吸を奪う。
そのままゴキボキと嫌な音を立て、ギルが白目を向いて力を失った。
「……っうー」
聞きたくない音に、レティがリックの服を握りしめてしがみつく。
「ギル!」
意識のない体が床に落とされ、ウィルが表情を歪めた。
「俺を降ろしてくれ」
鳳凰がゆっくりステージに降りた。
「アル!レティを頼めるか?」
「分かった」
途中でレティをアルに引き渡す。
「リック様!」
「大丈夫だ。今回はもう終わりにする。帰ろうな」
心配をそうにこちらを見る彼女。くしゃくしゃと頭を撫で、リックが下に降り立った。
「レティアーナ、大丈夫だよ。リックは俺よりもずっと強い。負けないよ」
海蛇の頭から落ちないようレティを支え、アルが言った。
「彼のこの戦いの最後を見届けよう」
「はい」
レティは指を組み合わせ、目を閉じた。
華奢な体の周りにあった光がまたランダムに発光を始め出した。




