呼び覚まされる新たな契約5
ウィルがゆっくり歩いてきて、上半身を起こしたリックの頭を掴んで床に倒した。
「獏!悪夢だ!」
獏が高い声を上げ、モヤモヤとした灰色の煙を出す。その煙がリックの体を縄のように取り巻いていく。
ドクンと心臓が鳴ったと思ったらリックの目に映る景色が二重になり、そして普通に見えるようになった。
ところが、信じられないものが目に入った。
「レティ……?」
リックの側にレティが歩いてきた。彼女はリックの側に膝を着いて微笑む。
『リック様?リック様が守ってくれないから、私こんな姿になっちゃいました』
レティの胸にジワリと血が広がる。リックは目を見開いた。
「レティ!」
『痛いんです。とても……』
胸に手を当て、白い手が赤く染まる。
『だから……リック様も……一緒に痛がって下さい……?』
血塗れの手に現れた短剣。
それを両手で握りしめ、レティは封印されたリックの目を貫いた。
「うぁあああっっ!!」
場内にリックの声が響き渡る。リックを見守る全員何が起こったか、よく分からずにいた。
「リック様……?」
拘束されたままのレティも、戸惑いの声を出した。
目を押さえて呻くリックだが、外傷はない。
だが。リックの目には次々と凄惨な出来事が映る。
『レティアーナ。傷が浅いぞ。もう少し深く貫いてやったらどうだ?』
レティの後ろから覗き込むようにしたディノスが言った。
『そうですか?じゃあもう少し力を入れます』
レティは再度剣を振り上げ、今度は肩を貫いた。抜いては刺しを繰り返す。
「やめろっ!ぐああぁあああっ!」
リックは呻いて悲痛な声を上げる。
それなのにレティが刺した剣の柄を、ディノスが踏みつけた。
『レティアーナ、よく見てろ。こうするんだ』
剣が深く突き刺さった。リックの声が大きくなる。
その様子を見て、ウィルはほくそ笑んだ。
「フッ……。守ろうとした女に傷つけられたか」
「どういうことだ……?」
妙な表情でリックを見ていたアルの呟きに、ギルが高く笑いを上げて答える。
「ヒャァッハハハァ!あいつ獏の悪夢を見せられてんだよ。幻覚で脳の痛覚や精神に訴えかけて、傷つけられんだ。廃人にされんぞぉお。もうお仕舞いだなぁっ」
それからギルはアルに言った。
「俺たちもそろそろ終演にするかぁ?んー? 」
二つの短剣が振り上げられ、滅茶苦茶につき出された。
片膝を着いて立ち上がってもいないアルは、腕を交差させて防御したが代わりに傷だらけになった。
「うっああ!」
攻撃が止まったら、今度はリックのように足で蹴られて床に倒れてしまう。
即座に起き上がろうとたが、ズキリと腕の傷が悲鳴を上げて行動が遅れてしまった。




