呼び覚まされる新たな契約2
「ここはカルロ様の部屋だが、……すまない。外れたようだ。気配がない。次を当たろう」
またサルディが足を進めた。
「そういえばアレックスが今朝、従者と一緒にカルロが部屋を出たのを見たらしい。それから戻ってないということか」
「そんなに明るい部屋じゃなかったわよ。カルロがいたの。貴方も見たでしょう、ディノス?処刑場の画面に映ってたあいつの周り、ちょっと薄暗かったような……」
「確かに……」
ユーシュテの言葉に反応し、前を歩くサルディの足が止まった。
「処刑場!?あの場所は三代前の国王陛下が、二度と使用しないようにと開かずの間にしてしまったはず……」
「鍵は開けられて、扉の鎖が無理矢理切られてたようだぞ」
階段へ続く扉を思い出しながら、ディノスが言った。
「何ということだ……。国王夫妻と王家の血を引くものしか、あの場所を開ける鍵の場所は知らされなかったはず。そうか、それでカルロ殿下を利用したのか……。だとしたら、こっちだ」
今来た道の逆を急に辿り始め、ディノスもサルディについていった。そして走りながら訊ねた。
「そもそも、刑務所でもない王城に、何故処刑場などという物騒なものがある?」
「今のこの国も、かつては最悪と言われる悪政の時代があったらしい。国王は自分の気に入らない者を次々と処刑して、その様子を見て悦ぶというとんでもない奴。それが四代前で、父のあまりの暴君ぶりを見かねた息子、――つまり三代前の国王が反旗を翻して戦い、勝って収まったそうだ」
サルディはエレベータの前で止まり、ボタンを押してドアを開いた。三人が乗り込んだエレベータは上へと上がる。
四階でドアが開いた。出たら少し先の正面が巨大な扉だった。
そこが開け放たれ、金で縁取られたベルベット出来た深紅のカーペットが敷かれている。
「あそこが謁見の間だ。かつてはあそこで王に裁かれた者が、強制的に処刑場へ連れていかれた」
「じゃあ、国王が処刑を見るのに使った道が、謁見の間にあるっていうのね?」
「そうだ。恐らくだがそこを探せば……」
その時聞き慣れた大きな声が、謁見の間の方から聞こえてきた。
『な、何なのだ!?』
謁見の間に飛び込むと、二つ並んだ王座が半壊し、周りの幕が落ちて後ろの壁が剥き出しになっていた。
そこが何者かの力で崩され、現れた部屋の機械の上に突っ伏するカルロと、一つの大きな画面があった。
画面には、闘技場でも処刑場でもあった地下が映っている。
「カルロ殿下!」
サルディがカルロの肩を引っ張って、自分の腕の上で仰向けに起こす。
脈と顔の前に翳した手で呼吸を確認し、息を吐く。
「辛うじて生きてはいるか……」
ブラリと垂れたカルロの手から光るものが落ち、ユーシュテがディノスから飛び降りて胸に抱えるようにそれを拾う。
「ディノス、あったわ!」
しかし、ユーシュテに背を向けたディノスは画面を見ている。
「どういうことだ、ユース。敵が増えてる……」
三人が見たのは二人の敵に休む間もない攻撃を与えられ、押され気味になっているリックだった。
「早く戻りましょう!」
「ああ!」
ディノスはユーシュテを再び肩に乗せる。
「サルディ、感謝する。俺たちは一旦戻るが……」
「俺は確かめることが出来た。殿下を部屋に戻さねばならんし、後で会おう」
「そうか。では後で」
「ディノス殿」
別れようとしたディノスをサルディが呼び止めた。振り帰ったら、彼が頭を下げた。
「どうか、アレックス殿下を頼む」
「分かった」
ディノスは返事をして先に部屋を飛び出した。




