呼び覚まされる新たな契約
ディノスは城の通路に出て移動をしていたが、どれだけ進んでも人にすれ違わない。
肩に座っていたユーシュテが、ため息をついた。
「うちの皆が入ってきちゃったから、驚いてどっか逃げたのかもね……」
「そうだな」
「どうするの?あの王子の居場所が聞けなくってよ。無闇に探すには広すぎるわ。金髪王子を呼びに戻る?」
「いや……。アレックスにはあの場にいてもらった方がいい。リックやレティアーナに何かあったとき、彼なら助けになるはずだ」
「あぁーん。それならあたしたちはどうなるのよーう」
ユーシュテは子どものように足をバタつかせた。
そして歩いていたとき、通り過ぎた視界に人が映って立ち止まった。
角に隠れ、壁に背と片足をつけて腕組みをしている。
「!」
(全然気配を感じなかった!何者!?)
ディノスもユーシュテも、心で同時に同じことを思った。
「貴殿、今『アレックス』と口にしたか?」
「……」
瞬時に変わったディノスの雰囲気を宥めるように、目の前の男が言う。
「警戒しなくていい。俺はサルディ。アレックス殿下の母君が幼少の頃から護衛を勤めている、しがない兵だ」
ディノスとユーシュテは顔を見合わせた。
「女王陛下の側にいなくていいのか?」
「彼女はもう女王ではない。前国王が崩御し、ジェラルド国王陛下が誕生したときに降りられた。彼女から仰せつかっている。アレックス殿下とその友人の助けになれと。貴殿がそうなのか?」
「……そうだ。アレックスの友人ディノスだ」
サルディを信じるに値すると判断したディノスは、肩の力を抜いて答えた。
「カルロの居場所を探している。それが俺の役割だ」
「承知した。思い当たる場所を案内しよう」
サルディは頷き、壁から背を離して先に歩き出した。
「サルディ。この城のことに詳しいか?」
ディノスが問い、サルディは頭を緩く振った。
「いや。造りならある程度分かるが、城内の状況のことなら今はそこまで把握できていない。離宮に籠りきりだからな……」
「そうか」
「だがそんな俺でも気づくことがある。ジェラルド国王陛下は、ここ最近ずっと姿をお見掛けしていない。アレックス殿下には、護衛という名の元の監視が付き纏うようになった」
「やはり。この騒ぎに国王が出てこないのは、そういうことか……」
ふむ、とディノスは納得の声を出した。
「何処かに閉じ込められているか、あるいは……」
「アレックスはともかく、息子はおかしいと思わないのか?」
「アレックス殿下の話によれば、カルロ様は陛下が公務で出掛けているものだと信じているらしい。だが、離宮に離れている俺がおかしいと思うくらいだ。城内で働く者達は、もっと何かを感じているだろう。徐々に変化を始めたのは、やはりカルロ様に従者がついてからだ」
「奴はなかなかの手練れでは有りそうだったが、何が目的だ……?」
「わからん。ただ、陛下のいない今の事態は、アレックス殿下やカルロ殿下にとって、最大の試練となるだろう。……着いたぞ」
サルディが少し大きな扉の前で足を止めた。開けようとして手を止め、暫くして下げた。




