従者の正体5
見ていたクルーやアルは、何事かとざわつく。高い位置にいたレティは、正体にいち早く気がついた。
「リック様!上ですっ!」
レティの声と同時に、殺気の気配に気づいたリックは上を見た。
「うらうらうらうら!ヒャッハァアッ!」
交差した両方の手に短剣を持った男が上から突っ込んでくる。
リックの頭上にいた鳳凰が切り裂かれ、風と羽根になって飛び散った。
リックは剣を盾代わりにして、二つの刃先を受け止めた。
二人の頭上で風が集まり、また鳳凰になる。
「風は刃物じゃ切れねぇってか?流石、お前もあの鳥も強ぇえなぁあっ?たまんねぇーぜ」
「お前は何だ……っ」
舌なめずりをする品の無さそうな男に、リックは険しい顔をして問う。
すると前方から声がかかった。
「人の話を遮るなといつも言っているだろう、ギル」
あちこちダメージを受けた黒いジーンズに袖を肩まで捲ったシャツ、立てられた黄色い髪という身だしなみも悪い彼は、舌打ちをしてリックから離れた。
「るっせぇー!ウィル、てめぇばっか表で目立ってんじゃねぇよ!」
仲間割れのようなやり取りに、リックはどう動くかを計りかねて様子を見た。
「あんな強くて殺り甲斐のありそうな獲物を前にして、黙って待ってろってのはなしだろぉお!お前がなんと言おうと、俺はアイツを殺ぉおおすッ!」
「待てっ!一対二なんて勝負になるか!卑怯だぞ!」
アルが客席から身を乗り出して叫んだ。
「外野がギャーギャーうるせぇなーぁ!いいか。こいつがウィル、俺がギル。合わせてウィルギル。全力で戦えって豚の命令は、俺にも下されてんだよ。卑怯じゃねー」
ギルは耳に指を入れて、抜いた指についていたごみに息を吹き掛けて飛ばした。
その後、自分と相方に親指を向ける。
「わかったら指を加えて大人しくしてな。あと、ウィル。いつまでデブタと小芝居やってんだぁあ!?もういいだろ。気色悪りぃんだよ」
「……確かに」
ウィルの方が片手を上に上げた。
「カルロはもう必要ないな」
合わさった中指と親指が擦れ、パチンと音を立てた。
獏の目が光り、体から黒い霧が出た。
『な、何なのだっ!?』
大画面の向こうで、獏と同じようにカルロの体から黒い霧が出た。
『ボクチンの体から何か……』
兵士の体に入り込んでいた黒い影が、カルロの胸からも飛び出した。
同時にカルロは半目になってふらつき、前のめりになる。
『出たのだ……』
ガンッ!丸々した体が画面に衝突した直後に、ブツリと音を立てて映像が絶たれた。
「やっとうるせぇ豚がいなくなったか」
その場にいた全員が、今の光景を信じられないというように見ていた。
「あれはまさか……!カルロは操られていたのか?」
「あんな頭の悪くて度胸もないデブに、今回のこと全てが計画できるわけねぇだろうがよ?」
リックの疑問にギルが笑いながら答えた。
「第二王子は何考えてるかわからんが頭が切れそうだったから、あの豚を人形として利用するためになぁ!全部操ったら周りにもバレちまうから、半分だけ獏の力で良いように扱わせてもらったぜ」
「一体……何が目的だ!?レティじゃないな!?」
「レティ!?んあー、あの捕まってるお嬢ちゃん?」
ギルは親指を後ろにいるレティに向けた。




