従者の正体4
一方、戦闘のステージには、リックとカルロの従者ウィルギルだけが残された。
離れた位置でお互い向かい合う。
「考え直すなら今だ。俺と戦えば後悔するぞ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
ウィルギルの言葉には全く動じず、リックは鞘から長剣を抜いた。
『ウィルギル!全力でかかるのだー!』
安全な場所から見ているカルロが命令を下す。
『見ているあの女の心が壊れるくらい、圧倒的な力でズタボロに負かすのだ!』
「御意」
ウィルギルも剣を抜いた。
『やれーなのだーぁっっ!』
カルロの声が場内に響き渡り、戦いの火蓋が切られた。
ウィルギルは、鎧を着ていると思わせないほど俊敏な動きでこちらに向かってきた。
瞬きした瞬間に、剣同士の交わる金属質な音が響く。
(側近の護衛兵だけあって、流石に重いな)
互いに一歩も譲らずに押し合う。
「俺の剣に数秒でも堪えるとはやるな」
「フン。これでも集団率いてんだ。舐めんじゃ……ねぇよ!」
リックは足元から外に向かって風を放った。
それに気づいたウィルギルは、後ろに飛び退いて距離をとる。
その隙にリックは左目にいつもしている眼帯を外し、捨てた。
瞳の中に出た魔法陣と同じ模様の大きな魔法陣が現れ、目から翠の風が出て大きな鳥の姿になった。
「鳳凰……降臨!!!」
リックの頭上で高い鳴き声を放ち、鳳凰が翼をはためかせる。
「あれが……鳳凰……。あれがリック様の力……」
レティは美しく大きな鳥を凝視した。
そして少し前のリックの言葉を思い出す。鳳凰を知らなかったレティに、彼は言った。
『幻の怪鳥だ。運が良ければ……そのうち見られるかな』
船の大浴場に鳳凰の石像があったのも、リックの言葉も今になって意味が分かった。
鳳凰を目にして、ウィルギルが笑った。
「成る程。特級の契約者だったか。だが……」
ウィルギルの髪が揺れ、額に魔法陣が現れた。
「何も契約者はお前だけではあるまい」
リックのように足元にも同じ模様の魔法陣が描かれ、ウィルギルの影が歪んでインクのように円を真っ黒に染めた。
そこから霧のようなものが吹き出す。
「出でよ、下僕!夢魔・獏!!」
黒い霧は、赤い目をした狂暴そうな獏に変わった。
前足を上げて、見た目に似合わない高くて短く――可愛らしい声を上げる。
「お前の鳳凰よりは階級が下の上級だが――」
「もぉぉぉうっ!我慢できねぇえええっ!」
ウィルギルの言葉を大きな声が遮った。




