従者の正体3
『人の話は良く聞くのだ、ケッケー。お前たちには、ボクチンの武器であり盾でもあるその男ウィルギルと戦ってもらうのだぁ。結局ボクチンの持つ力には変わりないので、約束を違えたことにはならないはずなのだー』
画面の向こうで舌を出し、目の下を指で引っ張ってカルロが笑った。
アルが苦々しく唇を噛んで怒りを堪える。
「レティはどこにいる!?」
リックが訊ねたその時、通路が騒がしくなったと思ったらクルーが押し寄せるように入ってきた。
「船長!」
「キャプテン!」
急に増えた人数に、カルロが驚く。
『なっ、あの兵の数を倒して来たと言うのか?筋肉バカなだけでなく、ゴキブリみたいにしつこいやつらなのだ!!』
その暴言に、クルーが騒ぎだす。
「子豚に言われたくねぇ!」
一人の叫びに、そうだそうだと親指を下に向けてのブーイングの嵐。
『だぁーまぁーれーぃっ!なのだ!お前たちは自分たちの立場が分かってないのだ!こっちには、この娘の命が有ることを忘れるでないのだッッ!』
画面の向こうでカルロが何かを叩き、闘技場が揺れて地響きがする。
『ボクチンを怒らせたバカな娘はここなのだーぁ!!』
観客席と観客席の間の床が開き、ゴゴゴという重い音を立てて下から石のプレートが出てきた。
石のプレートに十字架の模様が彫られ、そこに磔にされるような格好でレティが拘束されている。
両手首それぞれと揃えられた足は、鉄のベルトと鎖の枷でガッチリ固められていた。
「レティ!!」
「レティアーナ!」
リックとアルが叫ぶ。あまりの酷い見せしめのような格好に、クルー達が戸惑いを見せる。
「まずいぞ……。あの高さではこの位置から降ろせん」
ディノスが険しい顔をする。
『残念ながら、その娘の拘束は鍵がないと開けられない。勝負して勝てば渡してやるのだぁ』
カルロの勝ち誇った言葉に挑発され、クルーが口々に勝手な野次を叫ぶ。
「静かにしろォ!バカタレ共!」
料理長が腕を組んで大声を出し、クルーを一喝した。
「レティアーナの命がかかってるんだ。全員迂闊に動くんじゃない……!」
静まったところにディノスが釘を刺した。今までの騒ぎのせいか、レティの瞼が動いた。
「んっ、ん……」
藍の瞳が姿を見せる。レティの位置からは、闘技場のステージが良く見えた。
その中心に、アルともう一人、待っていた人物の姿。
「リ……リック様……」
「レティ」
二人の視線が絡み合う。
「リック様、ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」
城へ行くと言わなければよかった。
みんなやリックを守るために、カルロの求婚を受けておけばよかったのかもしれない。
だけど帰りたかった。リックの元に。どうしても。
自力で帰る力も無いのに、心を偽ることができなかった。
(バカだって言われてもしょうがないわ)
今更自分の選んだ選択肢に挫けそうになるレティだったが、リックは笑って言った。
「レティ、よく戦った。気持ちはちゃんと伝わってる。レティの戦いは俺が引き継ぐ!一緒に帰ろう」
「リック様……っ」
心が温かくなり、力が溢れる。
(だから貴方の元を離れられない。貴方がいるから、貴方を思えば強くいられる)
レティは頷いた。
「はい……っ!」
リックはレティに背を見せてクルーの方を向いた。
「全員客席に上がれ!これは俺の引き受けた戦いだ。誰一人手を出すんじゃない」
指示に従い、クルーは客席に移動をする。
「リック」
「アル、大丈夫だ。この場は任せてくれ」
「分かった……。負けるなよ」
「ああ」
ノックするようにアルと拳を合わせ、アルもステージから降りた。
クルーの上げる応援の声に紛れ、ディノスは靴音を立てないように気を付けながら闘技場からそっと離れた。
ユーシュテが肩の上で声を潜める。
「あの王子と鍵を探しに行くのね」
「そうだ。リックが本領を発揮するためには、レティアーナを先に解放した方がいい。今のままだと盾にされる可能性がある」
「そうね。手に入れたら、あたしがレティの鍵を開けるわ。あたしなら小さくて見つかりにくいもの」
「頼む」




