従者の正体2
「分かった。任せるぞ」
「了解!」
「戦闘開始だ!」
リックが剣を抜いて声を上げ、クルーが兵との戦いになった。
「アル!」
「こっちへ!」
向かってくる兵を倒しながら、アルの誘導にリックとディノスがついていく。
痛覚は麻痺しているようなので厄介だが、兵が倒れて意識を失ってしまえば黒い影が体から出て塵のように消え去る。
そうすると立ち上がらないようだ。
「まともに戦うな!兵の意識を落とせ!」
それに気づいたディノスが足を止めてクルーに声をかけ、それから再び走ってリックを追った。
城の中に入り、驚いて悲鳴をあげるメイドの間を走り抜ける。
「昔、王宮の地下で、兵が腕試しに試合をしていたところが有るんだ。その後に使われなくなって、一時期重大な罪を犯した犯罪者の処刑に使われるようになった場所だ。俺の曾祖父が、そこを使えないようにしたはずなんだけど……」
「そこをあの子豚がまた開けて、戦いの場に利用しようってことなんだな?」
「ああ」
城の奥の鉄で出来た扉の鎖が壊されており、風の音が聞こえていた。
「ここだ。結構狭いし足元暗いから気を付けて」
アルは重い扉を押した。
確かに下へ続く階段は人一人が通れる程の幅しかなさそうだったので、リックは剣を鞘に戻した。
「一応蝋燭はついてるのね」
螺旋の道にユーシュテの声が響いた。
「だが足元が辛うじて見える感じだな」
「階段はそう長くない。もう着くよ。ほら」
ディノスの言葉を背後で聞きながら、先頭のアルが前方を指で示した。
階段を降りきった先が通路になっており、その先に開いた状態になっている扉があった。
扉の向こうが広くなっているようだ。
闘技場にされていただけあり、円になった床の周りに少し高めの壁、そこが観覧席になっているらしかった。
今までの道と同じように全て石で出来ているために、地下に位置するここは少し冷える。
天井のライトに照らされた床の中心辺りに、大きな男の背中があった。
「来たか……」
従者が気づいてこちらを向く。
限り無く黒に近いグレーの髪の間から、猛禽類のような鋭い黄色の目が此方を捉える。
「カルロがいない!?」
勝負を仕掛けてきたカルロ自身がいないとは、どう言うことだろう。
アルのそんな言葉をどこから聞いたのか、声だけが響き渡った。
『ケーッケケケ!ボクチンはここなのだ!』
壁に埋め込まれた画面が起動され、悪どい表情をしたカルロの顔が大きく映った。
『ボクチン自ら戦うなんて、一言も言ってないのだ!』
「どういうことだ!」
アルが画面に向かって叫ぶ。




