従者の正体
「なぜ私がここにいるのかと思っているだろうな……」
「あっ、はい」
奥から聞こえる低く掠れた声に言われ、レティは頷いた。
「私を閉じ込めたのは、息子カルロの護衛をしていた従者だ」
影のように暗くて大きな男が、カルロの近くに控えていた。
レティの首を絞めたのも、そして恐らくここへ連れてきたのもその男に違いない。
「あの方は一体……」
「目的はわからん。雇ったのは私だが、……おかしいと気づいたときには遅かった。奴の罠によってここに閉じ込められ、今は……恐らく何も知らないカルロを餌にして、何かを企んでいるのだろう……」
ここまで話し、国王は咳き込んだ。
見えないとわかっているのに、咄嗟に鉄格子の向こうを見てしまう。
「大丈夫ですか?」
「ああ……。病ではないから大丈夫だ。そなたは女性であるな?なぜこのような場所にいる?」
「それがその……。カルロ様の結婚の申し込みをお断りしてしまいまして。処刑をすると」
実の父親に言いにくかったが、説明をした。
はあーと長いため息が聞こえた。
「それは申し訳ない。あの子を甘やかしすぎ、国のことも分からずに癇癪ばかり起こす……あのような我が儘な育ち方をしてしまった。それでも処刑など思いつくとは思えない。前もって、従者から入れ知恵がされていたのかもしれん。あやつめ、何が目的だ……?」
話の途中で、石の壁に響く足音が聞こえた。レティも国王も話を止める。
ゆっくり降りてくる足音は大きくなり、ついに止まった。
黒いシルエットがレティの鉄格子の前で止まる。
「時間だ」
鍵が開き、男が入ってくる。レティが後退りする前に腕を捕まれ引っ張られた。
「きゃっ!」
そして男がスタンガンを取りだし、レティの胸元に押し当てた。
「ああっ……!」
ビクンと体が反応し、直後に床に崩れる。従者はレティを抱えあげた。
「何をしているのだ!その娘に乱暴するでない!」
「国王は今まで通り、ここで大人しくしていただければ良いのです。この娘を利用して、今まで入れなかった場所へ入る時が来た……」
「何が目的だ!」
「貴方に話す義務はない」
男はそれだけ言うと、レティだけを連れて来たときの逆の道を辿った。
翌日の早朝。リックを先頭にして、クルーがぞろぞろと街を移動した。
殆どの店も開店前で人はまばらだったが、僅かにいた人々もただならぬ気配を感じ取って、建物や物陰に潜んで様子を伺っているようだ。
広場の噴水の所まで来ると、水の向こうに揺らめくシルエットがあった。
リックたちを確認して、金髪の青年が出てきた。
王子と呼ぶにふさわしい格好をして、腰には剣を下げている。
「来たか、アル」
「ああ。今朝早く、カルロが従者を連れて城の地下へ向かうのを確認した。城の外にいる兵はざっと千人てところかな。全数の動員ではないみたいだ。あとレティアーナはごめん、見つけられなかった」
「いや、十分だ。行こう」
リックとアルが揃って歩く。しばらくすると、城の門が見えてきた。
門番の兵が、迫る敵陣の中にアルを見つけて焦りだす。
「アレックス様!?」
「殿下!なぜそこに……」
一定の距離をもち、リックとアルは足を止めた。アルが王子らしく、声を張り上げる。
「全兵に告ぐ!我を見失った第一王子カルロを止める!我々に道を開けろ!!」
「し、しかし……」
カルロから外部の人間を中に入れるなと命が下っており、相反する指示に戸惑いを見せる。
その兵の足元を何か黒い影のようなものが動いた。
「!」
リックは剣の柄に手をかけた。その瞬間、兵の体にいくつもの小さな黒い影が入り込んで次々に倒れる。
そして倒れた兵の体が怪しく光り、次にフラフラと立ち上がったときは焦点の合わない目で剣を構えていた。
「みんな一体どうしたんだ!?」
「正気の目じゃない。あれは操られてるぞ。呪術かもしくは……」
「呪術?まさかあのカルロにそんな能力はないはず」
焦ったアルに、ディノスが敵を観察して推測を述べた。ディノスの肩から身を乗り出したユーシュテが叫ぶ。
「止めらんないの?どうするの?リチャード!」
「ここで考えて時間をかけるわけにはいかない。何にせよ、戦うしかない!」
「船長、数なら数で対抗!ここは俺たちに任せて先へ!」
ジャンがリック達の前に立った。




