それぞれの戦いと迫る危機4
(レティ……!)
リックは歯軋りをした。
「これはあの娘自ら選んだ道なのだ。今頃地下牢で、怯え泣いているに違いない。ケーケケケ」
「許さない……。お前をここで消す!」
リックの足元を風が僅かに吹く。それに気づいた従者が再び斬りかかってきた。
リックは腕で剣の柄を妨害して動きを止める。
従者の後ろから、カルロが言う。
「どいつもこいつも命知らずなのだ!そんなにあの娘の命が大事なら、それをかけて闘ってみるが良いのだ!お前が負ければ、あの娘とお前ら二人を反逆罪で仲良く処刑してやるのだ」
「望むところだ……」
リックは従者と押し合いを続けながら、笑って答えた。
「明日午前十時、城の地下にある処刑場に来るが良いのだ。ケッケッケ」
カルロは笑いながら去り、姿が見えなくなってから従者も素早く離れて姿を消した。
ディノスとユーシュテが街を巡り、休暇を楽しんでいたクルーを見つけられるだけ見つけて船に集めていた頃、時は夕方にかかろうとしていた。
「お嬢ちゃんはうちの大事な家族だ。無理矢理手込めにするような暴君には渡せねぇよ!」
料理長のジャンを始め、仲間が戦闘準備に息巻いていた時、ディノスが二回目の便りを放ったカモメが戻ってきた。
船の縁に留まり、じっとしている。
ディノスが筒を開けてみたら、自分の便りがそのまま入っていた。
「レティアーナの返事がない?これは一体……。部屋を移されたのか?」
届け先が分からず、カモメが戻ってきたことに戸惑っていれば、仲間がざわつき始めた。
「船長!」
「リチャードさん!」
「船長が帰ってきた!」
昨日出掛けたときの服装のまま、リックがゆっくりした足取りで夕日照らす石畳の道を戻ってくる。
だが、レティを連れていない。ディノスとユーシュテは眉間を寄せて、険しい顔をした。
甲板に上がってきたリックを見て、ユーシュテが問う。
「リチャード!レティは?」
「少し待ってくれ……」
それだけを言うとリックは船内に入る。
少ししていつもと変わらないシャツ、ジーンズ、ブーツを身につけて戻ってきた。
トレードマークの深紅のロングジャケットに袖を通し、集まったクルーの前に立った。
「レティが暴君の王子に幽閉された。彼女なりに戦ったが力及ばず、このままだと明日に命を奪われる。俺たちはそれを見過ごすわけにはいかない。相手が国であろうと同じ賊であろうと、何者であるかは関係ない。ここが彼女の家だ。帰りを望む限り、どんな手段を使っても全力で連れ戻す!」
クルーの士気が上がり、声が空を揺らした。
「明日の九時、城を攻める」
甲板が騒がしくなる中、ディノスが訊ねた。
「アレックスはどうした?」
「アルには、動いている兵の数と配置をできるだけ把握しておくように頼んだ。あと期待はしていないが、レティの居場所も探してもらっている」
「そうか」
「明日が大詰めだ」
リックは腕を組んで、遠くに小さくそびえる城を見つめた。
「レティ、戦ったのね」
ユーシュテもディノスと反対側のリックの隣へ移動した。
「武力で戦えはしないが、レティなりにレティらしい方法で戦った」
「あの子もやっと海賊らしくなってきたのかしら?」
「どうだかな。海賊らしくなくて良いんだ、レティは。ある意味それがレティの役割だと思ってる」
海賊らしさを感じさせない。染まらない。
だからこそ伸び伸びとして場を和ませるような、誰にも成し得ないことができるのだ。
そしてその心は優しく他人の心に浸透していく。
「それもそうね……」
船の縁に腰を掛けて、ユーシュテも体を少し捻ってリックと同じように城を見つめた。




