それぞれの戦いと迫る危機3
『女官の服装なら怪しまれずに城内を歩き回れる』
護身兵サルディの助言通り、再び兵の目を盗んで城に入り、女官の更衣室の予備から二着を拝借した。
少し肩幅が狭かったが、そこは我慢だ。
そこから掃除道具も一式持ってきて、銀の台車に乗せて運びながら各階の部屋を見て回る。
リックもアルも、使用人との鉢合わせを気遣いながら、かなりの部屋を開けて回った。
それなのに、レティのいる部屋は見つからない
「……なのだ!」
その時、近くの階段を降りてくる音と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「こっちに来るぞ!」
「リック、ここの部屋に入ろう」
立っていたすぐ側の部屋に二人入り込み、隙間から様子を伺いつつ聞き耳を立てる。
「まったくあの平民の娘、どう言った頭をしているのだ?国も宝石も欲しいものは何でも手に入れられると言うのに、何も欲しくないなんて」
カルロが憤慨しながら階段からピョンと降りた。
「ボクチンの好意を無下にするなんて、大バカ者なのだ。自らの愚かさを身を持って知るといいのだ!」
「仰る通りです。素直になればいいものを……」
カルロの後ろを恐ろしく大きな男がついて歩いていた。
「強情な女など可愛いげのない……」
「もう良いのだ。美しい歌声ではあったが……。あの平民の娘はどのみち処刑なのだ。あの声で恐怖の歌を歌いながら、後悔して悶え死ぬが良いのだ!ケケケ」
(何!?)
一瞬にしてリックの形相が変わる。
「待て、リック!」
アルが止めようとしたが間に合わなかった。
ガンッ!扉を蹴り上げて、リックが飛び出す。仕方なくアルもその後に部屋から出る。
カルロの笑いが途切れ、従者と一緒に立ち止まった。
「今の話……どう言うことだ!?」
「に、女官ごときが一体何なのだ!?」
リックと目を合わせたカルロが一瞬怯む。
「カルロ殿下、こいつは女官ではありません!」
控えていた従者が剣を抜き、リックに襲い掛かってきた。
リックは従者の腕をいなして軽々避けたが、ウィッグが切っ先に引っ掛かり床に落ちてしまった。
現れた顔を見たカルロが指を向ける。
「お前は昨日の……!」
「それだけではありません、殿下。あの珍しいアメシストの瞳。そちらはアレックス殿下ですな!」
「……」
従者に見破られ、アルも黙って自らのウィッグを取り払った。
「おのれぇ……!アレックス!お前、王族で有りながら賊と手を組むとは嘆かわしい!その上二人して女に変装してまで潜り込むとは、悪趣味にも程があるのだ!」
「お前に言われたくねぇ!」
右手で空を切り、リックが叫ぶ。
「カルロ兄さんこそ、王族なら弱き者を守るべきだ!横暴を働くなど、あってはならないことだとは思わないんですか!」
「黙れ黙れ黙れなのだ!」
カルロが足を踏み鳴らして怒鳴った。
「ボクチンは悪くない!」
「いい加減にしろ!レティがお前に何をしたと言うんだ!」
「あの娘は、あの娘は……」
カルロの目が鋭くなり、憎々しげにいい放つ。
『申し訳ありません。王子様のご期待に沿うことはできません……』
結婚か死か。選択を迫られ床に膝を着いたレティは、胸の前で両手を組み合わせてこう答えたのだ。
『死ぬのは怖いです。けど、あの方を裏切って、嫌われたり悲しませたりすることはどうしてもできないから』
怯え震えながらも瞳には清く強い光を込めて、レティはカルロを真っ直ぐ見つめていた。
『死んでも良いと言うのだな!?それなら望み通りにしてやるのだ!』
その後、カルロの声を聞いて部屋に入ってきた従者に床で首を締め上げられ、もがいても抵抗しても敵わずにレティは気を失ってしまった。
『手を放すのだ。ここで殺してはつまらないのだ。地下牢に放り込んでおくのだ!』




