それぞれの戦いと迫る危機
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
窓にコツコツと何かがぶつかる音がして、目を覚ました。
レティが顔を上げると窓にカモメが留まっている。
(リック様から頂いた子だわ!)
クローゼットからワンピース型のドレスを取り出して着替え、窓を開けた。
部屋に入ってきたカモメの足元に、筒がくくりつけられている。
中を開けたら巻かれた手紙が入っていた。
『リックと一緒に必ず迎えに行く。だから居る場所について分かることを教えてほしい』
そう細やかな字とディノスのサインがあった。
筆記用具を探すが見当たらない。周りを見回す。そもそもこの部屋には机がない。
「そうだ!」
レティは鏡台の引き出しを開けた。案の定化粧道具がある。
クローゼットにはハンカチもあったので、白いものを選んで口紅で書いた。
『左側に海や街、右は島の山が見えてます。見張りなのか、下はいつも兵士さんが居ます。窓は開きますが、ドアには鍵が掛かってます』
そう書いてハンカチを細く巻き、カモメの足に結んだ。
カモメはレティの肩に留まり、再び窓が開くのを待った。
「ディノス様のところへお願いね……」
窓を開けようとした時に、ドアに鍵を挿す音がした。
「!」
レティは慌てて窓を開け、カモメが飛び立つ。同時にドアが開いた。
「何をしているのだ!?」
メイドを引き連れてカルロが現れた。
レティは窓を閉め直し、カルロの方へ向く。
「今何を隠したのだ?」
「隠してないです。景色を見ていただけで」
「何が見えた?」
レティの横に立ち、カルロが身を乗り出した。
そしてまだそう遠く離れてないカモメの足に、風に靡く布を見つけた。
「あれはまさか……ポストシーガル!?」
レティはカルロから離れた。
「平民の娘……。お前、あれで外部とやり取りを!?」
「ち、違います!」
元々素直で嘘をつくのに慣れていないレティの表情を見て、カルロが嫌な笑いを浮かべる。
「ならばあの鳥を撃ち落として調べれば、わかることだ!」
「やっ!やめて下さい!あのカモメに罪はありません。殺さないで」
カルロの背中へ抱きついて、窓から引き離した。
「ならばお前には罪があると言うことか?やはりボクチンを騙そうとしたのだな」
レティの顔が青ざめて、少しずつ後退りを始める。
「一国の王子との結婚から逃げ出そうとするなんて、バカなのだ!しかしボクチンは優しいから選択をさせてやるのだ……」
レティに走り寄って手を引っ張る。
身長差で体が前のめりになり、レティは床に膝を着いた。細い左手を取り、カルロは言った。
「ボクチンと結婚を誓えば許してやらないでもないのだ。だが断るなら……」
カルロの口の端が吊り上がる。
「ボクチンに恥をかかせるなど、起こっていいわけがない。だから死ね。処刑してやるのだ」
無慈悲で勝手な言い分に、レティが息を飲んだ。




