婚約発表と新たな試練5
「わっ……、わわっ。きゃっ!」
ドサドサ……。レティはクッションと一緒に雪崩落ちた。
ドレスを脱ぎ、下着姿で平らに近いクッションを積み重ね、ベッドや椅子の高さを利用して登り、天井に手が届かないか挑戦しているのだ。
これで何度目の挑戦か。
本棚に本もあるのだが、すべて積み重ねてもクッションより嵩が足りなかったのだ。
鏡台に立っても天井が普通の部屋より高い。
窓だけは内側から開けられるのだが、下は庭の一部で兵士が頻繁にうろうろしていて掴まるのがオチだ。
何度も転げ落ちればたまに落ち所が悪く、擦りむいたり床にぶつけたりして多少体が痛んでいた。
そんなこんなで外は仄かに明るくなり、夜が更けようとしていることを告げている。
「ふぅー。他に良い方法は無いのかしら」
クッションにぐったりと体を預け、レティはうとうとしながら考えた。
ディノスは小さくなったユーシュテをポケットに入れ、身を低くして進んでいた。
案の定、城内で見つからなかったリック達を捜索し、兵士がうろうろとしている。
焦りは禁物だ。上手く目を盗んで移動をしていたが、気配に目ざとい兵士がライトをこちらに向けてきた。
素早く木の影に身を潜めるディノス。
「そこにいるのは誰だ!?出てこい」
どうするかを考えていると、ユーシュテがポケットから出た。
「あたしに任せて」
声を潜めて出る。大きくなるのに光が漏れないように、ディノスがジャケットを被せた。
ユーシュテはフラフラとよろめいて、兵士の前に膝と手を着いた。
「女!?何でこんなところに」
二人の兵士がユーシュテに近づき、ライトで照らす。
ユーシュテは片手を胸に当てた。
「お助けください……。パーティから逃げ出すときに、暴れていた賊と鉢合わせてしまい、足を傷つけられてしまったのです……」
顔を見られないように俯いて言う。兵士の一人は膝を着いた。
「どの辺を怪我した?痛むか?」
「足の……その、付け根の方を……」
患部を聞いて、真面目な兵士は伸ばしかけた手を引っ込めてしまう。
「この辺です。はぁんっ!とても痛くて。触って確かめてくださる?」
ユーシュテは色っぽい声を出してドレスをたくし上げ、肉付きのいい太股を見せた。
「ま、待て……」
兵士がドギマギしたのを見て、目を光らせて歯を見せてニヤリと微笑んだ。
添える程度だった兵士の手を地面に着かせ、ユーシュテは体を半転させた。
反動を利用したヒールの靴が肩を蹴り上げた。
鎧で大したダメージは出なかったが、不意打ちが効けば此方のものだ。
ディノスが飛び出し、体を反らした兵士を蹴り上げる。
もう一人の兵士が驚いて声も出せない内に、肘を頬にめり込ませて倒した。
「ドレスはやっぱり動きにくいわ。それにしても、えっらいウブな兵士だったわね……」
ユーシュテは、地面に触れたせいで汚れた手を払った。
「見事な色気作戦だったぞ、ユース」
「咄嗟よ咄嗟!あたしはお色気キャラじゃないんだからねっ」
「声が大きい!」
ディノスが咎めたと同時に、兵士の声が聞こえた。
「誰かいるのか?」
「ヤバっ!」
「走れ、ユース!」
二人とも兵士が来る前に、全速力で逃げ出した。




