婚約発表と新たな試練4
「レティアーナ……」
背後で呟くアルの声を聞いて、リックは彼の襟に掴みかかった。
会場からは兵士も引いてしまい、リック達だけが残されている。
「お前っ!これは一体どういうことなんだ!?レティはお前の気持ちを汲んで来たんだぞ!それを利用して誘拐するのか!?」
「ごめん……。確かに俺のせいだ」
「騙したんじゃないだろうな!?もしそうなら生かしちゃおかないぞ……!」
「落ち着け、リック!」
ディノスが間に入り、リックとアルの距離を開ける。
「あんたバカなの?リチャード」
見守っていたユーシュテが腕を組み、剣呑な視線を向ける。
「ここで怒鳴り散らしたって事は進まないわよ。レティを助けたいなら、他の方法があるでしょう?それでも船長なの?」
「船長?」
アルがユーシュテを見る。
「あら、ご存知なくって?あたしたち、海賊よ?」
「レティアーナも?」
「ええ。あれはまあ……、危機感も自覚も足りないぼやっとした箱入の海賊かしら?」
それを聞いたアルが吹き出した。
「確かにそうだなぁ……。彼女は海賊らしくない」
和んだ空気に、リックが舌打ちをして頭を軽く掻く。
「あーっ。悪かったよ。状況を整理しよう」
その言葉を聞いて、ユーシュテとディノスが笑い合った。
「海賊ならさ、奪われたものは奪い返せば解決じゃない?手段は問わないんだろうし」
「言われるまでもねーよ、アル」
リックが拳を出し、アルも同じようにしてぶつけた。
「俺の知ってることを話すよ」
アルが改めて三人に向き合った。
「その前に、とりあえずここを出よう。顔は割れてしまってるし、兵も体勢を整えて拘束しようとここに来るはずだ」
「そうだな。アレックスの言う通り、離れるのが無難だろう」
ディノスも頷いた。
「どこに行くんだ?」
「俺に任せて。着いてきてよ」
手を上げて、続くようにアルがリアクションした。
アルに案内され、ある部屋から壁に隠れていた仕掛け扉をくぐり抜け、裏道を通った。
多少広くなって話すのに不都合のない所で足を止めた。リックは問う。
「ここは何処だ?」
「ここは離宮に続いているんだ。元々体調を崩しがちで離宮にいる母を、父が仕事を抜け駆けて見舞うのに使ってた。さっきのは俺の部屋。公務の合間、俺のとこにも遊びに来たりしてたんだ」
「何でもありだな」
「まあね」
昔を懐かしむように笑ってから、アルは声に真剣さを取り戻した。
「本題に戻すけど、レティアーナの落ちたあの床、元々は城が襲われた時に王族が逃げられるように作った、ここと同じような隠れた裏道だ。今は戦争なんか滅多に起きないからどう改築されてるか、どこに繋がっているのかは不明だけど……」
「もう一度開けられないわけ?」
「俺があの子豚王子なら、開けられないように仕掛けを壊すか断つぞ」
「それもそうね。リチャードの言う通りか……」
ユーシュテはため息をついた。
「そしたらさーぁ?どうやって、居場所を探すの?」
「上手く行くか分からんが、怪しまれにくい方法がある……」
ディノスの一言で全員の視線が集まる。
「ここは海の近くだろう。そしてリック、お前はポストシーガルを買ったな?城の近くをカモメが飛んでいてもおかしくない。レティアーナとやり取りが出来るかはわからんが、動きを追えば居場所がつかめるかもしれん」
「その手があったか!」
リックが指をパチンと鳴らす。
「二手に別れ、一旦船に戻る。カモメを城に飛ばし、街にいる船員も集められるだけ集めて、陽動を起こせるようにしよう。細かな作戦はまた合流してからだ。いいな、リック?」
「それで構わない」
リックはディノスの作戦に了解を示した。
「戻るのは俺とユースで行こう」
「じゃあリックと俺は残って、逃げるルートや敵の様子を探る感じでいい?」
「問題ないな。じゃあ、検討を祈る」
リックが言い、ディノスとパシッと手を組む。
そこにアルも手を乗せ、ユーシュテも同じようにした。




