婚約発表と新たな試練3
「ひゃふっ!」
ばふっ!凄いスピードで落ちたレティは、柔らかいものに受け止められた。
体が沈んで起きにくかったが、何とか体を起こす。
ピンクが基調の部屋の中。
側にある薄いピンクの広いベッドはハート型で、ハートや星やキャンディの形のクッションに溢れていた。
その上にレティは落ちたらしい。天井を見たら、出口は当然ながら閉まっていた。
キラキラした鏡台もあるし、床にはテディベアやうさぎや猫のぬいぐるみが転がっている。
多少子どもっぽくはあるが、それでも女の子の喜びそうな部屋だった。
「ここ、どこかしら……」
「気に入ったのだ?」
声がして驚く。バコンと音がして天井が開き、紐にぶら下がったカルロが降りてきた。
彼が着地すると紐が上がり天井が閉まる。
「これはいつかボクチンの妃になる者へ与えようと、前もって作ったのだ。だから、これはみんなお前のものなのだ」
「私には勿体無いものです。受け取れません」
「気に入らないのだ?なら別の部屋を用意させるのだ。。何が好きなのか言ってみるのだ」
「そうじゃありません!」
レティはクッションに手を着き、カルロの方へ身を乗り出す。
「私、お慕いしている方がいるんです……。だから」
「それはまさかアル……アレックスか?」
急にカルロの表情が険しくなる。レティは頭を振って否定した。
「ならば関係ないのだ。今からボクチンを好きになれば、何の問題もないのだ。そうであろう?」
カルロに言われ、レティは戸惑いと悲しみを瞳に含めた。その表情を見て、焦り出す。
「なっ、泣かれるのは困るのだ」
カルロが短い手と足でクッションの山を登ってきた。そしてレティに手を伸ばす。
「!」
前回囚われたときに何をされたかが甦り、反射的に身を引いた。
すると、カルロが胡座をかいて姿勢を正す。
「怯えなくてもいいのだ。ボクチンは、婚前の女に手を出したりしないのだ」
レティは子豚のような王子のことを改めて見た。
(少し……優しい人なのかな……?)
「王子様、どうかお願いです。私をリック様の――仲間のいた元のところへ戻して頂けませんか?」
「それはムーリなーのだぁー」
ケケケと変わった笑いを上げて、カルロはレティの願いを聞き入れなかった。
「ボクチンも鬼じゃないから、心の整理をする暇くらいは与えてやるのだ。前の男はきれいサッパリ忘れておくのだぁー」
ピョンとベッドから降り、カルロはドアから出ていってしまった。
その直後に鍵のかけられる音がする。
レティは愕然とした。
つい先程まで、リックが触れてくれていた白いレースの手袋の嵌まった手を唇に寄せた。
(リック様……)
想うのは貴方のことばかり。
レティはため息をついた。それから、ある言葉を思い出した。
『リチャードを信じてあげて』
ユーシュテの言葉。
(そうだよね、ユースちゃん)
頭を振って悲しみを追い払った。いつまでも悲劇の主人公でいられない。
リックだって今頃レティを探そうとしているはずだ。
(私はリック様がきっと来てくれるって信じる)
だから例えこちらからは無理だとしても、脱出の方法を探す。レティは顔をあげた。




