婚約発表と新たな試練
演奏と重なるレティの歌が終わる頃、使用人達によってバイキングのテーブルは壁に寄せられ、室内に広い空間が出来ていた。
「ダンスだよ、レティアーナ」
「ダンスですか?」
「見に行くか、レティ」
二人と一緒に、会場の中に戻った。
そこに数人の貴族が男女のペアになり、観客の前に立っていた。それから。
レティはリックの腕を叩いた。レティの視線の先にはディノスとユーシュテがいる。
ディノスが腰を屈めてユーシュテに手を差し出す。
ユーシュテは調度空になった皿を側のテーブルに置き、ディノスの手を取った。二人が真ん中辺りに移動する。
「あいつ、ダンスなんて出来たのか……」
リックが顎に手を当て、感心したようにディノスを見る。するとアルが答えた。
「そんなに難しくないよ、スタンダードなワルツのステップはワンパターンだし」
演奏が始まり、ディノス達を含めたカップルが足並み揃えて踊り出した。
「ユースちゃん、綺麗。お姫様みたいだね……」
目を輝かせて二人を見るレティ。
その様子を目にした二人の紳士が同時に手を出した。
「お次は私と一曲お付き合いくださいますか?姫」
声を揃えたリックとアル。レティは戸惑って二人を見る。
「で、でも私、踊ったこととかないですし……」
「そんなの、俺だって同じだぞ?あいつらの動き見て何となく覚えたけどな」
リックが笑った。
「俺は分かるよ。息を合わせて、あとは男の誘導が上手ければ大丈夫だよ?」
アルも言ってくれたので、レティは頷いた。
自分に向く二つの手に、それぞれ軽く指先を乗せた。
「じゃあ少しだけ……、お願いします」
一曲が終わり、次に移る前にレティ達はダンスフロアに移動した。
二人同時にエスコートされるという珍しい状態、加えて第二王子が出たので観客がどよめく。
ディノスとユーシュテが少し横に退き、レティ達が真ん中になった。
二曲目が始まる。ワルツのメロディーに乗り、アルとリックの間を行ったり来たりするレティ。
慣れないせいで途中躓いたり、二人の靴を何度か踏んでしまったが、二人が気にする素振りを見せないで誘導し、支えてくれるお陰で上手く踊れた。
それを見て全く面白くないカルロ。
曲が終わらないうちに乗り込むほどの不躾さは持っていないので、一曲が終わるのを待った。
「はぁ……っ。思ったよりも結構運動になるんですね」
躍り終わり、拍手と歓声に包まれながらレティは胸を撫で下ろした。
「大丈夫か?レティ」
「はい」
リックに乱れた前髪を直してもらいながら息を整えるレティ。
反対に慣れていて呼吸の乱れていないアルは、娘達の歓声に手を振って応じている。
「なかなか上手じゃないの?」
肩を叩かれてそちらを見たら、ユーシュテがいた。
「ユースちゃんには敵わないよぉ」
二人で顔を見合わせて笑った。演奏者が最後の曲をと構えたとき、広間に大声が響いた。
「やめやめ!やめーなのだぁあっ!」
観客を押し退け、カルロが小走りにフロアへ来る。
「ダンスはここまでなのだぁっ!」
「……兄さん?」
アルが訝しげな表情でカルロを見た。いきなり挿された水に、会場は戸惑うばかり。
「マイクを持てなのだ!」
呆気にとられていた家臣が王子の声にハッとなり、マイクを持ってきて渡す。
それを乱暴に受けとり、話し始める。
『突然だが、ここでボクチンは婚約者を見つけた!』
今までの流れと全く違う話に一瞬ぽかんとした貴族達だったが、話を理解した若い娘達が騒ぎだした。
「まあ、どなた?私かしら?」
「私に決まってるわ!」
「私よっ!私が嫁いで王女になるのよ!」
「カルロ様!勿体ぶらないで、早く仰って!」
黄色い声がたくさん聞こえ、気を良くしたカルロはタプタプした腹を上に向けるように胸を張った。
「素敵なお話みたいですね、リック様」
「……そうか?」
レティの囁きに、リックは首を傾げる。
『それは……』
「それはっ!?」
娘達が身を乗り出し、カルロの言葉を反芻する。
カルロの手が上に上がり、そしてある一ヶ所を指差した。




