お姫様はだれのもの?5
「まあ、身の上話はこのくらいにして、会場に行こう?会場で楽しんでもらうことが、お礼だから」
アルに言われ、レティはまた二人に手を引かれて会場に入った。
アルが入ると、王子の登場で会場がざわついた。
「アレックス様よ!相変わらず何てお美しい……」
「ホント」
「もう一人素敵な殿方がいらっしゃるわ!」
「あの殿下と素敵な方の両方に手を引かれているご令嬢はどこの家の方?」
扇子の向こう側で、貴族の令嬢達のヒソヒソ話が交わされる。
あまりに広い会場にとても多くの人がいて、レティは慣れずに立ち止まってしまう。
反対にユーシュテは皿に料理を山盛りにし、パクパクと美味しそうに食べている。
「レティ、ここが居づらいならあそこに行くか?」
リックが空いているバルコニーを示したので、頷いた。
「行こう行こう!ここから見える庭も空も綺麗なんだよー」
レティはまた二人についてバルコニーへ出た。ちょうど給士が来て、トレーの上の飲み物を差し出した。
「殿下とご友人方、何かいかがですか?」
「頂くよ!」
アルはワインを取った。リックも同じものを取る。レティが迷っていると、給士が選択を手伝ってくれた。
「こちらのシャンパンはフルーティーでアルコールの度数も少なく、女性のお方でも飲み易いかと思われます」
「そしたら、それを頂きます……。ありがとうございます」
「素敵な夜を」
レティにグラスを持たせ、給士は下がった。
「何か軽い食べ物を取ってくる。アル、悪い虫がつかないように、ちゃんとレティを見とけよ」
「はいはい、分かったよ」
リックはバルコニーのテーブルに飲みかけのグラスを置いて、会場に入った。
くるりと体の向きを変えてバルコニーの柵に肘をつき、アルは笑う。
「彼って本当にレティアーナが大事なんだね。やっぱさ、二人はそういう関係なんだろ?」
「そういう……ですか?」
「恋人同士ってことー」
改めて言われると恥ずかしくて、レティは頬を染めてアルと同じように庭を見た。
それで十分答えになったらしい。
「やっぱりそうだよなぁ。分かっちゃいたけど失恋かぁー」
「失恋……ですか?」
「あれっ?分かんなかった?俺が昼間ついて回ってたのってレティアーナを気に入ったからだし、二人のデートを邪魔してたんだよ。もちろんわざと」
更にレティの顔が赤みを増した。
「ご、……ごめんなさい……」
「いいよ、謝られたいわけじゃないから。レティアーナみたいに、俺が王子であってもなくても優しくしてくれる女の子って珍しかったんだよ」
アルが手を伸ばし、レティの髪を指に巻き付けた。そしてそこに口づけを落とす。
「今からでも俺にしない?俺の姫になってよ」
紫の瞳に捕らえられて、ドキドキした。アルは好きだ。けど、その好きは……。
「わた……、私、やっぱり……その、リック様が……」
「だよねぇ」
アルはパッと手を放す。
するとリックが帰ってきてテーブルに皿を置き、アルにチョップをいれた。
「抜け駆けすんな。お前が悪い虫か。」
「あははー。ごめんごめん」
仕方がないこととはいえ、アルを傷つけてしまった。
笑うアルの横顔を切なげに見つめたら、気づいた彼が指を天に向ける。
「見て見て、レティアーナ。星空だよ」
上を向いたら、月のない空に星が白く光っていた。
「綺麗……」
うっとり見る景色に合わせたように、広間から音楽が聞こえてきた。
バイオリンとピアノのコントラスト。中が静まり、音がよく響いた。
聞いているうちにメロディーの一部を覚えたレティは、無意識にわかるところを口ずさんでいた。
レティの声を聞いたアルが目を丸くしてレティの背中を見つめる。
広間の中ではレティの歌声に気づいた他の客に混じり、第一王子カルロが少し高いところに設けられた椅子の上から、殆ど無いに近い首を動かして声を探していた。
「誰なのだ?この歌声は!」
椅子から立ち上がり、カーペットの敷かれた段を降りる。
「きゃああっ!カルロ様が降りていらしたわ!」
「カルロ様ー!」
「殿下ー!」
王子に嫁ぎたい若い娘達はカルロの周りに集まる。
いつもなら気分をよくするカルロだが、今日は完全無視だった。
娘の間を通って短い足で会場を歩き回る。
そして一際声の通る窓を見つけた。
外にはアルとリック、その間にアプリコットブラウンの髪を夜風に揺らし、薄黄緑のドレスで夜空を見ながら歌うレティの姿があった。
「あの娘は……そうか」
悪い顔をして、肩を揺らしてクックッと笑うのだった。




