お姫様はだれのもの?2
「……まあ、言いたいことは良く分かるわ。考えもね」
青いワンピースにフリフリのフリル付きのエプロンを纏ったポニーテールの後ろ姿が、腰に手を当てて言う。カツッとヒールが床とぶつかって鳴った。
「だからって、何で何度も何度もあたしたちがリチャードに付き合うわけ?」
「いやいや、どちらか一人だけついてきてくれれば良いって話だ。二人とは言ってない」
「同じことでしょーが!あたしとディノスの時間をわざと邪魔してんの?」
「今回はレティの為だぞ」
「……っ!」
ユーシュテが口をつぐむ。
「まあ、行かないわけにはいくまい。決めたら譲らないんだろう?」
「分かってるじゃねぇか」
部屋の主、落ち着いたディノスの言葉にリックが笑う。
「確かに俺たちの立場がバレれば、間違いなく兵に取り押さえられる。リックの戦闘力は問題がないとはいえ、レティアーナも城の中を無事に逃げ切って戻ることを想定した場合、リックだけでは人数が厳しいな」
「ディノス行くのぉ?」
「そうだな。街の人が話していたから、今日は何があるのかも大方わかるし……」
「何かあるんですか?」
レティの疑問にディノスは頷いた。
「パーティらしい。人は多いから紛れやすいが警備も多いだろうから、どっちもどっちだな。ユース、行けば城のシェフの料理が食えるかもしれんぞ?」
「ホント!?」
「食い意地か。」
リックの突っ込みに、二人がまた牙を向く。
「ユースちゃん、いつもごめんねぇ」
レティが手を合わせて謝ると、ユーシュテがポニーテールを払った。
「仕方ないわ。今回は食べ物――じゃなくて、あんたの為みたいだから付き合うわよ」
「今食べ物って思いきり言ったな。やっぱり食い気か。」
「黙んなさい!ついていってあげるんだから、何でもいいじゃない!そうと決まればレティ、こっち来なさい!」
ユーシュテがレティの二の腕を掴む。
「え?どこに行くの?ユースちゃん」
「決まってるじゃない!あんた胸の大きさが戻ってから、ブラ買い直してないでしょっ!お城に乗り込むのに子どもブラは認めないわよ!」
「えええ――」
船内に響き渡る大声。ディノスの部屋でリックはため息を付いた。
「おい、ユーシュテのあの恥を捨てた発言何とかしろ。今はクルーが外に遊びに出てるからまだ良いが……」
「諦めてくれ。あればかりは何度言っても直らんようだ」
再度ため息をつく二人のリーダーだった。
夜になり、リックもディノスも目立たない格好――シャツとジーンズに着替えた。
レティは昼間のまま、ワンピースを身に着けている。
ユーシュテだけは普通の洋服を所持しておらず、レティのは貸しても体型が合わないために、小さくなってディノスの胸ポケットに入った。
「ユースちゃん、いつも色違いでワンピースとエプロン着けてるけど、あの格好可愛いね」
「これ、メイド服って言うのよ。あたしはディノスに忠誠を誓ってるから、これ以外持たないの」
「へぇー」
「レティ、暗いから足を踏み外さないようにな」
話に夢中になっているレティの手を取り、先に甲板から階段を降りる。
城は街の先の奥まったところに見えていた。
「遠いな。馬車つかまえるか」
ディノスが言って、通りすがりの空の馬車を止め、三人は乗り込んだ。
「しかし、あの走り書きのメモだけで城に入れてもらえるのか?ディノスはどう思う?」
「運次第じゃないか?」
リックとディノスのやり取りを聞き、ポケットからユーシュテが出てくる。
「ちょっ、豪華ディナー食べられなかったら何か奢んなさいよ!リチャード!ああー、お腹空いたぁー」
「そういや昼間も似たような奴に会ったな……」
「ああん!?誰のこと?」
アルを思い出したレティとリックが笑っていると、ユーシュテの目がつり上がる。
リックはため息をついた。
「分かった分かった。必ず何か食わせてやるから騒ぐな。大体、俺はパーティ会場に入れるとは一言も言ってないっての」
「あ、見えてきましたよ!」
レティが窓の外を指差して嬉しそうに張り付く。
正門の前で馬車が停まった。




