お姫様はだれのもの?
『レティアーナへ
良かったら今夜、この紙をもって城に来てくれないか?
格好はそのままで構わないから。
どうしてもだったら、リックも一緒で構わない。
今日君たちに助けられて、付き合わせてくれたお礼がしたい。
アレックス・クロスルース』
下の名前はフルネームでサインがあった。
「何でも急用を思い出したからと、先にお帰りになられました」
店員が説明をした。リックはため息をつく。
「何でわざわざ城に行く必要があるんだよ。捕まりに来いってか?」
店の戸を開けると、入る前には気づかなかった黒いスーツにサングラスを掛けた男が数人グループに分かれ、ウロウロしていた。
そのうちの一人がレティ達に気づいて、寄ってくる。
「失礼。ちょっと話を伺いたい。人探しをしていて……」
「どなた様をお探しなんですか?」
黒スーツの胸ポケットから写真が出てくる。
これだけの大人数に追い回されるなんて、どんな悪い奴かと思えば。
「イルマリ国の第二王子、アレックス・クロスルース様だ」
金髪にキリッとした表情、糊のかかったシャツ、ジャケット、マントを着ている美しい男性が写されていた。
これはまさしく。
「あ―――――ッッッ!」
レティとリックの声が重なる。間違いなく今の今まで一緒にいたアルだ。
その時、広場に声が響き渡った。
「見つけたぞ!お戻り下さいぃ――!」
ポケットに手を突っ込んでヒョイヒョイと逃げるアルと、それを全速力で追う黒スーツのSPが目に入った。
「一国の王子が何やってんだよ。全くあいつは……」
リックが呟くと同時にアルが此方に気づき、手を降りながら街の間へ消えていった。
「王子様でいらしたから、お城へ来て欲しいってことだったのですね」
「しかし、海賊はわざわざそんな所へ行かんだろう」
「行かないですか……?」
レティは少しがっかりしたようだ。
「アル様は、お寂しかったのかもですね。お忍びと言うのでしょうか。一ヶ所にずっと閉じ込められるように居座らせるのは、とてもとても……虚しさを感じたりするんです」
かつて自分の与えられた環境と重ねているのか。
今の自分の立場を差し置いても会いに行けないかと考える彼女は、とても優しい。
「分かった。行こう。何とか正体を隠すか……」
レティの頭をポンポンと叩いた。
彼女にとことん甘い性格が、すぐに味方をしてしまう。
「あと俺たちだけじゃ、何かあったときの対処が困るな……。ちょっと相談してみるか」
「……?」
「一旦船に戻ろう」
不思議そうな顔をするレティを連れて、海岸へと歩くリックだった。




