優しき心の仇6
朝ごはんを食べ、リックが勝手にレティの為にフルーツヨーグルトを追加した。
それに舌包みをうちながら、レティは一掬いしたスプーンの下に手を添えてリックへ差し出す。
「リック様?」
「ああ、ありがとう」
パクリと食べてくれるリックが嬉しくて、レティはにっこりとした。
微笑ましい二人の雰囲気を、能天気な声が水をさす。
「レティアーナぁー、俺には?」
「へっ?」
「お前、いい加減にしろよ……っ。レティに絡むな」
リックがアルの金髪ごと頭を掴む。
何となく二人の馬が合わないことは分かったので、レティはため息をついて皿の中身を片付けてしまうのだった。
その後リックが支払いをして外でレティが待っている間、アルがレティの手首を掴む。
「ねぇねぇ、レティアーナ。二人で遊びに行こう?」
「え?いや、えっと……あのっ、リック様が……」
強引かつ悪気のない行動で振り払いにくく、レティが力の強さで引っ張られ掛けたとき、抱き止められた。
「何やってんだ……」
「リック様!」
安堵の息を吐いたが、すぐにため息へと変わる。
「勝手に連れてくなっ」
「だって俺、レティアーナと遊びたいしデートしたいし。いいよね、ねっ、レティアーナ?」
「全っ然、良くないだろうが……」
レティを挟んでリックと能天気なアルが言い合いをし始めて、朝だと言うのに疲れたような表情になるレティだった。
(ディノス様かユースちゃんが来て止めてくれないかなぁ。はぁ……)
毎回デートが上手く行かないのは何でだろう?
親切心が仇になって、今回もトラブルの予感だ。
雑貨と文具を両方置いている店で、レティは品物を見て回る。
「リック様っ!こんなの可愛いです」
ピンクの便箋にアンティークな縁取り、花とうさぎがプリントされている。
「ああ、可愛いな」
「これはどうですか?」
今度はクリーム色に紫の蝶に黒い猫、花や草がついているもの。
「ふぅん……。レティアーナは花がついてるのが好きだねぇ?」
すぐ近くで声がしてレティは固まる。背後にアルが立って覗き込んでいる。
「ひゃあっ」
あまりにも顔が近く、固まる。リックがレティを引っ張り、自分の胸に抱き込んだ。
「もう少し離れろっ……」
「リック様ってさぁ、レティアーナに近づくとムキになるよねぇ。過保護じゃない?」
「当たり前だ。大事に守ってんだよ!」
「それじゃあ窮屈じゃん。レティアーナ、俺はもう少し緩いからさー、俺にしなよ」
「人の前で何堂々と誘惑してんだ!?ケンカ売ってんのか?コラっ」
レティは堪えかね、猫耳と尻尾を生やすようにして声を上げた。
「もーっ!ここはお店の中ですぅっ!お二人ともケンカはお止め下さいっ!」
頬を真っ赤にして膨らませているレティが、ぷんぷんと怒っている。
「悪い、レティ」
リックは慌ててレティの頭を撫でた。
「レティアーナ、怒らないでよ……。ごめん」
アルはレティの頬にキスをした。
レティは不意打ちに驚いて、怒りを忘れてしまった。
代わりに耳まで真っ赤になってしまう。
そうなるとリックのこめかみに青筋が立ってしまうわけで。
が、ここでやり合えば今度はレティから嫌われかねない。
声を出さずに口だけの動きで伝える。
(てめっ……、何レティにキスしてんだ。やんのか?)
(やだね。俺、それなりに強いけどレティアーナを怒らせたくないしー)
アルは手を上げて肩をすくめ、リックに舌を出した。
(アイツ、絶対後で後悔させてやる……)
リックは拳を握りしめた。
レティは深呼吸をして頬の赤みを取り去り、気を取り直してカラーのペンセットと先程の便箋をカゴに入れた。
「リック様、これがいいです」
レティがリックと話すのを見ていたアルは、窓の向こうにあるものを見つけた。
「ヤバ……っ」
アルは今までの能天気さが嘘みたいに、焦って呟く。
リックが会計をしてレティが商品を受け取り、後ろを向いたら店には他に誰もいなかった。
「あれ……?アル様は?」
「あ?」
リックもレティの声でアルが消えたことに気づく。
「そういえば、お連れの方からこれを預かっておりますが」
店員が差し出した。
お店のものであろう店名のプリントされたメモに、走り書きがしてあった。




