優しき心の仇5
レティは立ち上がった。リックのように店内に入り、レジまで行く。
金髪にサングラスを掛け、ストライプのシャツとジーンズに腰にジャケットを巻いた男が店員と揉めている。
「あのー、どうかされましたか?」
レティが声を掛けると、店員が金髪男と引っ張り合いながら謝罪する。
「騒々しくて申し訳ございません、お客様。こちらのお客様が無銭飲食らしくて」
「お金がいるなんて聞いてないよ!」
どこまでもおかしなことを口走る男。
レティは店員に聞いた。
「おいくらなんですか?」
「八千ルークですよ!」
(高い……)
先日のレティがユーシュテから買ってもらった下着の合計金額の約二倍だ。
だけど、島から持ってきたお金でなんとかなりそうだ。
「あの、どうぞ……」
レティはお金を出した。男は店員の手から解放される。
リックが戻ってきたとき、テーブルにはレティともう一人座っていた。
レティが懐いているディノスでもユーシュテでもない。
「……誰。」
短時間の間に急に現れた金髪の男を見て、リックは言った。
レティは声で帰りに気がついて嬉しそうに笑う。
「お帰りなさい、リック様!」
「えー、男がいたの!?まあ、いいやぁ。お帰りなさーい」
「……だから誰。」
リックはため息をつき、腰を降ろした。
「リック様、何になさいますか?」
「いや、まずこいつは誰なんだ?」
「ご飯食べたらお金払えって言うんだよ、この店。最初に説明してほしいよね」
「おかしいのはお前だ。」
「えー!何それ?酷くない?この子が助けてくれなかったら、危うく逮捕だよ」
金髪男がペラペラと喋り、リックが呆れた顔で述べる。レティはメニューを一旦置いた。
「お店とは、お金と引き換えに商品を売っていらっしゃる所なので、説明はしないです。メニューにも金額が記されてますよね?カードもお金も無いと、捕まっちゃいますよ」
レティは金額を指差した。
「それ、カロリーかと思ったよ。あんまり気にしてなかった」
「お前、どこの世間知らずだよ。てか、レティ、払ってやったのか」
「悪気はなさそうでしたので」
「いくらだ?」
「……八千……ルークです。島から持ってきてたので何とか足りました」
トホホと言う感じでレティが答えた。
「高っっ!どんだけ食ったんだっていうより、お前、レティに金返せよ!ったく」
更に呆れた表情でリックは言った。
「じゃ、頼むか」
リックとレティ二人でメニューを覗き込む。
「俺はねぇー」
「お前、さっき人に金払わせた上にまた食うなんてどんだけだ。俺はお前の分は出さないぞ」
金髪男をリックがバッサリと切る。
「えー、ケチぃー。俺に恩を売っといた方が後で得するよー。……多分」
「断る。関わると面倒そうだからな、お前」
「ええー。そんなぁ……」
テーブルに顎をのせて、唇を尖らせる男。サングラスの向こうのアメシストのような紫色の瞳が見えた。
キラキラと潤ませてレティに何かを訴え掛けてくる。
「……」
見放せないような視線。戸惑っていたら、リックが腕でレティの目を隠した。
「こらっ。レティに頼るな。レティもこっち向いときな」
金髪男は諦めた様子で、何かを考えているのかレティ達を見ているのか分からないがご機嫌で頬杖をついている。
「私、サンドイッチのスープセットにします」
「そうか」
リックが手を上げて注文をし、待っている間に金髪男がまた話し出した。
「そう言えば、まだ二人の名前聞いてなかったね?俺はアル」
「私、レティアーナです」
「レティアーナかぁ……、可愛い。とりあえずそっちの眼帯くんは?」
「変な風に呼ぶなっ!とりあえずで教える名前は持ち合わせてない」
「まあ、いいよ。リック様でしょ?」
「お前がその呼び方すんなっ!」
マイペースなアルに、いつもは冷静な方であるリックが牙を向きそうでハラハラしてしまうレティ。
ユーシュテの時の争い方とはまた違うようだ。




