優しき心の仇4
朝、レティが起きたらまたリックがいない。
伸びをして体を起こし、リックのいたところにメモを見つけた。
『甲板においで』
リックの部屋の階段を上がってすぐの自室で着替え、外に出た。
新しく買ってもらった水色のワンピースを着て、ささやかに吹く潮風が流れる外に出た。
リックは甲板の中心辺りに立っていて、上に手を向けた。
彼の腕に一羽のカモメが降り立つ。
「レティ、おはよう。こっちだ」
「おはようございます!」
小走りに移動して、リックの横に立った。
「その服、よく似合ってるな」
「ありがとうございます」
リックは右手でレティの肩を抱く。そして、自分の腕をレティの近くへ下ろした。
「プレゼントだ」
「このカモメさんが……ですか?」
「そう。このカモメはただのカモメじゃない。『ポストシーガル』だ。伝書鳩のような役割を果たす」
「郵便屋さんですか?」
「そうだ。陸上が鳩なら、海を渡るのはカモメだ。距離があるから毎日という訳には行かんが、これで便りが出せるぞ、レティ」
「!」
レティは気づいた。中々戻れないから、ジョアンとレティの両者の気持ちを汲んでくれたのだ。
「嬉しいです。ありがとうございます……」
「躾の確認ですぐに連れて帰れなかったが……。あの男のマダムの店で見つけたんだ」
「あ……」
リックがあの時、レティをディノスに預けて離れたわけが分かった。
内緒にして驚かせたくて、わざと連れていかなかったのだ。
「便箋は持ってるか?」
レティは首を振った。島の外に知り合いなどいない。手紙の道具は持つ必要がなかった。
「じゃあ、買いにいこう。デートをやり直そう」
「はいっ!」
リックはカモメを放した。カモメは見張り台の方へ飛んでいった。
レティとリックは手を繋いで階段を降り、街の方へ歩いた。
ユーシュテと二度行ったカフェで、朝ごはんにすることにした。
メニューを見ていた時、リックが立ち上がる。
「すぐ戻るから」
店内に入ってしまった。行き先がお手洗いだったので、レティはメニューに目を戻す。
「何にしよっかなぁ?」
足をぶらぶらさせていたら、ドアが開いた。
「ちょ、ちょちょちょ、お客様!お代をお願いします」
慌てた店員の声。レティは顔を上げた。入り口で誰かが揉めている。
「お代って何出せばいいの?」
「食べた分はお金を払ってください!困ります」
「え、何?お金取るの?どういうこと?」
変な会話だ。
「無銭飲食なら、保安官呼びますよ!」
「え?何で何で!?」
テラスから逃げ出しかけた金髪が見えた。店員らしき手に腕を掴まれたようで、すぐに引っこんだ。




