優しき心の仇3
体が緊張を取り戻さないように、リックはまたぷっくりした唇にキスした。
そして油断しているうちに、中のキャミソールごと柔らかい素材の夜着に手をかける。
「んんぅっ!」
さすがに気づいて目が開かれ、声が上がった。
「いや……、リック様、恥ずかしいですっ」
繋がれてない方の手が服を下げようとしたので、やんわり払って阻止する。
「ダメですから。み、見ないで下さい……」
「そりゃ見るさ。綺麗だ、レティ」
優しく言えば、困ったような顔。
まあ何となく想像をしていたが、彼女の育ち方だとこの先の行為がどんなものかすら知らないのだろう。
「せ、せめて……明かりを」
視線が枕元のスタンドを示す。
オレンジの色にほんのり照らされる肌は、とても艶めかしくて無くしたくないのだけど、あまり強引にしたり意地悪しすぎると未知への畏怖から泣き出してしまうだろう。
仕方なく手を伸ばしてスタンドの目盛りを回転させ、明かりを最低に近いところまで落とす。
レティが安心して息を吐いたのが分かった。
「大丈夫か?」
「あ、はい……」
その答えに満足し、頭を撫でてやる。こうすれば、レティの安心が増えるのをリックは知っていた。
それから、続きを始めた。
闇に混じるのはお互いの吐息。それからリックに弄ばれるレティの高い声。
頭がクラクラとした。
(こんな、私じゃないみたいな声……。恥ずかしいのに、頭がぼーっとする)
思考は鈍く、頭に霞がかかったようだった。断続的にそれが続く。
リックの手の動きに翻弄されていたレティだが、手が胸から離れてある部分に触れたのを感じて目を見開いた。
頭が覚醒した。レティは背中を浮かせ、リックの腕を両手で押さえる。泣きそうな顔で激しく頭を振った。
「怖い?」
聞いたら腕にすがり付かれた。
「分かった。大丈夫だ」
リックはレティの背中を支えて体を起こし、手で頭や背中を撫でてやる。
止めてしまったことに罪悪感を感じたようで、小さな「ごめんなさい」という声が聞こえた。
リックは酷く消化不良だったが、それよりもレティを傷つけたり怖がらせたくない気持ちの方が強い。
無くしていたはずのトラウマの欠片も戻ってきているようだし、それとリックとのことを結びつけさせたいわけではない。
何も知らないのだから、少しずつ慣れさせていけば良いのだ。
「少しずつな、レティ。きっといつか怖くなくなる日が来る」
「はい……」
頷くレティの夜着を整えてやり、またベッドに体を横たえた。
すると、レティの口からあくびが出た。
「どうやら疲れて眠くなったみたいだな」
コクンとレティが頷いて、目を閉じた。
そして再び寝付くことができるようになり、呼吸は規則正しい寝息へ変わった。




