1尾
或るお殿様が、目黒くんだりまで鷹狩りにお出掛けになった。
ところがこのとき、お供の者がうっかり弁当を忘れてしまい、腹が減ったお殿様は一歩も動けなくなっちまった。
そこにどこからともなく、いい匂い。
「この美味そうな匂いは何じゃ」
「どうやら下々の民が食う、サンマという魚のようにございます」
「よし、取ってこい」
お供の者は躊躇するが、お殿様の命とあっちゃ聞かない訳にゃいかない。
「こちらでございます」
と、焼き立てのサンマを献上した。
するとそれを食ったお殿様、
「美味い。これはなんと言う魚じゃ」
「サンマだっつったろ」
お供の者もよく首を跳ねられなかったもんだが、それほどお殿様はサンマに御執心なされたようで。
お城に戻った後もその味が忘れられず、とある宴で料理のリクエストを聞かれてひと言。
「わしはサンマを所望じゃ」
これには家中も驚いたのなんの。お城は蜂の巣をぶっ叩いたような大騒ぎになった。
とにかくお殿様にあんな脂ぎっとりぎとぎとの下魚は食わせられぬと、脂肪も何もすっかり抜いて、かっすかすになったサンマをお持ちしたところ、
「不味い。やはりサンマは目黒に限る」
いやいや、目黒は港でも何でもございませんよ。
つまり、なんて物知らずなお殿様だという有名な笑い噺でございます。