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神の使いと終焉者  作者: 久我尚
オメガ 前編
6/30

第5話 『怪物を殺す者』

 オメガ。

 陸に言わせれば気持ち悪い怪物だ。心底気持ちの悪い外見をしていると侮蔑している。

 が、これは陸の感性であってオメガという存在が起こす問題とは関係ない。

 問題というのはオメガの行動のことである。彼らは人を襲う。怪物と呼ばれる要因は主にそれだ。現れては人を食らおうとするのだ。

 何故そのようなことをするのか? それは蝉になぜ鳴いているのかと問うようなものである。

 理由は単純。そういう生き物だから。

 そんな怪物を殺すのが桐原陸という少年に課せられた役目の一つだ。

 よって今日も彼はその役目を全うしに来た。


 「どこにいるのかね」


 まず最初に行うのはオメガを発見すること。

 楓の感知系のアビリティでは正確な位置の把握はできないため、現地についてからは自分で探すしかないのだが、陸であればすぐに発見できるのでそこに関してはさほど問題ではなかったりする。

 迷いなく、複雑に入り組んだ路地裏を歩く。

 こんな人気のない場所に来るのは不良か迷子か、道を短縮しようとする者、もしくはただの馬鹿ぐらいだ。いや、候補としてはもう一つある。それは――


 「――いたいた。パチもんってのは微妙に見つけにくいな」


 しゃがんでいる黒い生き物。後姿ではあるが見間違えるはずがない。

 怪物――オメガだ。

 なぜしゃがんでいるのかというのを疑問を抱きつつ、オメガの周辺を一通り見る。

 壁などに特に異常はない。ただ、オメガの足元には人の血液のように赤い液体がとびっ散っていた。さらにくちゃくちゃと汚い咀嚼音が聞こえる上に、不快としかいいようのない異臭が鼻を刺激する。


 「…おい」


 耳などないはずのオメガは、陸の声に反応しいたように振り向いた。

 オメガの不格好で均等性のない歯が並ぶ大きな口からは、血が滴るのとともに、生肉のようなものが飛び出ている。


 「悪いな。お食事の邪魔して」


 オメガという生物は人を喰らう。特に頭を最初に口に頬張るのだ。それも生きたまま。


 「でもその感じだと、一通り終わってるみたいだな」


 「――――?」


 怪物は手に持っていた人間だったはずの肉塊を投げ捨てるとゆっくりと立ち上がった。

 全長は約二メートル。当然陸よりも大きい。だがそれがオメガの平均的なサイズだ。

 そんな怪物が陸へと顔を向けるなり首を傾げた。


 「ダメダメダメ。お前みたいな顔面真っ黒の怪物がそんなことしても可愛くないから。楓とかがやってくれれば目の保養になるけど。…そうだな。帰ったらやってもらおう。俺は可愛い楓を拝みたい。そして愛でていたい」


 学校に戻ってからの最優先事項が決まった。楓の可愛らしい姿が脳裏に浮かぶ。


 「んなわけで早く帰りたくなったからさっさと――」


 「ギィッ!」


 いくつもの音程が重なった気味の悪い声が上がったのと同時に、怪物が接近する。

 無垢そうな雰囲気はどこへ行ったのか、今は完全に陸を殺そうと突進してきている。


 「敵と認識…。どこまで構造が同じなんだ? そもそもお前センサーあるのか? ――ま、なんでもいいか」


 人を突き刺せるほど鋭利な爪が生えた手を向けてくる怪物の腹部に蹴りを入れる。

 すると自分の質量以上の物体に激突したのではないかと思ってしまうほど、オメガは吹き飛んだ。そのまま壁に体を打ち付ける。


 「――グ、ギギ――!」


 威嚇か、痛みの表現か、はたまた怒りの表現か、オメガは大きく口を開いた。


 「いやぁ…。気持ち悪いな、口開くなよ」


 オメガの口腔には黒い触手のようなものが生えている。それは特に怪物の意思とは関係なしに自分勝手にウネウネと動き続けているわけだが、一言で言うと気持ち悪い。


 「それのおかげでもうずっと海苔の佃煮食べれてないんだよなぁ…」


 唾液のような黒い粘液が触手に纏わりついているために、気色悪さ倍増している。

 なんか海苔の佃煮に似てね? なんて考えた陸が馬鹿だった。もう一年以上は海苔の佃煮を口にできていない。


 「グ――ブァ…!」


 また懲りずに怪物は突進する。が――


 「死んどけ」


 ――一筋の光が黒を切り裂く。


 「………ァ?」


 何が起こったのか理解できていない。オメガの視点では、陸が突然消えたように見えていた。だがそれは違う。陸は一歩も動いていない。

 そう、オメガは自分の体が両断されていることに気付いていないのだ。


 「…!? ――! ――――!!」


 地面に伏したところでようやく自分の状態に気付いたようだが、オメガはもう声すら上げることができない。それもそうだだろう。この生物にも、人とは構造が多少異なるが声帯がある。それを切り裂いたのだから声を出せるわけがない。


 「――――――!」


 両断されてなお、二つに分かたれた体は動いていた。釣り上げられたばかりの魚のようにもがいている。けれどそれも醜い抵抗に過ぎない。

 時間が経過するごとに動きは鈍くなり、やがて完全に停止し、塵となって消滅する。


 「はい。今日の仕事終わり」


 オメガを殺すという役割は終えた。なので早急に学校に戻ることにした。

 食われた一般人の死体処理に関しては陸の領分ではないので放置するしかない。


 「さて」


 怪物が完全に消滅したのを見届けて陸はその場から去ろうとする。その時だった。


 「……二匹か」


 二方向を順に見る。

 その彼が向けた視線の先では、今まさにオメガが出現したところだった。


 「――片方は悠介先輩に任せよう」


 楓のアビリティで大方の位置は把握できているはずだ。

 そう考えた陸は片方を悠介に任せることにした。


 「行くか」


 道に沿ってわざわざ出現位置に向かっている時間はない。よってショートカットをすることにした。

 陸は跳躍し、この路地を挟む建物の屋上を目指す。常人の数倍のジャンプ力を持つ陸だが、当然なんの上層もしなかったので屋上までは届かない。だから彼は外壁に足をつけ、重力を無視した移動をし始めた。平然と彼は人間には不可能な芸当を行っているのだ。


 「南…だな」


 二つのうち、遠い方へと彼は向かうことにした。

 

***

 

 一分にも満たないほどの時間で目的地に到着した。


 「はい、みーつっけたー」


 まだ夕日が地上を見下ろしているなか、怪物は屋上に佇んでいた。

 陸の存在に気付くと先ほどのオメガと同じように観察を始めた。


 「そんなジロジロ見んなよ。ちょっと恥ずかしいだろうが」


 このオメガに目はないので、見ているという表現が正しいかどうかは定かではないが、そんなこといちいち気にしない陸だ。


 「――で、お前どっちだ。できるだけ見た目だけで判断したいんだけど…」


 「ガ、ガガガ――ガ、ギ!」


 オメガの黒い右腕が不気味に動き始めたと思うと、その腕は鋭利な刃物に変形した。


 「お、本物だな。よかったよかった」


 上機嫌に彼は口にする。

 『形態変化』。体の一部を変化させる力。

 オメガ特有の能力の一つである。これが使えるということはこのオメガは『レプリカ』ではない。


 「そっちがそれ出してくるなら俺もやるか。ちょっと待っとけ」


 陸は袖を捲りだした。これをしておかないと服が破けてしまうからだ。

 そして次にするのはイメージ。

 今ある人の右腕を別のものに変換させる。

 脳内で書き換えるだけでいい。それだけで彼の右腕は――


 「ほら、どうだ? かっこいいだろ」


 ――肘の辺りからオメガと同じように鋭利な刃へと変形した。

 これが基本的に陸がオメガ退治時に使用する形態である。


 「どっちの方が切れ味いいか競おうぜ」


 「ギィ――ッ!」


 少年へと飛びかかる怪物。

 まだ上から叩き切ろうとしているあたり、先ほどのオメガと比べれば利口だと言える。


 (さて、どうするか)


 二択だ。

 一、ガードする。

 二、避ける。

 どちらも陸が好まない選択肢である。なぜかというと負けた気がするからだ。

 特に二番は何となく敗北した気分がある。


 「…んじゃ三番だ」


 「ガ――――?」


 表情を読み取ることはできないが、なんとなく察せられる。


 「ハッ! いいアホ面だ」


 陸はオメガを刃物と化した腕で切り裂いた。一匹目と同じように、胴体を完全に両断したのだ。


 「俺の勝ちな」


 「ギ…! ギ、ギギギ、ガ……グゥ!」


 「やっぱりしぶといなぁ。なんなら完治しそうだし」


 上半身と下半身に分けたのだが、切断面から触手のようなものを伸ばして元の形に戻ろうとしている。

 『レプリカ』の時とは違う。『ノーマル』には再生能力が備わっている。

 数分放置すればこのオメガなら元通りになるだろう。


 「まあ、させるわけないけど。お前のレベルなら…」


 頭を切り離せば十分だ。

 地面に這いつくばっているオメガの首を陸は刎ねた。

 それで終わりだ。もう動くことはない。

 だが『レプリカ』のオメガとは違い、このオメガは死んでも消滅しない。死骸として残るが、その処理までは陸の受け持ちではない。役目を担っているものに任せるのが最善。

 陸は腕を刃から元の人間の形に戻した。


 「こっちは終わったし、一応向こう行っとくか」


 不要だとわかっていながら、念のためもう一つのオメガの出現場所に向う。

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