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神の使いと終焉者  作者: 久我尚
オメガ 前編
18/30

第17話 『カフェ』

 「で、どこよ」


 横を歩く速水にスマホの画面を向けて尋ねる。尋ねた内容はどこに行くのかだ。


 「は?」


 「いや、何言ってんのみたいな顔するなよ。倉園が言ってる場所知らねえんだよ」


 倉園と会うことにはなったのだが、彼女の送ってきた合流地点がわからないのだ。


 「なのにさっきわかったって返信したんですか?」


 小さな口からため息をこぼす美少女。これまでの付き合いの中で陸は何度瑠奈に呆れられているかわからない。しかし、なんやかんや言って陸の携帯を覗き込んで倉園が送ってきた合流地点を見てくれるのが、彼の幼馴染である。


 「えーっと…。あー…」


 特に意味のない言葉を発している。嫌な予感のする陸だった。


 「――わからないか?」


 「――――」


 無言は肯定だ。

 陸も似たようなものではあるのだが、瑠奈はたまに意外とポンコツである。


 「致し方ない。あいつ使うか」


 仕方ないので引きこもり兼頭脳担当に縋ることにした。


 「自分で酷使するなって言ってませんでしたっけ?」


 「ははは、知りませんな」


 陸は画面を写真として残して、とある人物にそれを送り付ける。そしてその人物…十中八九家にいるであろう隣人に電話を掛けた。


 『――もしもし…』


 ワンコールで繋がったかと思えば、不景気な男の声が陸の耳へと流れ込んでくる。


 「元気ねえな、慎也。いや、いつも通りか」


 通話相手は瑠奈の逆サイドに住む陸の隣人――西岡慎也だ。


 『――用がないなら切る』


 「急くなって。ちゃんと用はあるぞ。今送ったスクショあるだろ?」


 送って1秒足らずで既読がついていたので目にしてるのは間違いない。


 『ああ…、JKとのやり取り自慢してるのかと思ってた…』


 「安心しろ。外界との関係が断ち切られてるお前にそんな意地悪はしない」


 『切るよ?』


 「…おい、待て。今のは俺が悪かった」


 『――……別にいいから要件早く言ってくれる?』


 特に許したとかではなく、早く通話を終わらせて中断しているゲームをやりたいといった雰囲気が通話越しでも感じとれる。


 「おう。その可愛いJKとのやり取りで出てきてる店名あるだろ? その店どこにあるのか教えてほしいんだよ」


 『はぁ? 携帯あるだろ…』


 要約すると『自分で調べろや』という意味である。


 「そう言うなって、親友の頼みだ。快く受け入れろ」


 『――わかった。送っとく』


 「サンキュ。んで、もう一つ頼みがあるんだ。こっちが本命だ」


 この本命も文句を口にしながらなんやかんや承諾してくれた。ツンデレというやつだ。


 「お、流石仕事が早いな」


 通話を終えてすぐに慎也は、倉園と会う店の場所を陸の携帯に送ってきた。


 「…最後のは必要だったんですか?」


 陸が慎也に頼んだことは必要だったのか、瑠奈は疑問に思ったらしい。

 こうしてわざわざ頼んでいた時点でそれは愚問だろう。


 「当たり前だ。大事なんだよ、こういうのは。特に今回はみたいな場合はな」


 「捻くれてますね」


 「お褒めいただき恐悦至極」

 

*****

 

 場所は駅近くにあるオシャレベルの高いカフェ。

 2階には正面がガラス張りの席がある。

 陸は外から見られてしまうそんな席に座る人物の気が知れなかった。

 ちなみにどうでもいいことだが、現在陸と瑠奈が座っているのはその席である。


 「なぁ、2階でガラス張りのカウンター席って冷静に考えてやばくないか?」


 陸の隣に座り注文したコーヒーをちょびちょび飲んでいる猫舌の美少女。彼女はスカートであるため、下からパンツが見える可能性が微レ存……なんて陸の考えは瑠奈には見通されている。


 「…見えないですよ。ほら、ちゃんと見えないようにガードありますから」


 「うわ、なんだよ…。足先しか見えないとか地獄か」


 「多分角度的に足先すら見えないと思いますけどね」


 「つまり見えるのは顔だけ………なんていやらしい」


 「それはあなたの思考回路ですよ」


 他愛ない話をしながら待つこと数分。スクールバック肩に掛けた女子高生が一階からコーヒー片手に上がってきた。倉園だ。

 倉園はすぐに陸を見つける。席を指定したのが彼女なのだから当然である。


 「ようっ!」


 近づいてきた倉園に対してテンション高めに挨拶を試みたのだが、反応はイマイチ。陸の経験上、明るい挨拶をすれば大抵の人物は自分に対して好印象を持ってくれるというのは把握している。が、偽りの仮面をつけていい人を演じていた時の経験は、残念ながら昨日あんな出会い方をしていた時点で役に立つわけがなかった。

 倉園は陸から視線を外すと隣でコーヒーをフーフーしている瑠奈に目をやった。


 「――そっちは?」


 「俺の上司」


 「は?」


 「その一文字怖えよ…。とりあえず付き添いだと思っといてくれ」


 「…ふぅん」


 倉園は目を細める。その表情の変化にどんな意味があるのか、悠介ならばわかりそうなものだが、残念ながら陸にはわからない。

 視線を向けられている瑠奈はというと、砂糖とミルクを入れるだけ入れたコーヒーを少しずつ小さな口へと運んでいる。倉園が来たというのに興味がなさそうな様子だ。


 「おい、天野。挨拶ぐらいはしろよ」


 「…それもそうですね」


 立ち上がった瑠奈は初めて倉園の顔を目にした。


 「――――」


 何も言葉にすることなく、瑠奈はじっと倉園のことを観察している。

 倉園の方は瑠奈の容姿の美しさに驚いているようだった。


 「――初めまして。天野瑠奈です。桐原くんとは同級生で……恋人です」


 「っ!?」


 心からコーヒーを頼んでいなくてよかったと思った陸だった。

 おそらく頼んでいたのなら目の前のテーブルはコーヒー色に染まっていた。


 「待て待て待て。急にとんでもないこと言うなよ。今までお前と過ごしてて一番パンチのあるやつだったよ?」


 「ああ、すみません。言い間違えました」


 倉園の瞳を見据えたまま上辺だけの謝罪を口にする。


 「俺に謝るんじゃねえのかよ…。というかその間違え方はわざとだろ」


 「いえ、そんなことはありません」


 ギルティ。故意である。


 「…別にどっちでもいいんだけど」


 いつもの内輪ノリに近いやり取りな気がしたので、それを見せられている倉園は困惑、もしくは引いているのではと危惧した陸だが、そんなことはなく、彼女は心底どうでもよさそうだった。

 倉園は一つ席を空けて陸の隣に座る。


 「そんな離れる必要あるか?」


 席と席の感覚は密着するほど近いわけでもないので、一つ分の席を空ける必要は全くないだろうと思って放った陸の問いに対して、彼女は首を横に振った。


 「アンタは気になってなくても、気にするやつはいるんだよ」


 「?」


 陸には理解できないことを言うと、片手に持っていたコーヒーを倉園は口に運んだ。


 (湯気の立ったコーヒーを飲む倉園は絵になるなぁ。スレンダー系でちょっと大人びてるからか? しかも駿河原の制服って基本黒っぽいから、それがこいつのクールさに拍車をかけてる気がする)


 言われた言葉の意味を全く深く考えずに、この男は倉園の観察に没頭していた。


 「で、本題に入ってもいい?」


 「おう。話が早い方が助かる」

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