さよなら世界はじめまして異世界?
迫り来るヘッドライトに咄嗟に目を瞑った。
(ああ、これは死んだな)と投げやりな確信が過ぎった。
あー、まあ悪くない人生……だったのかなあ。それなりに楽しめた学生時代、苦労もあるけど趣味も充実してきた社会人時代(まあまだ六年目なんですけどね。)しいて言うなら、両親には悪いことをしたな。こんなに早く死ぬ気はなかったのに。
ああ、いざこんな瞬間になって未練が浮かぶ…来月発売の本やら、来週発表の新情報やら、読まずに積んだ新刊やら…しかし、それも今無に帰した。クソッ、運転手め…恨んでやるからな。此の世で最期の痛みを持って、七代先まで祟ってやる!さあ来い!
…………あれ?
遅すぎる。衝撃がない?
というか車の走行音とか周りの悲鳴ざわめきとかそういったものが一切聞こえない…?
「ああ、やっと気が付いた?」
「ぁえ?」
唐突すぎる第三者の声に肩が飛び上がった。
そして目を開け呆然とする。そこには「白」が延々と繋がっていた。右を見ても左を見ても上を見ても下を見ても「白」…方向感覚どころか気が狂いそうだ。トラックも、人込みも、そもそも交差点すら無い。ここはどこだ?というかさっきの声は……
「此処はね、まあ気にしないで。人が解る場所ではないから」
「!」
気のせいではないようだ。頭に響くような、空間に木霊するようなその声は続ける。
「お約束だけど間違えちゃった」
「は?」
「ごめんね!」
「え?」
「やっぱ人間増やしすぎたかなー」
「んん…?」
「まあいいや。そういうわけなんで何かスキル選んでね、テキトーな世界に送るから」
「いや待って!結局誰でお約束の間違いってなんでスキルってなにテキトーな世界どうして!」
あまりに軽くコーヒー?紅茶?みたいなノリで投げられる言葉に勢いよく突っ込みをいれた。混乱気味なので聞きたいことと言いたいことが若干混ざった。目の前に3つ、ウィンドウのような半透明状の板に「近接」「遠距離」「お任せ」と文字が書かれたものが出現して、選択を迫るように近付いてくる。
「あれ?もしかしてあんまりファンタジー小説は読まない感じ?」
「ええ…まあ。ファンタジーは嫌いじゃないけど、小説じゃなくて…ってそうじゃなくてこれなに…ですか?」
「へー!じゃあ「お任せ」にしておいて!僕がいい感じにしておくよ!」
お、おう。なんか急にうきうきしたテンションになった…。
「お任せ」と書かれたウィンドウに触れる。触れた感触はなく、聞きなれたクリック音と共にウィンドウが閉じられる。そして新たにタイトルバーに「スキルの認証を行ってください」と書かれたウィンドウが出現した。
もう良く分からない。分からないことだらけだ。だから、分からないことは素直に聞いて素直に従うのが一番楽なので「これは?」と声の主へ問いかけた。
「スキルもー……ああ、でもこれは一応リクエスト聞いたほうがいいかな……ねえねえ。異世界にいくときに欲しいものは?」
「ええ……?んーっと……
異世界に行ってもネットがしたい
かな……」
現代っ子だからね、仕方ないね。
お宝画像や、紙媒体をせっせと電子媒体へ保存しなおした電子書籍、「趣味」関連のファイル等々、趣味から思い出から仕事関連まで揃い踏みのマイPC&端末なので。
「なるほどねー、分かった。頑張ってみる!」
「はあ」
「じゃあ、あとは向こうについてから連絡するから!」
「……ん?」
「巻き込まれた感じにしておくからすぐ開放されるだろうし、うん、多分大丈夫!じゃあねー!」
「はあ?…えっ!ちょっと!」
やけに楽しげな声音で別れを告げられた途端、「白」が眩く目を刺した。眩しすぎて目を開けられない。そして、自分とあの「声」以外、一切の音がしなかったはずが、徐々に音が満ちてくる…四方八方から、ざわめきが聞こえる。「勇者さま!」「ついに勇者さまが…!」勇者?なんのこっちゃ。
漸く瞼越しの光も落ち着いた。そろりと片目だけ、薄目を開けてみて、大丈夫そうなので両目で辺りを見渡す。
玉座だ。目の前に、仰々しい玉座があって、それに相応しい煌びやかな衣装の王様が座ってる。両隣に座っているのは、お妃様とお姫様だろうか。……正直、キャストミスと言いたい容貌だ。夢が壊れる。そっと目線を外して、他も見渡す。
自分が座り込んでいるのはふかふかの赤い絨毯、そこになにやら魔方陣が敷き詰められていてそれを取り囲む杖を掲げた黒ローブの老人が…10…20…さらにいる。かなりの大人数のようだ。そして自分と同じように、魔方陣上に座り込んでいる男女4人。揃いの制服を着ているので高校生かな。
黒ローブの老人(一番ごつい杖を持ってる…)が躍り出て、どこか困ったように口を開いた。
「四人の勇者さま方、よくぞお越しくださいました…」
……四人。此処には5人いる。高校生四人組と、自分だ。
□□□□□
巻き込まれた感じにしておく、って言ってたな。
ステータスというものを確認させて頂くうんたら言われ、大切そうに運ばれてきた水晶の前に一人ずつ立たされた。そこで先ほどもみたウィンドウのようなものが現れ、文字通りの「ステータス」が表示されるのを見た時、あの「声」が言っていたことを思い出した。
四人の高校生のステータス、称号の欄には「異世界から呼ばれた勇者」となっていたが、自分の称号欄は空白。
ついでにスキルの欄も、高校生たちは「炎魔法」とか「剣術強化」とか「聖なる祈り」になっているのに比べて、自分のスキルは「Other World Wide internet」
………えっ直球すぎない?頑張るって、スキル名も頑張ってよ「声」さんよォ。ちなみに明らかに時代背景が違いそうな黒ローブの方々及び王様方はいまいち分かっていないようだったけど、高校生組みも「なんて読むの?」「お、お…わーるど、うぃんど…?」と散々だった。大丈夫か高校生。英語も頑張って。
さらに蛇足、高校生四人組みの職業はそれぞれ「剣士」「魔法使い」「神官」「格闘家」、自分は「魔獣使い」だった。
どうする、これ?という空気を感じる。主に自分のことだ。
だって明らかに巻き込まれただけって感じだし、ここにいる方々のご用事は高校生組みのようだし。しかし、見ず知らずでも同郷であることは明らかだ。勇者としてお招きしている彼らのまえで自分に手荒なことをするのは宜しくないとは思っているらしく、ひそひそと声を潜めながら何やら相談中の黒ローブたち。
だが、自分は決めていた。
「あの。」
あの声は「開放される」といっていた。つまり此処にいることに利点はないんだろう。ていうか勇者呼ぶ用事なんて荒事しか考えられないし、人間相手でも魔物相手でも御免である。
「どうやら自分はこの場に相応しくないようですし、そちらの…勇者さん?のお仲間でもありません。なので情勢の説明と職を探すまでの資金を頂けたら、後は何とかしようと思います」
逃げるが勝ち、だ。