異世界いったら何か食べなきゃ気が済まないじゃないですか?
ラーメンの鍵
「へい、らっしゃい!」
扉の奥から聞こえた声は風のように横をすり抜けて後方に消えていった。
何も考えずにカウンターに座ると、メニューを探して左右に目を動かした。
無い。
ならばと正面上を見ると木の板に墨で書かれた料理名に目をやった。
「オヤジ、とんこつラーメン濃いめでバリカタ」
「あいよっ!」
店舗は細長い形状で入口からL字形のカウンターに沿って椅子が並べられている。
ドン!
カウンターに置かれたラーメンを両手で持ち上げ、カウンターテーブルに置いた。
割り箸を割り、両手を合わせた。
「いただきます」
フーッ、フゥーッ。
ずるずるずるずるっ。
「あーっ」
キラキラと光るどんぶりの中のスープと麺にからんでいた汁と汗。
まっっず!!
グブオと変な音がして、鼻からスープと麺が出た。
「なにこれ、あっまぁ!てか、何?」
オヤジの方を見ると、こちらをじっと見ていることに気がついた。
「お客さん、もしかして同世界の人かい?」
「どうせかい?」
「この店はな、異世界に建っているんだ」
ふふん、と鼻を鳴らして仁王立ちになるオヤジ。
「こちらではな、この味が基本なんだぜ!」
「というか、珍しいな。同郷のお客なんてずっと来ちゃいないからな」
同世界?異世界?同郷??
変な味のスープのせいで頭がクラクラし、目眩がしてきた。
いつからだろう。
右手に握られていたモノが鍵だと分かったのは。
黄金色の鍵は光り輝き、そこにしっかりあった。
「あれ?これはなんだ?」
ヘッドの部分はスプーン、ブレード部分はナルトの形をしている。
オレはこれをどうすればいいのか知っている。
ヘッドの部分を親指と人差し指ではさみ、頭上にかざす。
そしてこう唱えるんだ。
「ヘッド ドンブ リターン マスター イン!」
かざした鍵の先に鍵穴が出現。
鍵を差し込み、12時から3時の方向に回す。
鍵穴から放射状に光が放たれて、オレを包んでゆく。
光に包まれた状態を離れてみれば、どんぶりを逆さにしたような形である。
正面にドアらしき長方形の形をした光の集合体に手をかけて横にずらした。
ガラガラガラ、タタン。
中に入れば、もう店内だった。
オレは死んだわけじゃ無い。
熊に食われたとか、トラックにはねられたとか、列車に突き落とされたなんてことは絶対に無い。
と、思いたい。
ともあれ、異世界に来たのだからラーメン一杯ぐらい食べて帰らないと損した気分になるから頼んだのだが、失敗した。
もういやだ、帰りたい。
帰して、お願い!
青い顔をしているオレを見たオヤジが何かに気づいたようだ。
「おお、悪い。ほらよ水」
なにこのどす黒い緑の液体は!
オレはこの後、トイレに長時間こもることになったのは言うまでも無い。