カタチの日常
第70話 ~幸せのカタチ~
「起きて、稜駿。」
•••夢を見ていた。
「うん。起きるから。」
とても嫌な夢だった。
「今、起きてよ。」
「わかったから。」
でも、夢じゃない。
「どうして、布団を被るのよ。」
本当にあったこと。
「どうしても。」
過去にこんなこともあった。
「喋るくらいなら起きなさい!」
「無理ー。」
でも、過去のこと。
「無理じゃない!」
『パサッ!』
彼女は布団を思いっ切り持ち上げた。
僕という姿が露わになる。
「起きなさいよ!休みだからとかそんな言い訳は大丈夫だから。」
「今日は折角大学行かなくていいのに。寝て何が悪い?」
「今日は記念日よ!」
「記念日?」
「そうよ。忘れたの?」
「•••かも知れない。」
「りょーくんのバカ。折角神崎が邪魔しない日なのに。」
そういえば、そんなこともあったような気がする。
「それって、年に一度のあれ?」
「そう、そうよ。アレよ、アレ。思い出した?じゃあ早速デート行こう!」
「ちょ、ちょっと待って?」
僕の頭が理解していない。完全に寝ぼけている。
「何よ。もう6時よ。早く行くわよ。」
「えっ?6時?」
道理で外が明るくない訳だ。
「今日は聖地巡礼よ!まずは美智香和こども園から!」
「ちょっと色々待って。6時?まだ寝てて良い?」
「ダメに決まってるでしょ。私はこの日が1番楽しみなんだから。」
この日又はアレは、年に一度だけ千春と彼氏彼女になれることだ。
だけど、日にちは微妙に違う。
その年の冬くらいで僕と千春の都合の良い日がこのアレの日となる訳だ。
因みに今年は1ヶ月遅れだ。
毎年、こんなことしていたような気がする。
というかさせられていた。
したくない訳じゃないが、この日がなければ今の千春がいなかったのは確実だ。
この日がどれだけ千春を変えたか。
あぁ、今はいいや。思い出はもう十分。
「さぁさぁ、着替えて!下で待ってるから。」
千春は足早に去っていった。
今から行くところって美智香和こども園らしい。
というかまだあるんだな。てっきり廃園とかなってるんじゃないかと思っていたが。
僕はカジュアルな服に着替えて、部屋から出る。
やっぱり薄暗い。
1週間後には大学の実習でそのために色々準備する期間だけど1日くらい別にサボっても大丈夫なはず。
だが1つ問題がある。
僕は階段を降りてリビングに入る。
千春は6人用のテーブルの椅子にで1人で座って待っていた。
僕は千春に言った。
「千春、僕と光莉は婚約してて、両親の許可が降りたら結婚するつもりなんだ。前も同窓会の時言ってたでしょ。」
まぁ初めて言われた時は僕もびっくりしたけど。
「そんな約束破ってしまえば良いのよ。
「流石にそれはマズイよ。」
「何にもマズくないわよ神崎と別れてくれたら私が稜駿を養ってあげるし。」
「そこまでしなくても大丈夫だよ。」
一応僕の実家は金持ちらしい。
そういえば、監禁されていて電話した時のあれは外国人と話していたが、母親が会社のことで出張していたらしい。
会社運営とか一切わからないが大事なことだったらしい。
だが、お金の面なら昔みたいに金欠にはならないしスマホ決済prepayでもなくブラックカードで殆どの店は買い物することができる。
あと、カードの特典でコンシェルジュがオススメの商品を紹介してくれたりするようなことも含まれていたような気がするが一切使ったことがない。
「っていうか、今から美智香和こども園に行くの?」
「当たり前でしょ。」
「いや、誰もいないよ。」
「そうかも知れないけど中に入る方法はあるから大丈夫。」
「大丈夫な訳ないじゃん。完全に不法侵入だよ。」
「じゃあどうするのよ?このまま時間を潰して開園まで待つの?」
「はぁー。取り敢えず開いているカフェか何処かに行こう。」
「わかった。」
残り4人が寝ている中ドタバタ何か言うわけにもいかない。
僕たちは家を出て美智香和駅まで歩いていく。
もちろん、駅周辺で開いている店はほとんどない。
コンビニやカラオケなどのしか開いていない。
あと交番も開いていた。(特に用はないが。)
僕たちはどうしようかと、相談していると。
「電車の始発はもう出てるわよね。」
「うん。」
「じゃあちょっと都会に出てみない?」
「都会って?」
「そうね•••濰纉颶埜魅夜とか?」
「えっー。濰纉颶埜魅夜?やめとくよ。」
「どうしてよ?」
「今日、平日だから絶対に混雑するよ。」
僕は高校以来、満員電車には一度も乗っていない。
「じゃあ、畔蒜廳鵺?」
「そうしようかな。」
「じゃあ早速乗ろう!」
一駅なら混雑もしないだろう。
僕たちは電車に乗って畔蒜廳鵺へ行った。
畔蒜廳鵺。そういえばちゃんとここには来たことがなかった。
何度も通り過ぎるだけだったので、降りるのは初めてかも知れない。
一体何があるのだろうか。
時刻は7時前。
そろそろ人が活発に動き始めるくらいだが、そうすると僕と千春が失踪したってみんな思うんじゃないだろうか。
何か書き置きでもしておくべきだったな。
「ねぇ!稜駿!あそこ開いてるわよ。」
「本当だ。」
駅から少し歩いたところに明かりが付いている。
どうやら喫茶店らしい。店名が『thanksgiving』
意味は神への感謝とか感謝祭とか?
兎に角そこ以外開いていそうな店がなかったので店内に入る。
そこは落ち着いた雰囲気のある店だった。
祭りぽいっ物はなく木材で作られたテーブルや椅子、カウンターなど木が基調とされたデザインだ。
それのせいか、木の香りがする。
「いらっしゃいませ。」
女性のマスターがそう言う。
マスターも出来るだけ違和感がないように明るい茶色をしたエプロンを着けている。
僕たちは、適当に椅子に座る。
お客は僕たち以外誰もいない。
テーブルにはメニューが置かれており、スープやパンなどの朝向けの食事が多い。甘いものが少なく喫茶店というよりかはレストランに近いのかも知れない。
「何注文する?」
千春がメニューを見ながらそう言う。
「じゃあ、ミネストローネとパン•トラディショネルかな?」
「じゃあ私はオニオンスープとグリッシーニで。」
「店員さん呼ばないと。」
「そうよね。•••すみません。」
千春がそう言いマスターはこちらに寄ってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
「えっと、オニオンスープとグリッシーニで、」
「僕はミネストローネとパン•トラディショネルで。」
「承りました。お飲み物は如何なさいましょうか?」
「何かあったかいもの2つ。」
千春がそう言う。
「承りました。お任せでよろしいですね。」
「はい。」
「承知致しました。しばらくお待ちください。」
そして、マスターはカウンターの奥で調理を始めた。
静かな空間にお湯を沸かす音が聞こえる。
最初は無音だったが、お湯が温まるに連れて段々と音も大きくなっていく。
そして、沸騰するとマスターはカウンターの下で調理し始めた。
窓の外を見ると人通りは未だに少ない。
ちらほらとスーツ姿の人がスタスタ歩いていくのが見える。
もう少ししたら僕もあんな風にスタスタ歩かないといけないダメなんだろうなー。
「稜駿は、これからどうしたいって思ってるの?」
「どうって?できればこのまま今の生活を続けていたいけど。」
「そう、よかった。婚約ってあの家から出て行くわけじゃないよね。」
「光莉は出て行きたいって言ってたけど僕はあまり気乗りしない。」
「そうなんだ。」
「みんなと過ごしていて楽しいし、これからもそうしていたいし。」
「そうだよね。出ていったりしないよね。」
「今のところは大丈夫。」
「よかった。婚約のこと聞いてみんな心配してたんだからね。このまま出ていくんじゃないかって。」
「大丈夫だって。それに、今日はデートしてるんじゃなかったの?」
「そうよね。でも、色々制限があるじゃない。キスしてもいいの?」
「流石にダメだけど、せめて今日1日は千春と一緒にいるよ。」
「これって不倫?」
「どうなんだろう?彼女が許可してる不倫なんて聞いたことがないな。」
「不倫相手でも私は全然大丈夫なんだけどなー。」
「きっと僕が光莉に殺されるよ。」
「ついでに私も殺されてお隣のお墓だね。」
縁起でもないことを言うなー。
だけど“ロメロとジュリエント”という物語は愛し合う2人が最終的に死という永遠の愛を手に入れたような物語だった気がする。
愛の為なら死ねるというのは恐ろしいものだ。
まぁあの物語はフィクションだから本当に死ぬのかどうかは現実だとわからない。
「まぁ、不倫なんてしないよ。」
「そういう人ほど不倫するんだよ。」
「大丈夫」ではない。
既に千春や残り3人とも繋がりがある中で、不倫はしないと思うけど不安がある。
「お待たせしました。」
店員さんがトレーからミネストローネとオニオンスープをテーブルに移しそれぞれのパンを真ん中に置き、カップを端に添える。
「こちらは、アピ・モラードでございます。ボビリア発祥でフルーツやスパイス、野菜なども入って暖かくそして甘い味がして風味豊かでございます。どうぞご賞味ください。」
そして、マスターが去っていく。
普通にコーヒーが出てくるのかと思ったが、全く知らない飲み物が出てきた。
そして、甘いらしい。
期待が膨らんでいく。
「稜駿、飲んでみる?」
「うん。飲もう。」
僕と千春はカップを持って口へ運ぶ。
この甘さはフルーツの甘さだ。
ボリビアは南アメリカに位置する国だ。
南極に近いため寒いが、フルーツなども栽培でき、こうした温かい飲み物が多い。
「これ美味しいね。」
千春がアピ・モラードを飲んでそう言う。
「そうだね。フルーツの甘みが美味しい。」
マスターがその会話を聞いて笑っているのが見えた。
「スープも飲んでみようよ。」
ミネストローネをスプーンで掬い食べる。
マカロニや小さなマメ類そしてトマトの甘さ。
とっても美味しい。
「どちらのスープもパンを付けてお召し上がり頂くと味が変化しますよ。」
そうマスターが言うので僕たちは試してみることにした。
パン•トラディショネルは所謂フランスパンで硬さが特徴だ。
又、グリッシーニは細長いパンでチュロスみたいだが味はチュロスではない。
パン•トラディショネルをミネストローネにつけて食べるとパンの小麦の味とトマトがまるでジャムの代わりになって絶品だ。
千春はグリッシーニをオニオンスープにつけて食べる。
「これ美味しい!」
と言って、パクパク食べていく。
僕も食べていく。
「ねぇ、稜駿交換してよ。」
「う、うん。」
間接キスというのはアリなのだろうか。
だがオニオンスープ&グリッシーニの組み合わせも食べてみたい。
それぞれのスープを交換すると、
「やっぱり、お互い『アーン』して食べない?」
「えっ?流石にそれはダメだよ。」
「『流石に』って流石にもなにもないわよ。」
「そんなこと言われても。」
また、スープを交換して、
「はい。私の彼氏なんだからこれくらい当然よ。
はい、アーン。」
千春はグリッシーニにオニオンスープをつけて口を開けろと言っている。
僕はそれを齧った。
オニオンの控えめな甘さがパンの甘さがそれをより引き立てる。
「うん。美味しい。」
千春は僕の齧った残りグリッシーニを食べた。
「うん。稜駿の唾液美味しい。」
「気持ち悪いこと言わないで。」
折角の美味しさが損なわれた。
「稜駿も。はい、私にすることがあるでしょ。」
千春は口を開ける。
「わかったよ。」
パン•トラディショネルをミネストローネにつけて千春の口へ運ぶ。
そして千春はそれを齧った。
「美味しい。」
そして、千春は元に戻る。
「まだ残ってるよ。」
「稜駿が食べて。」
「えっ、大丈夫。」
「大丈夫じゃない。早く、食べて。」
仕方なく、僕は口に運ぶ。
「あー、千春の唾液おいしー。」
棒読みでそう言う。
「もう、またっ!」
嫌というのがわかってないのだろうか。
スープやパン、アピ・モラードを食べ終え、会計の時。
「お会計は、2620円でございます。」
千春は財布を取り出したが、僕がポケットからカードを取り出し、
「カードって大丈夫ですか?」
「はい。少々お待ちください。」
「稜駿、いいのに。」
「前に、ディスティニーランドに行ったの覚えてる?あの時お金、全然無くて交通費に食事代まで奢ってもらってその分を返せてないから。」
「あの時は罠にかけたのよ。わざとそうなるように仕向けたの。」
「そうかもしれないけど。でも、まぁ彼氏として奢らせて。」
「幸せー。こうして、稜駿と2人でご飯を食べれて。」
「うん。」
「お待たせしました。ありがとうございました。」
マスターがそう言い外まで送ってくれる。
「お楽しみいただきありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
そう言いマスターは店内に戻っていった。
「私の幸せは、稜駿と一緒にご飯を食べることかもねー。」
「本当?」
「うそ。もっといっぱいある。」
「これからどうする?」
「そうだね、遊園地に行きたいかも。」
「遊園地?この近くだと田中遊園地?」
「そうだなー、ユニバーシアード•ジャパンが良い。」
「遠い!そうだ。美智香和こども園に行くんじゃなかった?」
「別にもういいわよ!それに行くならお泊りがいい。」
「流石にそれはない。」
「また『流石に』だよ。ほら、そうと決めたら行くよ!」
千春は強引に僕の腕を引っ張っていく。
「アハハハ!ユニバーシアード!ユニバーシアード!」
「ちょっと!ちょっと待って!」
「幸せ!今私とっても幸せ!」
「次回はユニバーシアードよ!」
「ちょっと待って!マジで新幹線乗ってどうするの?しかもグリーン列車!」
「ユニバーシアードシティ万歳!」
「ねぇ、稜駿どこ行ったか知らない?」
「知らないぞ。心当たりがあるか?神崎?」
「ないわよ。捺加環こそ何か情報ないの?」
「ないな。」
「第71話 ~レッツゴーユニバーシアード!~(by 鈴木、早乙女、神崎、捺加環)」




