真似る日常
第59話 ~結果~
逃げ出したあと2人は先生の近くにいた。
これでは誰も寄っては来れない。
そのままお迎えの時間となり4人はそれぞれの親が来ると帰った。
そして、それ以降2人はお互いに関わり合うことはなかった。
次の日。
私は、惠くんには遭わなかった。
突然、引っ越しすることになった。
その理由はわからないが、とにかくここから居なくなってくれることは当時の私にとってこの上なく嬉しいことだった。
引っ越しはあと1週間後。
今日は荷物整理でお休みだそうだ。
次の日。
僕は、小鳥遊さんに呼び出された。
引っ越してしまう最後のお別れを言うために呼んだらしい。
わざわざ人目のつかないところに呼び出した小鳥遊さんはいつもの明るい雰囲気とは違っていた。
大人しくて、残念そうな顔。
足をクロスさせ何か悩んでいるような仕草。
小鳥遊さんが引っ越すまであと1週間後。
「ごめんなさい。稜駿くん。」
そう告げてしたことは、キス。
だけど、そんなことされても何をされているのかよくわからず、「?」という表情をしている。
これが僕のファーストキス。
相手にとってもだと思う。
暴力を受けたいなんて思っていない。
だけど、惠くんのことを心配してしまう。
惠くんのお父さんと惠くんがDVをする理由が今の私にはわかる。
離れて欲しくないから。
何もしなかったら、人は飽きて去ってしまう。
じゃあ飽きさせない方が良い。
その飽きさせない方法が暴力なんじゃないのだろうか。
自分を見失わないでほしい。無視しないでほしい。
そんな気持ちが暴力という形で現れたと思う。
飽きて欲しくない。
そのままでいてほしい。
だけどそれが、お互いを引き離す引き金だったあったりする。
1週間後。
僕と小鳥遊さんは変な関係に陥っていた。
僕はいつもと変わらない通常運転なのに、小鳥遊さんはどこか余所余所しかった。
理由は明白だった。
だけど、この時の僕が気づくはずもなく、
「ねぇねぇ、きょうではざきちゃんいなくなっちゃうんでしょ。だからさいごにあそぼ!」
よくみんなで遊んだレンコンブロックの箱を持ってきた。
「稜駿くんは鈍感。」
「どんかん?」
「仕方ないわね、最後だもの。良いわよ。」
「やったー。ただひこくんいいよだって。」
相変わらず空気の読めない僕は、寺野と一緒に遊んでしまう。
「違うのに。」
「ん?なにがちがうの?」
そう聞くと、
「なんでもないよ。」
「ふーん。」
しばらくレンコンブロックで遊びロケット施設を作り上げる。
「なにこれ?」
「MASAのロケット施設よ。」
「まさ?」
会話していても何を話しているのか全くわからないが、それだけで僕は楽しいと感じていた。
「“まさ”よ。」
「わかんない。」
「わからなくてもいいわよ。それと寺野くん。あっち行って。」
突然、そう言われて寺野は、
「えっ、なんで?」
「先生呼んでたから。」
「えっ、そうなの。」
それが嘘だったことは誰も気づかない。
「稜駿くん。ちょっといい?」
「うん。」
「将来、私のお婿さんになってね。」
「おむこ?」
「お父さんって意味。」
「お父さん?嫌だ。」
「えっ、ここは『いいよ。』って言うのが普通なんだけどなー。」
「だっておとうさん帰ってこないもん。」
ちなみ僕の父親の仕事は長距離トラックの運転手で週に2回しか帰ってこない。
「帰ってこない?」
「だってはざきちゃんといっしょにいたいもん。」
「稜駿くん。」
ギュッとハグされる。
「?」
「わからなくていいのよ。」
そうして、小鳥遊さんは引っ越した。
後で知ったことだが、行き先は外国。
どうやら親の仕事の都合で外国に行きそこから先のことはわからない。
1週間後。
「今までごめんなさい。本当にごめんなさい。」
深々と頭を下げるその様子は、とても申し訳ないという顔をしていた。
つい、昨日まで当たり前のように暴力を振るっていたのに。
惠くんに何が起きたのか。
それは、お父さんの逮捕が原因だ。
だから、引っ越すつまり児童養護施設へ住むと言うことだった。お母さんが引き取ると言ったらしいが、育児放棄をしていた事実もあり市が許さなかった。
そしてその言葉は、最後に惠くんのお母さんに向けてお父さんが言った言葉は今までのことの謝罪の言葉。
暴力では誰も寄ってはくれない。
飽きてしまう。
離れてしまう。
わかっていたと思う。
でも、どうしても離れられない理由が惠くんのお父さんにもあったのだと思う。
だけどしてはいけないことをしている。
その事実は変えられない。
謝って済むのであれば、私の心はこんなにも傷つかない。
私が一番傷ついたこと。それは、模範通りなところ。
もし今日惠くんのお父さんが謝罪しなかったら、惠くんもしなかった。
多分今日も暴力を振るっていた。
私は本当の惠くんを見たことがない。
いつも惠くんのお父さんの模範通りの言い方だと思うし惠くん本心の言葉は聞いたことがなかった。
惠くんは惠くんじゃなかった。
惠くんのお父さんを真似するロボットだ。
「惠くん。惠くんは誰なの?」
「惠は惠だよ。」
「お父さんの真似っこじゃないの?」
そう言うと、惠くんはビクッと反応した。
「『好きな人に叩いたりするのが愛だ。』っておとうさんに言われて、すきなひとにたたいたりしたんだよ。」
お父さんの間違った考え。
それが息子の惠くんへと転移したのだろう。
「あいしているから。」
私はドキッとした。
暴力を振るうお父さんがそんなこと言うだろうか。
この時、私は初めて惠くん自身の言葉を聞いたと思った。
惠くんの喋り方。
片言な言葉。
お父さんの真似をしていた時の流暢な日本語がその言葉にはなかった。
「ありがとう。じゃあね。惠くん。」
私は『あいしているから』と言われても答えはしなかった。
だって私はもう•••
「うん。じゃあね。」
小さい声でそう言う惠くん。
そうして、惠くんは引っ越した。
僕は小さく体育座りをしていたある人に声をかけた。
「ねぇねぇ。レンコンブロックで遊ばない?」
「じゃあ、稜駿くんはりょーくんで、私はちーちゃん。」
仲良くなった私たちは、そう呼び名を決めて『おはこん』と言う挨拶も決めた。
そして、僕たちが引っ越すことが決まると、
「りょーくん。絶対に私と結婚しようね。」
「うん。じゃあねちーちゃん。」
「うん。じゃあね。」
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わかっているのに。
しちゃダメだって。
「うっ!」
「やめっ!」
『ボンッ』『パチン』
私はりょーくんを殴っていた。
握って殴ったり、平手打ちをしたり。
離れて欲しくない。
飽きて欲しくない。
しばらく殴ってから、私はキスをした。
「んっ、レロ•••」
りょーくんの口の中は血の味がする。
私を放って、神崎なんかと一緒にいるりょーくんが悪い。
「ぷふぁー。」
「りょーくんが悪いんだからね。神崎なんかに。神崎なんかに!」
『ボンッ』
「うっ!やめて。」
『パチン』
「いたっ!お願い。」
結局、私も惠くんを真似ることしかできなかった。
狂わせる理由は、逃げたから。
どう狂わせたのか、稜駿と関係ができてしまったから。
ちなみにこども園は幼稚園と保育園を合体させたようなものです。まぁ超絶関係のない話ですが。
次回で第5章も最終回です。
大変な思ったよりも全然時が進まず、お泊りも行けずに最終回。
本当はお泊りに行く程度まで進めたかったですけど。
それでは読んで頂きありがとうございました。




