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貴女の一部になりたい  作者: 子羊
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コレクション

 

「ってことで一緒に行かねぇか? 委員長」


 パチンッと指を鳴らし、近くにいた委員長に話をふる。赤城と席が隣だから話は聞こえてはいただろうが、まさか誘われるとは思わなかったという顔をしている。


「へ? わ、私?」


 ――委員長、びっくりしすぎて眼鏡ズレてるし、固まっちゃってる。


「勉強教えてもらってるお礼もかねて。……まぁ、単純に俺が委員長と行きたいだけなんだけどな!」


 勉強してたのは、本当なのか。嘘だと思い込んでいたことに少しだけ、瀬戸は申し訳なく思った。


 数テンポ遅れて、「キャー」と詩織の黄色い声。口を抑え、頭を揺らす詩織。詩織はこういう少女漫画的、王道展開が割と好きだったりするらしい。


 そして、チラチラと瀬戸を見る。


 ――あれ? なんか、期待されてる?


「ボクに何か付いてるかい?」


 詩織の期待を知りつつ、気づいてないですよ? というようにとぼけてみせる。詩織は瀬戸の言葉を聞き、ガックシと肩を落とした。


「い、いえ。なんでもないです」


 なんでもないという顔をしていない。とても残念そうだ。


「あの……百合川さん、瀬戸さん。ぜひご一緒しても……その」


「全然いいよね? 百合川さん」


「はい、よろしくお願いします。委員長さん!」


「あっ。私の名前は、春川(はるかわ)美月(みつき)と言います。百合川さん、よろしくお願いします」


「はいっ。では、春川さんとお呼びしても?」


「むしろそれでお願いします」


 委員長はビシッと背筋を伸ばし、答えた。さながら、上司と部下みたいだと瀬戸は思った。



「なぁ、なんで二人して同級生に対して敬語なんだよ?」


 同級生にしては、堅苦しい会話を聞いた赤城が、疑問を口にする。その言葉を聞いた二人は、キョトンとした顔でお互いを見つめた。



 詩織は笑顔を見せ、委員長は真顔で理由を赤城達に教えてくれた。


「そう教えられたからです」とニコニコと詩織が。


「こっちの方が、話しやすいんですよ」と委員長は、サラッと言葉を返す。顔が真剣だ。


「「なるほど……?」」


 納得がいったようないってないような。赤城の方を見ると、聞いておいてなんて返そうかという迷った顔をしている。



 赤城、それはないだろと心の中で呟きつつ瀬戸は、ポンと手を叩き空気を変えるように、少し大きな声で話す。


「それにしても委員長は、あの赤城に勉強教えてくれてるんでしょ。赤城はまともに勉強しないタイプなのに。……凄いよ」


 感心したと言わんばかりに、委員長を見つめる瀬戸。視界の隅に、赤城と詩織がふてくさったような顔をしているのが見える。


 そのことに委員長は、まったく気づいていない。


「えっと、赤城くんは集中すると凄い人だから。ただ……まぁ、集中するまでが大変なんですけど」


「へぇー、凄いや」


「ちょっと! 俺はやればできる子だから!!これから、快進撃を見せてやる」


 ありえないことだと笑う瀬戸に対し、応援するからね! と言う委員長。


「ほら見ろ。 これが女子力の差だ!」


 詩織の鋭いツッコミが入る。


「女子力というのは、料理とかのことでは?」



 少し冷たく言った詩織に対し、弁解しようとあたふたしている赤城。だが、そんな赤城を放っておいて女子三人で仲良く話し始めた。


「あ、あれ? 女子力って言わないのか?」


 赤城の呟きは三人の耳には届かなかった。








 ***





「あ、瀬戸さん。肩に糸くずが……」


 小さな糸くずが瀬戸の肩についていた。そのことにすぐに気づいた詩織は、瀬戸の肩に手を伸ばした。


 フワリといい匂いがして、詩織の綺麗な手が瀬戸の肩から離れる。


「ありがと」




 短いお礼に詩織は、すごく嬉しそうな顔をして糸くずを自分の制服のポケットに入れた。


「うん? ゴミをわざわざポケットの中に入れなくても、ゴミ箱が近くにあるぞ?」


「あぁ、これは瀬戸さんコレクションに、入れますから大丈夫です」


 ――せ、瀬戸さんコレクション? え……なにそれ、なにそれ。


 瀬戸は、瀬戸さんコレクションとスマホで、調べたい衝撃と脳内で戦い始める。


「な、何? 瀬戸さんコレクションって」



「瀬戸さんコレクションは瀬戸さんコレクションですよ?」


 何かおかしいですか? 当然のことですけど? とでも言うような顔をした詩織は、頭にハテナを浮かべた。何故か、瀬戸が動揺しているのだ。


「道理で、瀬戸のことをよく見てるわけだ。で、いつから集め始めたの?」


「うーん、告白してからですね」


「え? なんで赤城は平然としてんのさ!」


「いや、瀬戸は気づいてなかったのかもしれないが、体育のときとかめっちゃ、瀬戸のことを見てたぞ」


「それに、瀬戸さんがいた場所を見逃さないっと言わんばかりに辺りを見渡していたんで」


 納得と二人は頷き、笑いあっていた。いや、頷くのもだいぶ意味がわからないし、なにこれと瀬戸は頭を抱える。


 ――ボクの物を集めてたってことは……つまり、詩織はボクのストーカー?!


「それは、何か落ちてないか探してたんです。私、それくらい瀬戸さんが好きです」





 詩織は顔を赤らめ、上目遣いで瀬戸を見つめる。うっ、と息を詰まらせる瀬戸は、いやいやいやと首を振り、そして絶叫する。



「こんな告白、全然嬉しくないんだけど!!!」


 瀬戸の絶叫と学校のチャイムが、被った。詩織はあっ、授業だ! と慌てて、自分のクラスに戻った。




「瀬戸さん的には、瀬戸さんコレクションはオーケーなんですか?」


 委員長が、おずおずと質問した。


「別に、ボクに迷惑かけてるわけじゃないから」


 瀬戸は、意外と満更でもなさそうだ。


「オーケーなのかいっ!!」


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