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貴女の一部になりたい  作者: 子羊
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約束

 瀬戸はいつもの待ち合わせ場所、大きな杉の木に向かって走る。もう十分も遅れてしまっているのだ。


――早めの待ち合わせで、本当に良かった。


 待ち合わせ場所の杉の木は、かなり昔からあり、この町のシンボル的な存在だ。



 目の前に、やっと見えてきた杉の木に安堵しながら、ただただ走る。


「お待たせ、赤城! 昨日はごめんよ」


 木の裏側にいるであろう赤城に、手を合わせ謝りながら、近づいていく。


「おはようございます、瀬戸さんっ!」


 聞こえてきたのは、男性にしては高めの赤城の声ではなく、優しい女性の声だった。


「あれ、なんでここにいるの?」


 覗き込むとやっぱり詩織がいた。

 この場所は、赤城との待ち合わせの場所で詩織は知らないはずと首を傾ける。


「赤城さんに教えてもらいましたよ」


「あ、あいつめ……」


「中間テストで赤点を取らない為に、お勉強だとか」


 確かに、赤城は赤点をよく取る。それで担任にこってりと絞られていた。「立派ですよね」と詩織が微笑む。


「絶対、嘘だな」


 頑張れよー! と背中を押す赤城の姿が想像でき、瀬戸はうんざりした顔でため息をついた。





「あ、そうそう昨日はごめんね。先に帰ってしまってさ」


「いえ……お母様の方が断然、優先ですよっ! だから、気にしないで下さい」


 ――理由を話すなと言ったのに、赤城のやつ。



「うーん、別にたいしたことなかったんだよね」と昨日のことを思い出す。慌てて家に駆けつけてみれば、本人はケロリとした顔で「おかえり」と言っていたのだから。


 瀬戸の母親が体調を崩すことは、瀬戸からしてみれば昔からよくあることだった。



「一応、病院で診てもらったけど、どこも悪くなくてさ。たまにこの時期は、体調崩しやすいんだよ」


「そうだったんですか。異常がなくて良かったです」


「うん、そうだね」


 それからは、会話もなく歩き続ける。詩織がやけにモジモジとして、瀬戸の一歩後ろを歩いているのが気になった。



「あの、瀬戸さん。実は……」


「うん? あっ、もう学校着いちゃったね」


 詩織が、残念そうに肩を落とした。落胆した表情のまま、上履きに履き替える。


「……あの、えっと一時間目の休み時間にまた伺います」


「別にいいけど。あー、教室じゃない場所の方がいい?」


 教室だと、また騒がれるだろうという考えで提案したが、


「いえ、教室で全然構いませんよ」


 涼しい顔でそう言われてしまう。


「……わかったよ。じゃあ、ボクはこっちだから」


 瀬戸は、詩織の教室とは反対方向を、指差した。詩織はそれを見てため息をついた。


「瀬戸さんと同じクラスだったら良かったのに」


「ボクらまだ、二年だよ? 噂だとなんか圧力かけられて、三年に上がる時にクラス替えがあるかもって聞いたけどさ」


「三年の時にクラス替えなんて、珍しいよね」と笑う瀬戸に、「……そうですね」と返事をした詩織の顔が少し、いやかなり怖かった。





 ***



 教室に入ると、赤城がクラスの女子と男子、大勢に囲まれていた。あの赤城が……なんて口に出るまでもなかった。


「よいしょっと」


 無視して、席に座った。


「いやいやいや! 助けてくれよっ、せとぉーー」


 いつも以上に騒ぐ赤城。うるさいったらありゃしない。ピャーピャーと喚く赤城を横目に、瀬戸は教科書の準備を始める。


「せとぉー」と、あまりにもうるさい。


「……どうせ、赤城が何かしたんだろう?」


「お、俺は何もしてないっ! 事実無根だって」


「女子に囲まれて、良かったね! モテてんじゃん」



「なんか違くね!?」と声のボリュームが上がる。これは、ものすごくうるさい。



「なんかね、瀬戸さん。クラスの子が言うには、赤城君が昨日、この学校のマドンナ? って人とデートしたって噂が流れて」


 いつのまにか、隣にいた眼鏡をかけた、二つ結びの大人しい委員長が瀬戸に説明してくれた。


「ち、ちが」


「あー、マジか」


「ったく、説明してんのに信じてくれねぇんだよっ」


 はぁーっとため息をつきながら、自分で蒔いた種だからと皆に説明をし始める。


「皆、聞いて。ボクが元々百合川さんの護衛につくはずだったんだけど、ボク昨日は早退したでしょ? だから赤城に頼んだんだ。不安だったからさ」


 すごく適当な言い訳だが、周りは「なるほど」と納得した顔をする。「瀬戸さんは強いもんねー」とも言われた。


――ちょっと嬉しい。


「照れてんじゃねぇよ! それに護衛って流石に……無理があると思うんだが」




「なるほど、確かに赤城は瀬戸の子分だしなー」と周りの理解力は素晴らしかった。


 失礼な! と憤慨する赤城だが、


「誰が子分だっつうの!!」


 そう言う赤城は、どこか嬉しそうに見えた。







 休み時間、詩織が走ってくるのが見える。わざわざ瀬戸の席に、来てくれた。


「先程のお話なんですけど、新しくできた遊園地があるのですが、一緒に行きませんか?」


「遊園地? うん、ぜひ行きたいな」


 久しぶりだなーと笑う瀬戸。


「あ、あのチケットが四枚あって……」


「じゃあ赤城入れるとして、あと誰にする?」




「それ! 一人誘いたい奴いんだけど、いいか?」


 赤城が声を張り上げ、提案した。

まだ、ストーカー要素が出てきてないですね。ストーカーといってもほのぼのなので、安心してくださいね!


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