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貴女の一部になりたい  作者: 子羊
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ボク達の選択


 それからというものの二人は、まだ乗れていなかったアトラクションに乗りまくった。ジェットコースターを三回も乗った。


 ソフトクリームを「あーん」なんて恋人みたいなこともやってみたり、とにかく甘い時間を過ごせた。



 はしゃぎすぎて疲れてしまい、歩いているとぐうう〜と瀬戸のお腹が鳴った。



 予期せぬタイミングでのハプニング(お腹の音)に瀬戸は顔を赤らめ、はにかんだ。



「お、お昼の時間だね」


「んぐっ……そ、そうですね」


 詩織は悶えるようなしぐさをしたあと、またいつもの調子に戻った。


 戻ったのはいいが、まだ顔がニヤけている。




「結局、赤城達に一回も会わなかったね。広いからかなー、一回ぐらいならばったりと会うんじゃないかと思ってたけど」


「言われてみれば、見事に会いませんでしたね」



 動きを止めスマホをいじった後、詩織は急に顔を上げた。


「最後に二人で乗るやつは、あれなんてどうですか?」


 詩織が指差したのは遊園地のシンボル。大きな観覧車だった。



「いいね! 乗ろうか」


「はいっ!」




 *****





 ゆっくりと登っていく感覚。思い出した、 瀬戸はこの感覚が苦手だったということに。ジェットコースターが登っていくドキドキ感とは違う、この感じ。


 そんなことを考えている瀬戸に詩織は心配そうに声をかけた。



「父が何か酷いことでも言いましたか?」


「いや、そんなことないよ。なんか……凄い人だよね。詩織のお父さん」


「瀬戸さんのお父さんも凄い人ですよ」


「あははは」


「フフフ」


 お互い目が笑っていないが、そんなたわいのない父親トークをしていると。


 ピコン


 瀬戸のLIMEが鳴った。反射的に画面を開いてみた。すると、そこには



 赤城 : 衝撃的なことを暴露するぜっ!





 ついに、俺にも彼女があああ!!



 ――よかったねと言いたいけど、謎の空欄がすごくウザいんだけど。



 思わず、はあ……とため息をついてしまい、返信せずにスマホをしまう。あとから赤城に会ったら既読無視だってうるさいだろうが、この際瀬戸にとってどうでもいい。



「赤城達、うまくいったみたいだね」


「ですね、委員長さんからも連絡来ています」


「……はぁ」


「……よかったですよね」



 気まずくなってしまい、自然と会話がなくなってしまった。


 ――どうしよ……この空気。もうボクも言っていいかな? 伝えたいこと……でもな。






 悩む瀬戸だったが、ふと外を見てみると観覧車が頂上へと差し掛かった瞬間だった。



 そしてたまらず瀬戸は声を張り上げた。



「あのさボク、詩織のこと気になってきちゃったみたいなんだ。ボクと付き合ってみないか?」


「えっ」


「…………っ」


「…………………ん」


 反応がない、ただの屍のようだ。そんな言葉が頭の中に浮かんできた。そして、パニックなる。


 ――え、何なんでノーリアクションなの? ボク、死ぬ? えっ。



「……きっていってくれないんですか?」


「ご、ごめん。……なんて?」





「好きって言ってください!!」


「えっと……」



 顔を真っ赤にした詩織がいきなり立って大きな声を出したので、ゴンドラがガタリと揺れる。



 ――うわっ、揺れた。けっこう怖いな、詩織も怒ってるはずなのに可愛い顔してる。……詩織の笑った顔が見たいな。




「好きだよ、詩織」


「……う」



 今度はちゃんと目を見て言えた。詩織は複雑すぎて、どこか感情が抜け落ちたような顔をしている。



「ボクの気持ちを受け止めて?」




 詩織の手を握り、とりあえず座らせると詩織の瞳が揺らぎ始めた。



「あの、本当に?」


「ボクが嘘をつく理由がないよね」


「……そうですよね」



 また詩織は黙り込む。




「へ、返事聞かせてくれない?」






「私も瀬戸さんを愛しています。私、瀬戸さんが考えているよりも酷い人ですよ? 瀬戸さんコレクションだって集めていますし……それにお付き合いって意味分かってます? 大丈夫ですか、瀬戸さん。私は……」


「待って!! 詩織、落ち着いて。落ち着いて」



 ――あ、あ、愛してるなんてまだ言ってないよ。顔が近いっ、近すぎるよ。



 いい匂いが顔をかすめた。詩織の整った顔が近くで見える。いっそ、このまま……という気持ちを抑える。



「お、落ち着いて……ね?」


「すいません、取り乱しました。これは夢ですか?」


「いいえ、現実です」


「……私なんかでいいんですか?」


「うん、それはこっちのセリフだよね。ボクなんかでいいの? お金とかたくさん持ってないし」


「そんなの関係ありませんよ。瀬戸さんは瀬戸さんですから」



 詩織のその言葉に体温が上がってしまう。そっと詩織から視線を外し、外の景色を眺める。だいぶ時間が経ったのか地面へと近づいている。


 二人きりの時間が、終わってしまう前に堪能したいのだ。この時間を。



「詩織、好きだよ」


「わ、私もです」



 肩を優しく抱き、勇気を出して顔を近づけていく。詩織は理解したのか、目をつむってくれた。







 そして触れ合うだけの優しいキスをする。柔らかい唇が触れただけで幸せになる。



 いっそこのまま時が止まって二人が溶け、一つになってしまえたらこれから先、辛いことは起こらない。



 幸せな世界で生きていける。





 きっとボク達はこの先、あの時が何も知らなくて一番幸せだったねと笑い会う日がくるのだろうか。



 それでも今が幸せになれるように、最善を尽くすんだ。



 それが一番、ボク達らしい生き方だ。

これでこの物語はおしまいです。

読んでいただき、ありがとうございました。


後書きって何書けばいいか迷います。難しいです。


とにかく、ありがとうございました!!





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