表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴女の一部になりたい  作者: 子羊
1/23

告白



 放課後の教室。先程までは人で賑わっていた、この場所も今は静まり返っている。


 そこには、二人の人影があった。よくある告白の場面というものだろう。二人は一切会話などはなく、ただ時計の針の音だけが響き渡る。


 唇をキュッと結び、少女は沈黙に、耐えきることができなかったのだろう。一歩後ろに下がった。

 目の前で、あのキリッとした緑色の瞳と目が合い、そして少女が先に口を開いた。


「……ごめんなさい。こんなことを言ってしまって」


 少女は悲しそうに、言葉を紡いだ。少女はもうとっくに気がついていた。

 長く続く沈黙、それが告白の答えなのだということに。


 すると、目の前の人物が口を開いた。


「ボクは、ボクから言わせてもらうと、その……君にはもっとふさわしい人がいると思うんだ」


 ふさわしい人という言葉が、やけに重く響き少女は、肩を大きく揺らす。


「私は、あなたが好きなんです。この気持ちに嘘などはないのです」


 はっきりとした言い方にたじろぐ。だが、恐らく好きと言われて、満更でもないのか少し顔が赤い。


「でもね……ボクは」


 名前を知らない少女の方へ、一歩を踏み出す。

 膝の方へゆっくりと手を持っていき、フワリと裾を掴む。


 そして



「……女だよ?」


 スカートの裾を揺らす少女の姿があった。








「それでどうなったんだよ! 瀬戸っ!! その告白は」


 隣で全てを話し終えて、満足そうにしている瀬戸に摑みかかる勢いで話しかける。

 瀬戸と呼ばれた人物は、話はもう終わりだよと言い、笑う。


「よく男の子に間違えられるんだよ。制服はスカートなのにさ!」


 本人の言う通り、女子だということには一瞬だと気づかないのだろう。中性的な見た目、肩よりも短い髪。だが、緑色の瞳はパッチリと開いていて印象に残る。



「んっがーー。世の中不公平だよな!なんで、お前が女子にモテるんだよ」



 キャンキャンと犬みたいに吠えている男は、瀬戸の幼馴染。名前は、赤城 祐介(あかぎ ゆうすけ)。いかにもチャラい男子といった感じで制服を着崩している。


 至って普通の男子で、顔も悪くない。ただ口の悪さと馬鹿正直な所が、女子達が遠巻きに眺める要因なのだと、本人は気づいていない。きっとそういうのがいいという女子にならモテるのだろう。


 まぁ、そんな所も含めて一緒にいて楽しいのだと、瀬戸は一人微笑む。






 会話を続けながら、通学路を歩く二人。二人の背後から、軽やかに走る音が聞こえる。瀬戸は、思わず振り返った。


 そこには


「瀬戸さんっ! おはようございます」




 昨日、フったはずの女の子がいた。



 瀬戸が一瞬見せた引きつった表情に、赤城は気づく。……あの子が話に出ていた女の子なのだと。


「え……おいおい! あの子、隣のクラスのうちの学校で一番モテて、裕福なとこのお嬢さんじゃねーかっ」


 早口で聞こえないように、瀬戸に告げる。


「説明が長いね。いいところのお嬢さんなのか? それに……ずいぶんと人気者のようだね」



 彼女がふわりと笑顔を見せるたびに、登校している生徒達の足が止まり、背中からたくさんの熱い視線をヒシヒシと感じる。



 そんな空気を物ともせずに、少女は無邪気にキョロキョロと辺りを見渡す。


「普段はお車で学校に……その、歩いて登校するのも良いものですね。大発見ですっ!瀬戸 明美(せと あけみ)さん、改めてよろしくお願いします!」


 名前を呼ばれ、瀬戸の顔色が変わった。



「……っ。早くいくよ、赤城」


「え……ま、待てよ。おい!!」


「あ、あの瀬戸さん」


 戸惑う声が聞こえ、すかさず強い言葉を口に出す。


「悪いけど、昨日ボクはちゃんと断ったよね? これからも、こうやってつきまとうつもり? 」


「でも、あの私は……」


「早く行くって言ってるだろ!! 赤城」


 スタスタと歩き始める瀬戸に、赤城が遠慮がちに言葉を紡ぐ。


「あぁ……でもいいのかよ、あの子置いていっても」


「ボクには、関係のないことだし。周りの人が助けてくれるだろうさ」


 ちらっと後ろの様子を伺うと、ほらもう人が話しかけていた。



「ほらね。……それに面倒くさいことには、関わらない方がいいに決まってる」


 そうポツリと零した瀬戸の表情を、後ろの少女を気にしている赤城は、気づかなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ