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第98話 〜共闘〜 夜目線



マヒロ・アベ。

他の種族ではほとんど絶滅したと思われる魔法陣の使い手で、俺が知っている中でも一位二位を争うほどの実力者。

魔力量も魔族随一で、暴走した魔王様を止めることができる唯一の人。


そんな人に俺は牙を向けている。

はっきり言って、勝つ見込みはない。

こちらは地上からここまで全速力かつ二人を乗せてきた上に、先程の戦闘で少しばかり怪我をしている。

魔力もあと一度の『変身』くらいの量しかない。

ここを凌いでもアウルム・トレースがいる以上、命の保証もない。


俺は視線を背後に向けた。

頭を負傷したアメリア嬢と、必死に血を止めようとしている主殿。

迷宮の最下層で死ぬ運命にあった俺を拾ってくれた二人。

我が主はアキラ・オダ一人だが、アメリア嬢も同じくらい大事だ。

そのアメリア嬢に怪我をさせた目の前の相手を許すわけにはいかない。



「お前、そんな性格だったか?もっと従順だった気がするんだけどなぁ」


『主と主の大切な人を傷つけられた。ただそれだけだ』


「ああ、そうかい」



マヒロが両手を合わせる。

開いた手のからは美しく、気が狂うほど複雑な魔法陣が生み出された。

構成スピードもさることながら、これほどの魔法陣を失敗することなく一人で生み出してしまうマヒロは、確かに魔族の二番手に相応しい。



「あのまま迷宮で殺されてりゃあ、こんな目に合わなかったのになぁ。……ご愁傷様〜」



目の前に浮かぶ光を見ながら、おれは頭の中で思い描いた。

俺の中の最強。

今まで戦ってきた者の中でも、マヒロに敵う程の力を持った者。

俺の体が発光する。

『変身』が始まったのだ。



「……夜。その人は……」



後ろで主殿が呆然としているのを感じた。

まだ変身の途中でしかも後ろ姿なのに気がつくとは、流石だ。

無理もない。

何しろこの人間は主殿の目の前で死んだらしいのだから。



「へぇ……。今は亡き賢者、サラン・ミスレイね」



金色の髪が首の後ろを流れ、四足歩行ではなく二足歩行へ。

体が人間の構造へと変身する。

純白の鎧を身につけ、冷たい眼差しでマヒロを睨みつけるのは、主殿が恩人で師だと言ったサラン・ミスレイその人だった。



『人間に変身するのは魔力の消費が多い上に、このあと動けなくなる。一気に終わらせてもらうぞ』



元々動物の俺が人間の真似事をするのは骨が折れる。

本当は主殿にこの姿を見せたくないのだが、今の状況でそんなことは言っていられなかった。

俺は右手を上に掲げる。



『我が身は剣となり、我が主に仇なす敵に光の鉄槌を――『光槌(こうつい)』』



賢者でありながら戦闘力もずば抜けて高いこの男が使う光魔法は、闇のものである俺には少々きついものがある。

だがそれはマヒロも同じこと。

掲げた右手に光が集まり、槌の形に凝縮されていく。

凄まじい力が集められたその槌は、落とされればどうなるか、想像に難くない。



「くはははははっ!!いいねぇ!久しぶりに見たよその姿」



パァンッ


澄んだ音を響かせて、マヒロは新たに巨大な魔法陣を生成する。

魔法師を何十人も集めないとできないほどの大きさのそれは、たった一人の魔族によって一瞬で作り出された。



「『雷王(らいおう)』、『金色(こんじき)の光(ひかり)』」



最初に作った魔法陣と巨大な魔法陣に魔力が注がれる。

魔法名を聞いて、俺は目を見張った。

どちらも見たことがある。


『雷王』はその名の通り、雷を生み出す魔法。この魔法ひとつで人族の国一つくらいなら簡単に落とせるくらいの威力を持っている。

『金色の光』は光魔法で、『光槌』と同等かそれ以上の威力をもつ魔法だ。


魔族は光魔法の適性など一つの例外を除いて決して出ないが、魔法陣は適性外の魔法をも発動させることができる。

味方だったときは心強かったその魔法も、自分に向けられるとなると恐怖そのものでしかない。



「『影魔法』起動」



魔法陣の魔力が溜まりきる前、『光槌』が今にも落とされそうなほど輝いている中で、静かにその声は迷宮内に響いた。



『主殿!?』



思わず後ろに目を向けると、主殿はアメリア嬢を外套をかけて迷宮の壁にもたれかからせていた。

その頭をひと撫でして、こちらに目を向ける。



「夜にだけ背負わせない。それに、光が溢れるこの空間は好都合だ」



『光槌』の光にマヒロの魔法陣から出る光。

いつもは薄暗い迷宮内に光が溢れ、それと比例して影も濃くなっていた。


どうやら主殿は気づいたようだ。

『光槌』と『金色の光』は威力が同等。

つまり相殺される。

『雷王』は広範囲型の魔法で、マヒロはおそらく、『光槌』を相殺したあとに『雷王』で全員を殺すつもりだったのだろう。

もちろんそんなことはさせない。

我が身を犠牲にしてでも主殿たちを守る。

そのつもりだった。



「お前が死ねば俺も死ぬ。忘れたのか?悪いが俺はまだ死ねない。夜はその魔法に集中しろ。あっちは俺がなんとかしてやる」



主殿のために死ぬ覚悟はとうの昔に出来ていた。

あとは契約を破棄するだけで、主殿は死なずにすむ。


従魔は相互の了承の上で成立する、一種の契約だ。

俺が破棄すればもちろん効力を失うし、主殿が俺のことをいらないと思えば、どちらかが死んでも道連れにはならない。


だというのに、この人は俺を死なせてくれないらしい。



「その人のこと、後でじっくりと教えてもらわないとな。……それに、夜と共に戦うのは主と従魔という感じがしていい」



大抵の敵は主殿単体、または俺単体で事足りる。

オーバーキルをしたいわけではないため、 従魔といえども主殿と共に戦うことはあまりなかった。


背中を任せる人がいることをこれほど心強く感じるとは。

アメリア嬢が攫われたときも共闘したが、あのときは変身した魔物の性質のせいで意識が混濁していたためあまり覚えていない。

そういえば、あのとき主殿はなんと言ったのだろうか。

……これはなんとしてでも生き延びて聞かねば。



『任せた』



アメリア嬢は主殿が守る。

俺は『光槌』に思う存分集中できた。



「死ね」



お互いの魔法が放たれ、上から打ち下ろされた『光槌』と下からの『金色の光』が空中でぶつかり、激しい衝撃を撒き散らしながら相殺される。


続いて『雷王』の魔法陣が発動された。

が、それは主殿の『影魔法』が空中に伸び上がり、魔法陣ごと『雷王』を喰った。



「なっ!?」



掻き消える光に、さすがのマヒロも困惑気味だ。

まぁ魔法が魔法陣ごと喰われたなんて今まで体験したことなかっただろうから。

いい体験になったのではないだろうか。



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