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第96話 〜反転結界〜



アウルムが笛を吹いたあと、音がない音が迷宮を反響して伝わっていったのが分かった。


一騎当千の強者も居れば強いが一人。

数も立派な武器である。


俺たちは壁から出てきた魔物たちによってあっという間に分断されてしまった。

しかも、魔物に乗ったアウルムが向かった先には、たしかリアがいたはずだ。

護身用に短剣を身につけていたはずだが、相手は迷宮最下層の魔物と魔族だ。

俺や夜、アメリアならともかく、リアの攻撃力では対処できないだろう。


ここは『影魔法』で一気に片付けたいところだが、アウルムがまだ生きている以上、魔力の消費が激しい『影魔法』は温存しておきたい。


こんな時にアメリアの『重力魔法』があれば……。



「『グラビティ』」



そんなことを思っていたら、凛とした声が響き、俺を囲んでいた魔物たちが、まるで大きな手に上から押さえつけられているように地に伏せた。

一気に視界が開けた。

視線を向けると、夜に支えられながら魔法を行使するアメリアがいる。

肩には、裾が地面を擦っている俺の外套を羽織っていた。

そういえば戦いの最中に放った気がする。



「アメリア!夜!」



魔物たちを飛び越えて一人と一匹に駆け寄ると、アメリアは険しい顔を緩ませた。



「アキラが呼んでる気がした」



まさに以心伝心だな。

無理はさせたくなかったが、顔色はそんなに悪くないし、結果オーライだろうか。



「ああ、助かった」



久しぶりに頭を撫でてやると、アメリアはまるで猫のように頭を擦り寄せてきた。

どうやら随分と寂しい思いをさせてしまったようだ。



『主殿、結界が消えていないということは……』



こんなことをしている場合ではないとばかりに夜が間に入ってきた。

アメリアと会えたことで気分が舞い上がっていたかもしれない。

確かに、こんなことしている場合ではなかった。



「ああ、リアはまだ死んでいない。それに、さっきよりも強化されたようだな」



短刀を腕に突き立てようとするが、淡い光に跳ね返される。

今の状態ならアウルムの攻撃も防げそうだ。

迷宮に入ったばかりのときはあれだけ頼りなさそうだったのに、どうやらリアは本番に強いタイプだったらしい。


結界がまだ発動されたままということは術者が死んでいないということの証明となる。

リアは自分が張った結界が消えると感知できるらしいから、俺たちが全員生きていることに気づいているだろう。

とりあえずは全員の生死確認はできた。



「リア?……浮気?」



女の名前にアメリアが敏感に反応する。

思わずアメリアの額に指弾をすると、アメリアは額を両手で押さえて涙目で俺を見上げた。

うん、可愛い。

……ではなく、



「俺がアメリア以外に目移りするわけないだろう。リアは守り手っていう職業で、獣人族の王女。アメリアが魔族に狙われていると知って忠告に来たんだと。……まあ遅かったわけだが」



リアが忠告してくる前にアメリアは攫われていたのだから。



「そう。守り手に会うのは初めて」



アメリアほどではないがレア職業らしい。

なんか俺の周り、レア職業のやつが多いな。

レアの意味はどこへ。



『魔物だけならともかく、魔族相手はいくら守り手でも無理がある』



夜の言葉に頷く。

本当はこんな会話をしている場合ではないはずなのだが、なぜか俺は大丈夫だと思っていた。

この世界に来てから、スキルという意味でも第六感という意味でも磨かれた『危機察知』が全く反応していない。

リアは大丈夫だ。


かと言って助けない理由はないのでリアに群がる魔物を外側から崩すことにした。

俺たちの近くにいた魔物はすべてアメリアの『重力魔法』がぺちゃんこにした。

生きているのはリアの周りの魔物だけだ。

幸いにもアウルムはこっちの魔物が全滅していることに気づいていないらしい。


いざ手をかけようとしたとき、中心から力強い声が響いた。



「『神の反転結界』」



リアがいると思わしき中心が光り、同時に俺たちの体も光りだす。



『な、なんだ!?』


「落ち着け、悪いものじゃない」


「結界?」



三人が各々違う反応を見せる中、アウルムの命令で魔物たちが一斉に中心に襲いかかった。



「……へぇ。結界にこんな使い方があったんだな」



一瞬の静寂の後、リアに襲いかかったと思わしき魔物たちが倒れた。

鋭い爪で引き裂こうとしたものは体に爪の跡を残して。

尖った歯で噛み付こうとしたものはくっきりと歯形を残して。

魔法を放ったものは跳ね返ってきた魔法に当たって。


魔族に殺せと命令されたのだから、きっと本気で攻撃したのだろう。

それが、すべて自分に返ってきている。

すべての攻撃が反転していた。



『いや、歴代の守り手の中にこんな結界の使い方をする者はいなかったはずだが』



夜が目を見開きながら驚く。

アメリアも僅かに目を見開いていた。

俺も驚いていないわけではないが、予測はしていた。



「だとしたらオリジナルか」


「魔法を自分で作ったってこと?」



片手で魔物の頭を掴んでぶん投げる。

投げられた魔物は壁に激突してひしゃげた。

アメリアも小さな『重力魔法』を使って、夜を後から襲おうとしていた魔物を潰した。

リアと目が合う。



「みたいだな。それに、さっきよりもいい顔をしている」



一瞬だけ交わったコバルトブルーの瞳は何かを決意したような色をしていた。

命が脅かされる危機に陥って一皮剥けたらしい。





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