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第92話 〜どこへ〜 リア・ラグーン目線



初めてのリア目線です。



私だって実戦経験がないわけではない。

王族になる前の家では狩りで生計をたてていたため、スキルこそないし冒険者に比べればそれほどでもないが、それなりの場数は踏んでいるつもりだった。

だからお供も付けずに一人でこの迷宮に来たというのもある。

だけど、この人はそんなレベルではなかった。



「一体なにが……」



私は目の前の光景に愕然とする。

翼はもがれ、片足は遠くの壁に当たって肉塊となっている。

そして何より、今まさに私を喰らおうと大きく開いていたサメの頭部がない。

少し視線をずらすと、それは自分に何が起きたのか理解していないような表情で傍に転がっていた。


一体何が起きたのか、私にはわからない。

私が見えたのは、アキラ様が黒い短刀二本を両手に構えたときまでで、それからいつの間にか翼と足が落ちて首が飛んでいた。

これでも、動体視力は悪くない。

それなのに何も見えなかった。



「アキラ様が倒したのですか?」


「は?他に誰がいるんだよ」



思わず聞くと、返り血すら浴びていないまっさらな格好でアキラ様が眉を顰める。

確かに他には誰もいない。

ヨル様も私が上に乗ったままだったため動かなかった。


自分でも魔物を倒したのがアキラ様だと分かっているのだが、魔法を無効化する魔物相手に刃渡りの短い短刀で首を飛ばせるのか、いささか疑問であるし、こんなにもあっさりと第八十階層のボスが倒されてしまったので、頭が混乱したのだ。



「あの、そんな短刀で樹木ほどあるこの魔物の頭部を斬るのは不可能だと信じていましたが」



今まさに、普通とは何ぞや?と頭の中が軽くパニック状態だ。

自分の常識があっさりと覆されそうで、少し怖い。



『主殿、俺は慣れてきたからそこそこ見えるが、普通の人間には主殿の姿は速すぎて見えんのだ』



ヨル様が気を利かせてくれた。

“アドレアの悪夢”と呼ばれている魔物のはずだが、この数時間で恐怖心はかなり薄まった。

やはり噂はあてにならない。

たしかにすごい力を持っているのだろうが、今のヨル様は完全なるアキラ様の忠猫だ。



「そうなのか?」



自覚がないのか、首を傾げるアキラ様に頷いた。

アキラ様はヨル様によじ登りながら説明する。



「そりゃ短刀だけでは魔法無効化能力を持つポセイドンの首は落とせないが、魔力は別だろ?魔法の無効化であって魔力の無効化ではないからな」



私はまだ理解できなかった。

というか、魔力だけ使うなんて聞いたことがない。


魔力は魔法を使うための燃料。

火をつけるために木を燃やすように、木である魔力がないと火である魔法はつかない。

だが、木だけでも火はつかない。

ふたつ揃って初めて攻撃となる魔法が生まれるのだ。



「魔法は魔力を含んでいるため、魔法を無効化すると同時に魔力も無効化されると思っていましたが」


「正論だが、魔力は魔力であって、魔法ではない。いくら魔力を含んでいたってそれは魔法という存在になってしまっているから、魔法無効化は魔法しか無効化できない。……と、俺は解釈している」



つまりは魔法を魔力が含まれたものとして考えるのではなく、魔力を使って存在するものとして考えるということかな。

それならたしかに辻褄は合う。



「なるほど。ですが、魔力の直接操作なんてどうやって鍛錬したんですか?」



独学だろうか。

魔力の操作はたしか初代勇者様が得意とされていた技だったはずだが。

いく人もの人が挑戦したがついに誰もできなかったはずの技である。

そう、誰も辿り着けなかったのだ。



「鍛錬なんかしていない。無茶振りされたらたまたまできた」



天才という人間に、私は初めて会った。

思わずポカンと口を開けてしまう。



「そ、そうですか」



そもそも、アメリアが『影魔法』を使わずにホワイトバットを倒せなんて言ったからだよ、なんてブツブツ言っている。


たまたまで初代勇者と同じことができるということは、つまり初代勇者と同じ可能性を秘めているということ。



「アキラ様、あなたは本当に暗殺者なのですか?」



今回召喚された勇者は何もせずにただ城にこもったままだという噂だ。

だから、私は勇者を許すことが出来ないのだ。

こちらの勝手で召喚されたのは理解出来ている。

でも、勇者という職業を貰っておいて何もせずに城で、ただ過ごしているらしいのだ。

これでは死んだ家族がうかばれない。


アキラ様が勇者の方が、よかった。



「俺は暗殺者だよ。……まだ人を殺したことこそないし、暗殺者らしくないとは思うが、暗殺者だ」



鋭い目で私を見て、アキラ様は言い放った。

その目は、なにかを見据えている気がした。



「行くぞ」



第八十階層のボスを瞬殺しても、その光が途絶えることはない。

おそらくもう魔族以外の人間ではかなう者がいない強さを持っているのに、まだ足りないという顔をしている。



「あなたは……あなたはどこを目指しているの?」


「家だ」





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― 新着の感想 ―
[一言] 確かにそろそろ殺しの経験が必要だよね。このままじゃ大事なところで敵を逃がしてしまうだろうし。
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