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第82話 〜“闇の暗殺者”爆誕〜

遅くなりました



目が覚めたのはその日の夕方。

すぐにでもアメリアを探しに行きたいと主張する俺を、クロウと夜は宥める。



『今からどんどん闇が濃くなる。確かに、闇は暗殺者の領域だが、魔物の領域であることを忘れるな』

「まだ全快には程遠い。寝てろ」



なぜ二人が落ち着いていられるのか理解ができず、アメリアのもとに行けないことでイライラした。



「なんで、……なんでそんなに落ち着いていられるんだ?」



イライラを分散させるように壁を叩く。

八つ当たりだとは分かっていた。

俺が今この状態なのは俺が後先考えずに影魔法を使ったせいだし、二人もアメリアのことが心配で心配で堪らないのも分かっている。

でも、当たらずにはいられなかった。



『……俺は落ち着いてなんかないぞ、主殿』

「俺は落ち着いているがな。“闇の暗殺者”殿?」



飄々と答えるクロウにイラッときて、再び口を開こうとしたとき、何かが引っかかった。



「“やみのあんさつしゃ”?」



動揺しすぎて、思わず平仮名になってしまう。

頭が混乱して、漢字変換してくれなかった。


クロウはそんな俺を見て、ニヤリと笑う。

これまで、出会ってから散々クロウの嫌味は聞いてきたが、これ程背筋に悪寒が走る笑みは初めて見た。



『……主殿の二つ名だそうだ』



一番言われたくないことを夜が言い放つ。

こいつ、わざとか?

俺の親友の京介は、完全に無自覚で人の触れられたくない所をピンポイントで突いてくるが、もしかして夜もその口だろうか。



「お前が最後に影魔法を使って魔物を殲滅した姿を、避難していた丘から皆が見ていたらしくてな。黄色ランクの冒険者としては異例の二つ名持ちが速攻で決まった。しかも、ギルド公認だ。……良かったな。大層格好いい名前をつけてもらって」



俺の肩をポンッと叩き、クロウは部屋から出ていった。

俺は頭を抱える。



「いやいや、暗殺者が目立ってどうすんだよ」

『確かにそうだな。まあ、主殿がそこいらの他の暗殺者に遅れをとるとは思えんが』



夜がフォローらしきことをしてくれているが、俺の傷はそこじゃない。

……何なんだよ。

その厨二病感溢れる二つ名は!

というか、二つ名ってなんだよ!

初めて聞いたわ!!!

そんな制度あったのか!!



「……ぜっっっったいに、クラスメイトには知られたくねぇ。京介とか勇者には特に……」



京介は、きっとまたあの無表情で『良かったな』とかなんとか言ってくれそうだ。

それも心の底からそう思っているのだから、なおさらタチが悪い。


勇者の方は、きっとあからさまに引いた顔をするだろう。

事情を話したら、『それは災難だったな』と、言うに違いない。

それはそれでムカつくが、その後に会話内容を女子に聞かれて全てを話し、クラス全体に広がっていくところまで想定できた。


俺は頭を抱えたまま、ため息をつく。



「……はぁ。なあ夜、二つ名をもっと無難なものに出来ないかな」

『できんことはないが、街ではどこもかしこも“闇の暗殺者”で話題か持ちきりだったぞ?もう取り消すのは難しいであろうな』



事の重大さが分かっていない夜は、なぜ二つ名をそこまで拒むのかが分からず、首をかしげていた。



「そっかー。……目立っていいのか暗殺者。……というか、俺の魔法は『闇』じゃなくて『影』だし」



俺の言葉に賛同するような気配が、俺の影からする。

だよな、お前もそう思うよな?



『遠目から見て、闇を従えているように見えたのであろう。そもそも影魔法などという魔法は認知されていない。影であってもあの時は空一面が闇に包まれたのだから、ある意味間違ってもおらんし』



そもそも、“闇の暗殺者”以外にしっくりくる二つ名などあるのか?と首を傾げる夜。

くそう。

論破された。


そもそも、影属性の魔法を持っていて、なおかつ暗殺者をやっている時点で厨二病であることに変わりないように思える。

向こうの世界に戻ることになったら、こいつらの口を封じることを最優先にしないとな。



「……今日のところは大人しく寝る。が、明日は朝早く出るからな!」



悔しくて布団をかぶっていると、また眠くなってきた。

どうやら、体はまだ睡眠を欲しているようだ。

俺の体のことを俺以上に知っていることがすこし気に食わないが、俺を思ってのことだというのはわかるので、我慢しよう。


そう言えば、向こうの世界でも、悔しい時や怒られた時なんかに布団を被っていると、大体寝落ちして、有耶無耶になっていることが多い。

流石に高校生にもなってしていたら、妹の唯から一言、子供っぽいと言われ、しなくなったが。



『はいはい』

「……はいは一回」



ぼんやりとする頭で、それだけ言うと、再び頭は布団に落ちた。



『……魔力枯渇の反動は大きい。ましてや主殿の場合は一度死にかけたのだからな。一日二日で治るわけなかろう』



それだけ呟いて、夜も部屋から出た。


影魔法が魔力を自己回復したと言っても、許容範囲内のギリギリまで。

死なないギリギリのラインだったのだから。

そして、晶の体は魔力を欲している。

近くにいると魔力を抜き取られるような感覚がする程に。

実際に抜かれているわけではないが、そんな状態で町中を歩いたら、どうなるかわかったものではない。


今のところ、魔力回復のポーションを少しづつ服用して、あとは睡眠で回復するしかないのだ。

晶の魔力回復率は七十パーセント。

ここまで来ればいいじゃないかと思うが、アメリア奪還に際しての不安要素は一つでも取っておきたい。


晶も、それは分かっているが、アメリアのもとに行こうとする意識を抑えることが出来ず、眠りが浅くなっている。

だから、普通は一日程度で済む回復が二、三日かかるのだ。



「……早く、早く」




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