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第79話 〜指輪〜



「……ん」



知らない場所で俺は目を覚ました。



『主殿、目が覚めたか』



起き上がってキョロキョロと辺りを見回していると、寝かされていたベッドの横にある窓から子猫姿の夜が入ってくる。

ほっとしたような、どこか疲れたような表情をしていた。



「夜、ここは?」

「私の家だ」



夜に聞いたはずなのに、別の声が部屋に響いた。

聞き覚えのある声だ。



「……クロウ」



黒猫の獣人の鍛治職人は何かを持って近くまでくる。

部屋にはベッド以外に家具がなく、クローゼットさえもなかった。

本当に寝るためだけの部屋なのだろう。



「気分はどうだ」

「最悪だ。俺はどのくらい意識がなかった?それと、アメリアはどこだ」



長時間眠っていたとき特有の気だるさが体を包み込んでいた。

頭が働かない。


この世界に召喚されたときから、死がずっと隣にいる気がして、熟睡出来ていなかったように思う。

それなのに、今は完全に睡眠欲が払拭されていた。

きっとかなりの時間寝たに違いない。


時間が経ってどんどん頭が起きていくにつれて、俺は状況を把握した。

額に手を当てる。



「ああ、そうか。アメリアは魔族に攫われたのか」

『そうだ。ちなみに、主殿が暴れて気を失ったのは三日前のことだ』



夜の言葉に俺は驚いた。

三日間も寝ていたのか。

昔、トラックに轢かれそうだった子供を助けるために、代わりとなって轢かれたことがあったが、それでも意識がなかったのはたった二日だった。

そのときは撥ねられたあとで、ちょうどタイヤとタイヤの間に体が入ってほぼ無傷だったのだ。


今回も見たところ大した傷もない、無傷だというのに、三日も眠り続けるとは不思議な話だ。


そう思っていると、難しい顔をして黙り込んでいる夜が視界に入った。



「夜?どうかしたのか?」



抱き上げて撫でると、夜は猫のように喉を鳴らす。

前に聞いたことがあるのだが、変身のときはその変身した生物に完全に成り切るらしい。

黒猫の時も、気持ちいいところを撫でられると無意識のうちに喉を鳴らしてしまうのだとか。

アメリアと二人で、どちらが早く夜の喉をならせるか、というような下らない遊びもしたものだ。



『主殿は………いや、やっぱりなんでもない』



すごい気になる。

だけど、こうなった夜は、話すという決心がちゃんとつくまで一切話さないのを経験上知っていたので、口を閉ざす。


二人が無言になるのを見計らって、クロウが手に持っていたものを晶の膝の上に落とした。



「これが依頼されていたものだ。それと、お前が使っていた短剣だが、一応刃を研いでおいた。持ち主には、これからも丁寧に使えとでも言っておけ」



戦線を離脱した冒険者から借り受けた短剣はまるで新品のように輝いていた。

そして、もう二振りの短刀の方に目をやる。



「二つに分けたのか。流石に乱暴に使いすぎていたか?」

「そうだな。だがまあ、お前は暗殺者だ。短刀の方が使いやすかろう」



二振りの短刀は何から何まで漆黒で覆われ、抜いてみると刃まで黒だった。

間違いなく、一振りだった“夜刀神”を二本に分けて短刀としたのだろう。

真ん中辺りに大きく罅が入っていたから、そこで割ったのだろうか。

クロウの口ぶりとしては、修復出来ない罅ではなかったが、俺の職業を鑑みて敢えてそこで割ったというところか。



「それと、これも持っていけ」



小さな箱のようなものを落とす。

俺はそれを拾い上げてしげしげと眺めた。

夜は夜で、それを見て目を見開いている。

見覚えがあるらしい。



「おい、これはあの……」

「そうだ。お前が思っている通りのものだ。……開けてみろ」



クロウに促されるまま、俺は恐る恐る蓋を開けた。



「これは指輪?」



中に入っていたのは、血のように赤い宝石が中央に埋まった、武骨な指輪だった。

明らかに男性用だ。

名前が掘られているわけでもなく、ただ内側に文字が書いてあった。



「“我は汝を導く者なり”」



しかも、この世界にはないはずの文字、生憎日本語ではなかったが、日本語の次に慣れ親しんだ、英語であったためにどうにか読むことが出来た。

きっと、初代以外の勇者、英語圏から来た勇者が作ったのだろう。



「流石、勇者だな。それが読めるのか」



正確には勇者じゃないけどな。



「ああ、俺たちが生まれた国ではないが、俺たちのいた世界の言語だ」



なるほどとクロウは頷く。

どうやら、“夜刀神”に彫られた文字と字体が違ったために流石に読めないと思っていたらしい。


ほとんどの授業は寝ているが、国語と英語、数学の授業は起きているようにしている。

将来為になるとか、そんな理由ではなく、ただ単に先生が怖いだけなのだが。

英語の先生は特に、ニコニコと笑って、何も見ていないような顔をしているのに、寝ている生徒がいるとすぐに気がつく。

その上に、寝ている人からバラバラに当てていくので気が抜けないのだ。



「まあ、今お前が読んだ通りだ。その指輪は、装着者が望んだものの在り処を教える。指につけて、お前が欲しいと望むものを強く思え。指輪から出た光の先にそれはある」



心臓がはねたような気がした。

欲しいと望むもの、望んだもの。

つまりは、アメリアの位置も分かるということ。


俺は急いで指輪を右手の人差し指につけてアメリアを強く思った。



「おお!」



指輪から赤い光の筋が出て、部屋の壁を照らす。

そちらは、獣人族の迷宮、ブルート迷宮がある方角だった。



『おい、あれは国宝級の宝のはず。何故お前が持っている?』



アメリアへの道標が出来たのを喜ぶ反面、夜はコソコソとクロウに聞く。

下手をしたら、城の宝庫に収められているはずのお宝なのだ。

そんな夜に、クロウはなんでもないように首を振った。



「昔助けた人からもらった。そいつは身分を明かさなかったから、どこの誰かは知らないが、使えるものだから受け取った」



呪いの品じゃなくて良かったな、と表情を変えずに言い切るクロウに、夜は少しばかり殺意を覚える。

もしこれが呪いの品で、主殿にもしもの事があったなら、すぐにこいつを血祭りに上げてやろうと決意した。



「とにかく、これでアメリアの元へ行くことが出来る。……お前は来るのか?クロウ」



俺が振り返って聞くと、何故だと首をかしげられた。



「お前、アメリアの師匠になってくれるんだろ?弟子を助けに行かないのか?」



やれやれと肩を竦めるクロウ。



「いつ師匠になるって?そんなこと一言も言った覚えがないのだが」

「だけど、ここまでしてくれたってことは少なからずアメリアを思ってるってことだよな?」



俺の質問に、クロウは押し黙った。

何を考えているかわからない瞳で、虚空を見つめている。



「…………そうだな。もし無事生きて帰ったら見てやってもいい」





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― 新着の感想 ―
晶が初めてクロウに会った後、アメリアがクロウを追いかけていったことは知っていても、その理由は信頼故に聞かなかったし、アメリアも夜に口止めし、夜も了承したはずなのに。 なぜアメリアがクロウに教えをこうて…
日本語母語話者が英語から“我は汝を導く者なり”なんてニュアンス読み取ることができるわけ無いと思うが?なんとか読める程度の人が(作者様がどのような原文を考えていたのかは知りませんが)そんな非常に日本語的…
プロポーズかと思った。。
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