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第5話 〜バカ勇者〜

執筆中に日付が変わっていまうという失態。



 異世界召喚なんて稀有な体験、地球にいた頃の俺はしたくてしたくてたまらなかった。確かに最初の方は俺も楽しんでいたが、ところがどうだろうか。いざその状況になってみると、平和で退屈な故郷が恋しい。

 召喚されたけどなぜかステータスが勇者よりも強いし、その為に自分の存在自体隠さないといけなくなったし、王様と王女がなんか企んでるし、クラスメイトは能天気で、勇者はナルシストバカだし……。

 ああ、帰りたい。


 夜中にスパイごっこをしたために睡眠時間が大幅に削られ、その上変な夢を見たためにとてもとても機嫌の悪い俺は、仏頂面で味の薄い朝食を頬張った。ちなみに変な夢とは、台所の魔王、Gが巨大化してどこまでも追いかけてくるというものだった。目が覚めて心底ほっとしている。



「………」



 自分たちの命が現在進行形で脅かされているのも知らずに、ぺちゃくちゃと喋りながら朝食を食べているクラスメイトに少しばかり殺意をおぼえた。なぜこいつらはこんなにも平和でいられるのだろうか。

 昨日部屋に戻ってからふと思ったのだが、王様達の企みなどガン無視して俺だけ城から抜け出す、という手もあるのだ。だが、俺がクラスメイトなど知ったこっちゃないと思っていれば、恐らく昨日のうちにもうここから脱出していたはずである。それをしなかったのは、まだ同郷人に対する情が残っていたからにすぎない。

 何も知らないまま王様達の策にクラスメイトがのまれていくのを見ているだけなのも辛い。どうにかして、王様達に一泡吹かせられないだろうか。



「皆聞いてくれ」



 勇者がみんなが食べ終わるのを見計らって声をあげる。先程までざわついていた食事の間がしんと静まり返った。どうやらクラス全員が勇者をリーダーとして認めたらしい。俺以外。



「昨日は異世界召喚という現象に驚いて、あまり深く考えていなかったが、ここは皆の意見を一致させるべきだと思う」



 お、勇者が真面目なことを言っている。珍しい。普段は、女子の視線がどれ位自分に向いているかしか興味のない男が、まさかクラスメイトしか女子のいない状態で、積極的にクラスのリーダーシップを執りだすとは思わなかった。それだけ勇者という名が大切なのだろうか。

 そして、少し悪い予感がした。



「俺達は強い。恐らく、この世界の住人は俺達に歯向かうことが出来ないだろう。なんなら、この力を世界征服に使ってもいい」



 何言ってんだこのバカ勇者。ニコニコと給仕してくれていた侍女さん達の表情が固まっている。自分達を救うはずの勇者がそんな事を冗談でも言うと不安にもなるだろう。俺達は今、行動するのに一番大切な情報というものがないのだ。そのことをクラスメイト達は軽視しすぎている。

 心の中でそう叫んでいても、バカ勇者の話しの続きが気になって、気配を消したまま物音一つ立てなかった。



「……だが、俺達は日本人の誇りを忘れていないはずだ!! 俺は見ず知らずの人を見返りも求めずに助けるのが日本人の長所だと思っている。俺はこの力をこの世界の人を助ける力として使いたい。……魔王を倒すのを手伝ってくれはしないだろうか」



 やはり、こいつらは何も分かっていない。もし、魔王が人族の領土を荒らしているという情報自体が嘘だった場合はどうするのだ。王様や王女が絶対的な味方であると、どうして決めつけられる?

 そもそも、王様と王女の生活ぶりを見る限り、それ程困っているとは思えない。この朝食も、味は薄いが主食のパン以外におかずが四品目もついているのだ。俺の家では二品目だったのに。



「お、俺は司について行くぜ!!」

「私も! 同行させて下さい!!!」

「俺も俺も!」

「わ、私も!」



 ああ、勇者の暴走の被害者がどんどん増えていく。遂には俺以外のクラスメイトは全員、バカ勇者に賛成した。

 結局俺は姿を現すことはなかった。巻き込まれるのは勘弁だ。



「……皆……。では、この世界の人を救うために、頑張るぞ!!!」

「「「おおおおおおお!!!!」」」



 とてもめんどくさい事になってしまった。俺は机に肘をついて深々とため息をつく。いかにも青春していますと言うこの雰囲気にどうしても馴染めないし、好きじゃない。

 こいつら見捨てて、自分だけハッピーライフに入りたいのだがいいだろうか。自分から出て行くのも癪だし召喚ものの小説でよくあるように、クラスメイトに追い出されるというシチュエーションが一番いいのだが。城を出るにはちょうどいい大義名分になる。

 でも、今にも逃げ出したいのに、結局俺の体は動かなかった。




誤字、脱字などございましたら遠慮なくお申し付け下さい。


4月30日ー大幅に変更。

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― 新着の感想 ―
勇者の『魅力』の力ですか・・・
[一言] 優柔不断、逃げろよ。
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