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第4話 〜盗み聞き〜



一人用の部屋でベッドに寝転んで天井を見上げる。

ベッドは俺を受け止めると少し沈み、再び上がった。

部屋は、泊まったことこそないが、一泊一万を超えるであろうホテルくらい広く、一見綺麗で整っている。

シャワーもトイレもかなりの広さだ。

それが一人一部屋与えられているのだから、この城の広さが窺える。

白く統一された部屋も、使っていなくても掃除と換気がされているのか、埃っぽさを感じないように思う。



「暗殺者なんか、勇者の斥候として適当に働いておけば、勇者が魔王倒して、あとは自由の身。イージーモードだと思ったんだがなぁ」



予感が当たったらの話だが、可能性は低くない。


とんだ詐欺だ。

バリバリハードモードだったじゃないか。

めったに言わない独り言を言いたくもなる。


とりあえず、何か企んでいそうな王様たちの考えを暴くところからだなぁ。

『交渉術』のスキルがあるからだろうか。

相手が何を考えているか、少しだけだが分かる気がした。

カメラもどきの件もあるし、慎重に動かないとならないだろう。


今ふと思ったのだが、向こうの世界でグレていたら盗みのプロだったのではないだろうか。

気配を消して忍び込み、直感でほぼ全ての防犯カメラを察知して死角を動き……。

銀行強盗も出来るなあ。

まあ、やらないけど。

では、暗殺者ができることと言えば、



「……忍び込むことしかないよなぁ。めんどくさいなぁ。なんで俺なんだよ」



そうブツクサと文句を言いながらも黒装束に着替える。

着替えはクローゼットの中に各職業に合った服がかけられてあるはずだった。

もちろん、俺の分はステータスを見られてないので、自分で調達した。

気配を消して城の武器庫に忍び込んだのだ。

見張りがいてヒヤヒヤしたが、無事盗ることが出来た。

もし向こうの世界に帰ることが出来たなら、やっぱり銀行強盗にでもなろうか。



部屋も、悪いが空いていた個室を勝手に使っている。

クラスメイトの数は四十名、昼に教室にいなかったのは十二名。つまりここにいる二十八名が異世界に召喚されたということだ。

これだけの人数、外面だけ良さそうなこの城のメイドでは把握しきれていないだろう。

仕事も完璧に見えて、隅の方にゴミが溜まっていたりしている。

一部屋、使う人が増えていても気づかないだろうと判断した。



「……さて、行きますかー」



黒装束に着替えると、人に見つからないように窓から出て、とりあえず上へ向かう。

城の五つある塔のうちの一つに飛び乗って辺りを見回した。

小さい頃から高いところは好きだ。



「おお……。流石に広いな。これが王都か」



そこからは丁度王都が見え、夜の工場地帯には敵わないものの、煌びやかな夜景となっている。

いくつか街灯が設置されているのが見えた。

他の光はここからでは何か見えない。

まあ、魔法がある世界なのだから、きっと光系の魔法か何かだろう。

文明レベルは文明開化した直後の日本くらいだな。

まだ街灯の数が少なく、使い方もぎこちない。

中心街と思われるところに明かりが集まりすぎている。

あれでは、路地裏では何が起きているか分からないし、犯罪が起こる一方だろうに。

それに、夜だからだろうか、人通りが少ない。

いや、日本の都会と比べるのが間違っているのか?


情報を頭の片隅に押し込んで、俺は気配を探った。



「……よし」



近くに人の気配はない。

警備が一番厚い、おそらく王様がいるであろう塔へ、気配を消したまま窓の鍵が開いているところを探して忍び込んだ。



「さぁて、王様どこかなぁ」



忍び足で一つ一つの部屋の扉の前で聞き耳をたてる。

王様の声は一度しか聞いたことがないが、あの不気味なねっとりとした声はむしろ頭から離れない。

最初の頃は何も思わなかったのだが、今は鳥肌も立っていた。


ある一つの部屋の前に来た時、ようやくヒットした。

随分重そうな扉だ。

書斎だろうか?

俺はそのまま聞き耳をたてた。



「……マリア、ガキどもの様子はどうだ?」

「順調ですわ、お父様。まだ誰も気づいていません。所詮は魔法もない世界から来た子供。自分たちがどう使われるかも知らずにはしゃいで今は寝てます」

「そうか。ならば、このまま計画は進めよう。蔵書室への立ち入りは禁止。明日からサランに鍛えさせろ」

「はい、畏まりました。全ては国王陛下であるお父様のお心のままに」



……予想していたとは言え、怖いな。

先程まで、俺達に笑顔を向けていた人たちが、俺たちを陥れる計画をたてている。

地球でも下衆はいたが、日本は優しい国だったから、俺の中でもまさかと言う思いはあったのだ。


だが、それもここまでだ。





王女が部屋から出てくるのに合わせて気配を消して書斎に入った。


にしても、今見えた王女の醜く歪んだ顔、凄かったな。

優しげに微笑んでいた面影は皆無だった。

女子は皆ああなのだろうか。

男子である俺には裏の顔だとかは理解できないな。


俺は広い書斎の中を彷徨いて王様を探す。

本好きとして並んでいる本に興味が向きそうになるが、ここは我慢だ。


俺は、黒装束の中に入れていた銀色の短剣を出した。

切れ味が良さそうだったから武器庫に忍び込んだ時に一緒にくすねておいたのだ。


奥の方に、王様はいた。

机に向かって何かを一心不乱に書いている。


俺はその後ろに立った。


ふと、ある考えが頭をよぎった。

今なら気付かれずにこいつを殺れる。


でも、まだこいつの目的が分からない。

何のために俺達を召喚したのか。

そして、この国はどういった国なのか。

何より、俺にはまだ人を殺す決意など出来ていなかった。

いや、そもそもここで殺すような野蛮な性格はしていないのだが、仮にそうしなければならなかったとしても、俺は殺すことが出来なかっただろう。

俺はその日、そのまま自室に戻った。


あの時殺していれば良かったと後悔するのは、その一ヶ月後の事だ。



4月26日ー大幅に修正。

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