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第42話 〜その頃〜 佐藤司目線

遅くなりました、すいません!



 この世界で、俺達ほど無知な者はいないだろう。

 本を読むことを禁じられていた俺達は、この世界のことを何も知らなかった。そもそも、何故禁じられていたのかも、分からなかったのだ。お金、政治、地理、歴史、伝統、文化、宗教。そのどれも、平和に暮らしていくためには必要な知識で、そのどれをも俺達は持っていなかった。あいつらが、持たせなかった。俺たちも、持とうとしなかった。


 晶なら、どうしただろうか。晶は嫌いだが、あいつの才能と努力は認めている。

 それでも俺は……。



「……い、……おい、佐藤!」



 思考の海に沈んでいた意識が一瞬で浮かび上がった。目の前では純白の刀を下げた朝比奈君が俺の肩を揺さぶっている。



「大丈夫かよ?」


「いや、悪い」


「しっかりしてくれよ。お前がダメになったら、俺達みんな死ぬぞ?」



 朝比奈君の隣で俺を覗き込んでいた和木君の言葉に俺は、大袈裟だなぁと笑って、腰掛けていた大きな岩から立ち上がった。


 俺達は現在レイティス王国を抜け、人族の領土で最も平和を愛する国、“大和”(やまと)を目指している。今はその途中にある森の中で休憩していた。

 道中に出会った商人に聞くところによると、大和は日本に似ている……と言うか、日本から召喚された何代目かの勇者が建国した国らしいので、第二の日本だと言ってもいいだろう。流石に科学技術などはないが、時代は江戸時代くらいだろうか。日本の主食、米がある。日本に似ているから行きたくなったとかいう理由ではなく、パンに飽きていたため米が恋しくなったから目指すといったところだ。



「そう言えば、朝比奈君は何故俺についてきてくれているんだ?」



 ずっと聞きたかったことを問えば、朝比奈君は難しい顔をして黙った。



「言いたくなかったら言わなくてもいいよ? ただの興味だから。」


「お前は怒るかもしれないけど、いいか?」



 でかい図体の割に細かいところを気にする男だ。細かいことは全く気にしない晶とは真反対だな。



「晶と合流するためだよ。お前と晶はどこかしら似ているから、お前について行けばいずれ晶に会えると思った」



 恐る恐るこちらの顔色を伺う朝比奈君に、今度はこちらが恐る恐る問う。



「似てるって、具体的にはどこら辺が?」


「……どこら辺がと言われても、雰囲気がか?」



 首を傾げる朝比奈君。いや、君が言ったんだよ。

 俺は鳥肌が立つのを感じた。まさか、俺が今まで感じていた晶に対する敵対心は同族嫌悪だったって事か? いや、そんなまさかな。



「まさか、お前が晶のこと嫌っているのって同族嫌悪か?」


「ぐふっ!!」



 言葉の矢が、俺の胸に深々と突き刺さった。自分の中では否定して終わったのに、朝比奈君から決定打を打ち込まれる。



「こ、この俺が同族嫌悪なんかでクラスメイトを嫌うわけないだろ?」


「じゃあ他に理由あるのか?」



 無邪気な、ただ好奇心の赴くままに質問してくる朝比奈君が、初めて恐ろしいと感じた。



「さあな。さて、休憩終了! 先を急ぐぞ!」


「ん? ああ、そうだな」



 俺ははぐらかして近くで水分をとったり寝転んだりしているクラスメイトに声をかける。各々だらけた返事をして立ち上がった。



「司君、大和ってどこにあるんだったっけ?」



 細山さんが俺の隣に立って聞いてくる。その後には上野さんもいた。女子二人は喧嘩することなく、むしろ仲が良い。クラスではほとんど話しているところを見たことがない二人だったが、気の合うところがあったらしい。



「ああ、大和は人族の領土の最東端。エルフ族領側にある。レイティス王国はどの他種族からも遠い地にあったから、そんなに遠くはないよ。あと一日か二日と言ったところかな?」



 脳内で商人に見せてもらった地図を思い浮かべながらそう答えると、上野さんが口を尖らせて言う。



「車とか飛行機とか、せめてバイクでもあったら楽やのになぁ。徒歩がこんなにきついとは思わへんかったわ」


「日本に帰ったらみんな科学技術に感動するだろうね」



 確かにそんなものがこの世界にあったら、移動距離が伸び、移動時間がどれだけ短縮されることか。



「……帰る、かぁ。この世界もまあまあ楽しいけど、やっぱり俺達が住む場所は日本だよなぁ。落ち着かねぇし」



 男子の一人がしみじみと呟く。俺は、空を仰いで心の中で呟いた。



 帰りたいなぁ。日本に、家に帰りたい。


 そのためにも、魔王を倒してこの世界を平和にする。勇者である以上、魔王は倒さなければならない。晶ではなく、勇者である俺が。そして、意気揚々と城に帰って、ジールさんに頼んだ残りのクラスメイト達と合流して、帰るのだ。帰り方はきっと王様達が知っているだろう。

 晶は晶の道を、俺は俺の道を歩く。だが、最終的に勝つのは俺だ。




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