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第307話 ~モルガナイト~




 朝から神成ツツミに呼び出され、重い話を聞いたその翌日、月見家からの依頼を受け俺とアメリアと夜は月見家からの迎えの馬車に乗り込んだ。

 昨日と違って今日は事前に連絡があり、おまけに迎えが来たのは朝食後の良識的な時間だった。神事を司る家と商売をする家でこれほど対応に差があるとは思わなかったな。社会人としてどちらが正しいかなんて言わずもがなだが。



「モルガナイトって奴と会うにあたって俺は護衛としてアメリアの後ろに控えるが、何か気を付けておくべきことはあるか?」


「そう、ね。ひとまず私の悪口を言わなければ大丈夫だと思う」


「ああ、お前のことが大好きなんだったか」


「そう。ちょっと行き過ぎなくらいに」


『ううむ、ちなみになんだがアメリア嬢、具体的なエピソードはあるか?』



 がっしりと俺の肩に爪を食い込ませた夜がアメリアに尋ねた。

 どうやら昨日神成家に行っていた際、寝ていた夜を置いて行ったことが非常に腹に据えかねたらしく、昨夜寝るときから置いて行かれないようにこうして爪を立てるようになってしまった。地味に痛いのだが、俺の選択の結果なので甘んじて受け入れている。

 相変わらずガタガタと揺れ、お世辞にも座り心地がいいとは言えない馬車の中で、アメリアは優雅に顎に手を添えた。



「そうね、例えば、私の事は何でも把握していたわね。私以上に。身長が伸びたのも体重が増えたのもモルガナイトから教えてもらったし」


「……あのさ、アメリアさん。それってストーカーっていうんじゃないか?」


「そう? 慣れれば便利よ。髪や爪を切るタイミングとか教えてもらえるし」


「ストーカーを便利に使ってんじゃねえ。慣れるな」


『……なるほど、サイラス様が魔王にしているようなものか』


「マジかよ、魔族にもいんのかよストーカー。どうなってんだこの世界」



 きょとんとするアメリアとなるほどと頷く夜に、俺は頭を抱えた。

 異世界だからなのか、それともこいつらの周りがぶっ飛んでいるのか。普通ストーカーって早々お目にかかれないもんだろう。


 しかも魔族のサイラスといえば、アメリアがブルート迷宮でアウルムから引き出した情報の中にあった人物ではなかっただろうか。怒りっぽいとかいう抽象的な情報だったが。

 それに、魔王城でノレンが入って来たときに告げた名でもあったはずだ。その後の報告から察するに、おそらくレイティス国へ潜入している魔族がそいつである可能性が高い。だからラティスネイルや夜からもたらされた情報を伝えたりと、色々と佐藤たちにも忠告したのだが、そんな奴がストーカーだと分かってなんだか力が抜けてしまった。



「それほど気を引き締めなくても、いい子よ」


「……いや、ストーカーが対象の近くにいる異性を許すと思えないんだが。俺も生態を良く知っているわけじゃないけどさ」


「いざとなったら私が止めるわ。出会った頃はキリカにも突っかかってたの。でも私が嫌いになるって言えば簡単に手の平を返したし」


「……」



 アメリアに“嫌い”と言われる光景を想像してしまい、俺は思わず視線を窓の外に逸らした。思っていたよりも心にくる。


 窓の外には通りを歩く人が徐々に増えてきており、長屋などの他に店なんかも増えてきた。少し視線を上げれば、木々に囲まれた山が見える。森に遮られて城自体は見えないが、その麓の街ということはここは城下町だろう。



「……城下町を通るってことは月見家があるのは二の丸か三の丸あたりか?」


「ううん。月見家は御三家の中では新参で、商人だから。一応三の丸を与えられる話は出てたんだけど、商売ができなくなるから辞退したんだって。だから月見家の屋敷は城下町の中心部にある」


「へえ。屋敷、ね」



 俺が眠り人の受け渡しをしている間に月見家に行っていたアメリアに聞けば、アメリアが軽く教えてくれた。

 また、庶民派の俺にはある意味キツイ家なんだろうなあ。一応は近くに駅もスーパーも各種病院もある都会とも田舎とも言えない地の出身なのに、野宿や野営が落ち着くのはなぜなのだろう。



 そんな会話をした十分後、ついに馬車が停止した。



「アっメっリっア様ぁぁぁ~! お久しゅうございますぅぅ! 貴方様のモルガナイトでございますよぉぉ~!」


「ぐふっ!」


「アメリア!?」



 馬車を降りた瞬間、アメリアが轢かれた。もう一度言う。アメリアが轢かれた。

 薄桃色の衣装に身を包んだ俺よりも大きい女性に弾き飛ばされたアメリアが、地面に叩きつけられる前に地面との間に滑り込んで受け止める。



「ああっ! 申し訳ありません! 何十年も会えていなかったのでパッションが抑えられなくて思わず!」


「思わずで自国の姫を轢くな!」


「ううっ、大丈夫、いつものことだから。アキラもありがとう」



 起き上がるアメリアに手を貸し、その服についた土煙を払ってやると、おろおろと轢いた側の女性が駆け寄ってきた。

 自己紹介をするまでもなく自分で言っていたし、こいつがモルガナイトで間違いないだろう。思ったよりも体当たり系のストーカーだったが。文字通り。

 髪も瞳もエルフ族特有の金髪碧眼だが、その身長は俺よりも高い。170㎝後半から180㎝はあるだろう。それに加えて、細身が多いエルフ族には珍しく肉付きも良い。出るところは出ているムチムチとした体形だった。つまり体重も重い方だろう。そんな人間が加減することなくアメリアに体当たりしたのだ。吹き飛ぶのも無理はない。というか負うのがかすり傷とはいえ怪我がなくて良かった。というかいつもの事なのか。学習しろ。

 とはいえその言葉に嘘はないのだろう。アメリアは慣れたように、今度は力加減がされたモルガナイトの抱擁を受け入れた。



「久しぶり、モルガナイト。とはいっても最後に会ったのは十年くらい前だけれど」


「はい、アメリア様。たった十年ぽっちとはいえこのモルガナイト、毎日枕を涙で濡らしておりましたぁ。この度拝謁が叶い大変喜ばしくぅ……。……して、そこの人族は?」



 一瞬で笑みを消し、すうっとモルガナイトの碧眼が細まる。

 アメリアに対してデレデレと顔を緩めていた女性の突然の真顔に俺は思わず背筋を伸ばした。



「人族ではなく人間よ。名はアキラ・オダ。今は私の護衛として同行しています。お父様からエルフ族領であったことは大まかに聞いているでしょう? その場にいた勇者召喚で来た異世界の人間が彼。モルガナイト、エルフ族としても、そして私個人としてもアキラは恩人なの。無礼は許しません」


「はっ! エルフ族であったことについては王から聞き及んでおります。私がその場に居たならアメリア様を愚弄する不遜な輩などまとめて消し飛ばして差し上げましたのにぃ」



 口を尖らせたモルガナイトに俺は思わず顔を引き攣らせた。

 こいつ、アメリア過激派過ぎてキリカ諸共エルフ族を滅ぼそうとしてないか? こいつを大和の国へ送ったキリカを英断だと言うべきだろうか。

 続いてモルガナイトの爬虫類のような目が再び俺に向けられた。



「もちろん、彼についても承知いたしました。無礼は致しませんとも。ええ、無礼は、ねぇ?」



 ペロリとその舌が唇をなぞるのがやけに鮮明に見える。

 無礼以外は何でもするって言ってないか? 気のせいか?

 肩に乗る夜に視線を向ければ、夜は酷く同情的な目で俺を見て首を振った。



「……俺屋敷に帰っていいか?」


「アキラ?」



 俺の呟きに、既に月見家の屋敷に足を進めていたアメリアが振り返って首を傾げる。

 刹那、殺気にも似た視線がアメリアの隣に控えるモルガナイトから向けられた。



「……なんでもないです」



 これならマヒロと戦っている方が何倍もマシだ。

 俺は思わず空を仰いだ。

 皮肉なほどに晴れた空だった。





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