第300話 〜始動〜
あけましておめでとうございます! 2026年もよろしくお願いいたします!
本当は先週に更新しようと思ってはいたんです。思っていただけでした(言い訳)。
ノアたちが乗った飛行艇はすでに飛び立ち、その後に勇者たちもレイティス国へ旅立った。
大和の国に残っているのは俺と京介と細山と和木、そしてラティスネイルとアメリアと夜だ。あの大きさの屋敷をわずか六人と一匹で過ごすのは少し寂しいが、二週間後には佐藤たちがクラスメイトを連れて帰ってくるだろうから、またさらに賑やかになることだろう。
佐藤と上野と津田と七瀬、そしてジールさんは、飛行艇の出現を怪しんだレイティス国の侵攻が止まり、今があちらに潜入する好機だと木花サクヤから知らされたため、ノアたちが旅立った数時間後に急遽出立した。木花家の馬車が国境付近まで送ってくれるそうなので、ひとまずそこまでは確実に無事だろう。そこからレイティス国に無事渡ることができれば、元騎士団のジールさんが力になってくれるはずだ。
佐藤たちはこれから二週間という期間で、レイティス国でヒラエスと約束した水晶の破壊及び、それによって呪われたクラスメイトの救出を目標としている。行動するのが急になってしまったが、元々予定していたことだ。そして、もしも全てが終わって時間がまだ残っているのなら、大和の国の国宝、勾玉の捜索も彼らの任務となっている。まあクラスメイトが一箇所に留まっている可能性が低い以上、時間が余ることはないだろう。それを依頼した御三家もダメで元々といった雰囲気だった。
そして彼らを見送り、最初に屋敷に入った日から三日後、案内してくれた日に言っていたように月見ハヅキが再び屋敷にやってきた。細山は負傷兵たちの治療に向かい、京介と和木がその護衛に行っているため、俺とアメリアだけで彼女の来訪を歓迎する。ラティスネイルも屋敷に残ってはいるが大和の国の人前に現れることはないし、喋ることができる魔物というのは珍しいので、夜も普通の猫のように俺の肩の上で黙ったままだ。
俺は屋敷に残っていた調度品で入れた茶を出しながら、何か不便はないかとか屋敷を管理する人の選定が終わったことなど世話話を始める彼女に、俺は何か依頼はないかと尋ねた。
「仕事が欲しいってこと〜?」
「ああ。ただの雑用でも、偵察とか危険な仕事でもいい。信頼がないって言うなら報酬がなくても今はいい。ただ、何もしないまま過ごすのは……な」
「与えられた平穏を享受できないってのは結構重症だねえ」
「ほっとけ」
俺の言い方に何かしら彼女の同情を引いたのか、月見ハヅキから向けられる哀れみの目から俺は目を逸らした。この世界に来てからほぼ動きっぱなしで、何もしない時間というのが落ち着かなくなってしまった自覚はある。いつ四方から魔物が現れるかもしれない“死の森”ならともかく、安全地帯であり満足に休息が取れている今、何もしないというのが気持ち悪く落ち着かないのだ。
「うーん。まあ、もちろん戦時中の今、普段は仕事をしている者を兵として駆り出しているわけだから、大和の国全体でまさに猫の手も借りたいほどに忙しいわけだよ。だから貧富や種族、出身は問わず能力があるのなら回したい仕事は山ほどある。ただ、君たちに回せる仕事があるかっていうとね〜」
そう言って腕を組む月見ハヅキがチラリと視線を向けたのはアメリアだった。
まあ、他国の王女を雑用や危険な仕事に駆り出すわけにはいかないよな。
「アメリアはどうする?」
俺たちの関係を知らなかったのか、月見ハヅキは気安く第一王女に話かけた俺にギョッと目を剥いた。
アメリアはそれに気づかず、湯呑みのお茶を慣れたように啜って飲む。
「……今現在のお父様の意向はわからない。私も、お父様から自由を許されているからといって何でも好き勝手していいわけでもないから」
「平時はともかく今はそうだろうな」
少し考えるような動作をしたアメリアは頷く俺に少し視線を向けたあと、月見ハヅキを見た。
「だから私については気にせず、アキラが望んだように危険な仕事でもどんどん回して欲しい。今はこちら側が配慮しなければならないときと認識しているから、エルフ族領側で問題がありそうなら私だけが抜ければいいことだし」
「……なるほど。ではそのように」
アメリアに丁寧に頭を下げ、月見ハヅキは懐から紙の束を取り出す。
「実は、お姉ちゃ……ゴホン、当主の命により、もしもアメリア様方が何か仕事を望まれた場合にお渡しできるよう、すでに御三家からの依頼をリストアップをしてきているので〜す!」
ドヤッとした顔で机の上に3枚の紙を載せる。
俺が文字が読めないと思っているのか、月見ハヅキはその紙に書かれた文字を指してゆっくりと読み上げてくれた。この世界の識字率は元の世界と比べてもかなり低いようだから配慮してくれたのだろう。訂正してエクストラスキル“言語理解”について説明するのも面倒なのでそのままにしておいた。
「ええと、まずは月見家からですね。駐大和の国エルフ族領大使、モルガナイト様よりアメリア様にお会いしたいとの願いを受けております。日程の方はアメリア様にお任せしますと」
「……それって仕事なのか?」
「アメリア様が王女として動かれるのであれば護衛として貴方もつくんじゃ?」
月見ハヅキが首を傾げる。
彼女も神成ミキのように俺がアメリアの護衛だと認識していたようだ。確かに俺たち以外が全員出払っているのに、要人のそばに俺だけが残っているのでそう思ってしまうのも無理はないか。アメリア自身はともかく、ただの猫に扮している夜であっても徒人ごときに後れをとることはないが、初見でそれを見破ることができるのなら逆に警戒対象だろう。
混乱している月見ハヅキにアメリアが苦笑して説明を付けくわえる。
「ああ、アキラは私の護衛ってわけでもないの」
「えっ! じゃあこの人は何で!? アッ……」
口から思ったことがそのまま飛び出たとばかりの言葉に思わずアメリアと顔を見合わせて笑う。やはり今は気を張っているだけで、本来は歯に衣を着せぬ言い方をするタイプらしい。
「いい、気にするな」
「すみません! いつもお姉ちゃんにも怒られるんですけど、どうも思ったことがすぐに口から出ちゃうたちで……」
「正式の場でなければそのままで構わないわ。当主月見ヤヨイのことも、お姉ちゃんでいいと思う」
「ああ、それもまた言っちゃってる〜。ええと、ゴホン……、お言葉に甘えます。んじゃあ、気を取り直して。アメリア様お一人で動かれるわけにもいかないので、格好だけでもオダ様が護衛として来ていただけるとこちらとしても助かりま〜す。モルガナイト様もそんなことを気にされるお方ではないですけれど一応戦時中なんで!」
アメリアの揶揄うような言葉に月見ハヅキは頭を抱える。が、すぐに持ち直したのはさすがというべきだろうか。
「まあ護衛がいるという格好は必要だからな。それについては承った。……で、モルガナイトってどんな奴だ?」
「愉快な方、ですかね?」
「モルガナイトは……ううん」
モルガナイトについて尋ねると、首を傾げる月見ハヅキに続き、珍しくアメリアが言い淀んだ。俺は思わず夜と顔を見合わせる。
「何というか、私のことが大好きなの。だからキリカも味方にならないと思って大和の国に飛ばしたのね。家柄も王族単体では手を出せないくらいにはいいし」
「………? あっ! ああ、そういやそんなこともあったな」
月見ハヅキの手前、わざと詳しくは話さないアメリアの話の内容を時間差で悟って俺は頷いた。
色々と行き違いやら勘違いやらがあって、アメリアと妹のキリカはつい最近まで仲違いというか、キリカがアメリアを第一王女の座から蹴落とそうとしていた。お家騒動と言うには死傷者がないため穏便で、ただの姉妹喧嘩にしては規模の大きい騒動だった。カンティネン迷宮にあった魔法陣によってそのゴタゴタに巻き込まれ、結果的にその仲裁のようなことをした俺は、細かいところはともかく大まかには事情を知っている。まあ、今の今まですっかり忘れていたが。そういえばそんなこともあったな。
件のモルガナイトはアメリアに心酔しているらしく、その騒動時のキリカですらも味方につけることを諦め大和の国の大使として実質左遷という処置を取らざるを得なかったそうだ。キリカの『魅了』はかなり強力なスキルだったはずだが、それすらも跳ね除けかねないと思われているとは、また癖の強そうなやつが出てきたな……。
俺たちの目配せに気付かず、月見ハヅキはその後ろの紙を見て目を見開き、歓声を上げた。
「次に……わぁ〜珍しっ! 先々代神成家当主、神成ツツミ様よりオダ様……貴方宛のご依頼ですね。詳細は不明ですので直接城の方まで出向かれていかれるとよろしいかと~。明日、神成家より馬車が迎えに来るそうです」
「詳細も拒否権もなし、か」
「ツツミ様は先代様にご家督をお継ぎになられてからほとんど神成家のお屋敷が出てこないんで、本当に超レア! こちらにつきましてはアメリア様のご同行については書かれていないので、ご随意にどうぞ〜!」
俺のぼやき声が聞こえなかったのか、月見ハヅキがはしゃいだように言った。
「最後に木花家からの依頼ですね〜。内容は、ヴェンデス国国境側に何やら強力な魔物が住み着いてしまったようで、その退治です。偵察の結果、並の魔物ではないそうなので冒険者ギルドに依頼するわけにもいかず、木花家に依頼が来ましたが、戦時中なので手が回せなくてこちらに回されたのかと。これについては、魔物が住処を決めるのが早かったために想定していたよりも周囲の魔物がざわつかず、対応は二週間後に勇者様が帰って来てからでも良いとのことで〜す」
月見ハヅキが読み上げた内容に俺は眉を上げた。
御三家との会談後に佐藤と京介と考察したその内容から少し離れてはいるが、これが本命だろうと直感する。
そうでなければ俺への依頼はともかく、アメリアがにいるのにその意思を聞いていないままの状態で魔物の討伐のような危険な仕事を斡旋するはずもない。万が一アメリアが怪我をしてしまえば、エルフ族領は同盟関係を見直してしまうかもしれないのだから。王女が護衛の仕事につきあうはずもないと思っているのか。
滞在する中でこうして仕事を斡旋してもらうこともあるだろう。それで、これからもいくつかの依頼の中から本命を当てようと思ったら面倒だな。どうせ俺たちに本当に依頼したかったことは一つだろうに。今回のことで推測するのなら、レイティス国とは違う隣国、ヴェンデス国の介入を警戒しての事だろうか。
国として、どこに所属しているわけでもない集団に戦争に関わることを直に依頼するわけにもいかず、デコイや建前が必要なのはわかるが、毎度こうも他の選択肢に撹乱されては面倒だ。そして、その偽装の甲斐もあって、今回のことを理由に俺たちが戦争に介入するには理由が弱すぎる。他にも数撃ちゃ当たるだろうか? どうせ時間はある事だし、試してみるのもいいかもしれない。
そこまで考えた俺は月見ハヅキと視線を合わせた。
「すべて受ける。だから他にも俺に仕事を回せ。暇なのが落ち着かない」
「……ん〜。まあいいけど〜。潰れないでよね?」
俺の言葉に、月見ハヅキは口をへの字に曲げる。
「誰にものを言ってるんだ」
「んまぁ〜! 生意気かつ強気〜」
わざとらしく口に手を当てる月見ハヅキに俺はニヤリと笑った。




