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第298話 ~お節介~


 本日中に間に合いそうにないので分けました!

 なので短いです。




 新たな拠点を手に入れた次の日には、ノアやリア、リンガたちを除いたカンティネン大陸に残るメンバーは全員飛行艇から引っ越しを済ませていた。

 そもそもレイティス城を出てから、この世界で居を構えることを想定していなかった俺たちの荷物は微々たるもので、手荷物一つ分を移動させればそれで終わりだ。屋敷の後ろにある森のさらに向こう側が海で、飛行艇をそこまで移動させたので行き来も一時間とかからない。氷室の食料やその他日用品などの細々とした物は佐藤たちが仕切っているので大丈夫だろう。細山が熱望していた辛味も、近くの市場なんかで手に入るはずだ。

 それぞれ自分にできることをする中で、俺は余った時間は個人の薬草室を与えられていて物が多いアマリリスの手伝いをしていた。

 御三家との会談で木花サクヤに罰を望み、その結果死ぬまで人の為に薬を作り続けるように命じられたアマリリスは、木花サクヤの手配で俺たちがもらった屋敷とほど近い場所にある長屋の一室が与えられたそうだ。

 薬のことになると寝食を忘れがちなアマリリスの事を頼むと、言外に木花サクヤに言われている気がするが気のせいだろうか。いや、気のせいにしておきたい。



「これで全部か? 前にこの部屋に来たときよりぶら下がっていた乾燥草が減った気がするが」


「うん。こっちでも採れる薬草は早めに使うようにしとったけぇね」



 薬草を吊るしている紐をそのままクルクルと巻き取りながら言うアマリリスの言葉に、俺はなるほどなと頷く。ちなみにその薬草は俺たちの拠点となった屋敷周辺にも生えているらしく、ご近所に挨拶をしたり生活に慣れてから採りに来るらしい。引っ越した後もその縁が切れそうになくて良かった。

 と、薬草をまとめていたアマリリスの目が俺を見据える。



「……今日はこっちで寝るんよね?」


「ああ。朝一でノアたちがブルート大陸へ出るからその見送りのためにな」



 クロウの遺骨を納めるためにノアとリアはウルにあるクロウの工房へ、そしてリンガたちは一度ギルドに顔を出さねばならないらしく、同じくウルへ。ということでモルテで助けた“眠り人”たちも出身地が判明しないうちはウルにいることになったそうだ。唯一、すでに目覚めているネズミの獣人族の男はウルク出身だそうなので陸路で送り届けるらしい。リンガたちの情報では、ウルクは現在、王家が交代したことによる混乱がまだ収まっていない可能性があるため、飛行艇で向かうのは危険なんだとか。とにかくそちらは俺たちでは手が回せないのでノアにすべて任せている。

 というわけで、明日の朝早くに飛行艇は出立してしまうのである。別にもう会えないというわけでもなく、獣人族領での用事をすべて済ませたあと、またこちらに帰ってくるそうだが、“死の森”からずっと拠点にしていたから少し名残惜しくて離れがたいので、今日俺は飛行艇に泊まることにした。それに、あの屋敷で寝起きするのにまだ慣れないのだ。

 ちなみに俺たちのあとに屋敷にやってきた京介たちだったが、図太いタイプの上野や和木や七瀬は佐藤のように屋敷を見てはしゃぎ、残りは俺と同じ反応をしていた。あれを見て気おくれするのが俺だけじゃなかったと分かって少し安心したのは墓まで持っていくつもりである。

 あと、アメリアは靴を脱いで畳に上がり、布団を敷いて寝ることに違和感があるようだが、意外と和室に馴染んだ。



「どうかしたのか?」



 予定では、アマリリスは今持っている最後の荷物を長屋まで持っていけばそのまま飛行艇とはお別れだったはずだが。

 何か他にあるのだろうかと思案する俺にアマリリスは慌てて首を振る。



「あ、違うそ! あの、もし良かったらなんやけど、今日の夜見張り台におってくれると嬉しいなって」


「……アマリリスが来るわけじゃないんだよな?」


「うん。……私も、友達にお節介焼いてみたくなっただけやけぇ」


「お節介? まあ、了解した」



 口に手を当ててふふふと悪戯っぽく笑うアマリリスは木花サクヤとよく似ていた。




 アマリリスがお節介をしたかった友達とは誰なのか、俺がそれを知ったのは夜に見張り台で彼女に声をかけられたときだ。



「やあアキラくん、こんなところで奇遇だね。隣、いいかい?」


「……ああ」



 先客がいたことに驚いたような顔をしたものの、魔王城へ向かう前夜とは打って変わって、ラティスネイルは落ち着いたテンションで俺との対話に臨んだ。

 見張り台の手すりに肘をつき上半身を預ける俺の隣で、ラティスネイルは海に背を向けて同じく手すりに寄りかかる。ギシリと音が鳴った。


 実は、ラティスネイルとは魔王城を脱出してから一度も話していない。彼女が守りたいと言っていた魔王や魔族を殺すと決めた今もなおさらに。というか、どの面下げて彼女と話すというのか。

 俺はあの夜確かにラティスネイルの味方になると約束しておいて、魔王城で二人の会話に割って入ることはなかった。話が親子の間のデリケートな内容になったというのはもちろんだが、魔王の話術に引き込まれてしまっていたのだ。



「単刀直入に聞くよ。君は、アキラくんは父の、魔王の返答に予想がついていた?」


「……そう上手くいくはずがないだろうと、まったく想像をしていなかったと言えば嘘になる。ただ、俺の想定が甘かったんだ。実際に会って話して思った。この人は止まらない。娘に止められたくらいで諦めるなら、最初からこんなバカげた夢物語なぞ思い描いていない、って」



 あのときはまだクロウが合流するともわからなかったし、まさかNo.7のマスター、カロン・クロネルが兵を率いて加勢に来るとも思わなかった。だから話を聞いている傍らで、これはもう無理かもしれないと無意識に対話を諦めていた、と今なら思う。その時点で俺はラティスネイルを裏切っていたということになる。

 だが、謝ろうとする俺にラティスネイルは一つ息を吐いて首を振った。



「いや、甘かったのは僕の方だ」



 ラティスネイルは星空を見上げた。細い腕が届きもしない星に伸ばされる。



「旅の間、普通の家庭の父親が娘を可愛がっている所をたくさんみてきたから、そういうものなんだって記憶に残りすぎていたんだよ。父親もまた夢を追う人間だってことを考えていなかった。その執念を甘く見ていた。そして、家族だっていうのに僕は父親が自分の夢想のために娘さえも斬り捨てられる人だというのを知らなかった。母のことも、何も知らなかった。……娘である僕の言うことなら聞いてくれるって、無意識に思い込んでしまっていたんだ。これまで一度として僕の話を聞いてくれたことのない父にね。ハハッ、現実を見ていなかったのは一体どちらなんだろうね」


「……そうだとしても、娘が父親を信じるのは別に悪いことじゃないし、当たり前のことだろ」


「おや、慰めてくれるのかい? でも、あれだけ大それたこと言っておきながら、結局のところ拳すらも届かなかったからね。いや、違うか。向けることすらできなかったんだ」



 自嘲し笑うラティスネイルに俺は思わず顔を顰める。

 確かに、父親が一種族を背負う魔王という立場のラティスネイルは、普通の家庭とは言い難いかもしれない。が、だからといってラティスネイルがそれを諦める道理はない。



「あーあ、やっぱり二百年も離れて旅をしていたのが悪かったのかな。その分時間をかけて対話していれば、何か変わっていたかも……」


「たらればを言っても仕方がない。所詮は“かもしれない”だ。それに、二百年程度であの頑固親父が意見を翻すとも思えないし、旅をしていなければお前は俺たちと出会うことなく、お節介を焼いてくれる友達とも出会わないままだぞ」



 沈んだ声で零すラティスネイルを遮って言った。

 モルテで救おうともしなかった人のことを今更悔いている俺が言えたことではないし、どの口がと自覚しているが、それでもラティスネイルはこのままではいけない。後悔先に立たずってのはきっとこういうことなんだろうな。

 海を眺める俺の顔を、顔を逆さにしたラティスネイルがのぞき込んでくる。変わらず海に背を向けたまま、背中と首を限界まで後ろに反らしていた。どんな体勢してるんだ。頭に血が上るぞ。



「お節介……ああ、なるほど。君が今日ここに来たのはリリスたんの仕業か。確かに、アメリアやリア、リリスたんと出会えたのは僕の人生の中で一番の幸運であり幸福かもしれない」



 ようやくラティスネイルの表情が少し和らぐ。だがそれもすぐに引き締まった。だらりと弛緩した体勢から、勢いをつけて一気に体を起こす。

 俺は目の前の海から目を離してラティスネイルと向き合った。藤色の瞳が少し逸らされたあと、再び合わされる。



「僕は生かされた。カロンや、あのとき僕たちを逃がすために亡くなった兵たちの命に報いなければならない。彼らの選択や死を無駄にしたくない。だから、魔王を力ずくで止めるって考えは変わらない。……魔王城であれだけ散々だったのに、僕も学習しないね」



 ラティスネイルはそう言って少し笑った。

 人間は学習する生き物だが、同じことを繰り返す生き物でもある。それは、一度失敗したところで諦められないからだ。今のラティスネイルのように。



「そうか……。で、具体的な方法は? 殴ってでも止めるってのも、マヒロの魔法陣やあの魔眼がある限り不可能に近いだろう」


「そうなんだよね、これっぽっちも名案が思い浮かばないんだ~。僕、これからどうしたらいいんだろう。魔王のあの僕に興味なしって調子なら捕縛命令や殺害命令も下っていないだろうし、僕が持ってる魔法具でヴォルケーノ大陸に戻って密かに同じ考えの仲間を集めるってのも可能ではあるんだけど、それだと数百年単位で時間がかかりそうだし、そうなると君は色んな意味で、もうこの世界にいないだろう? それは困るんだよね~」



 ラティスネイルは眉根を寄せて頬を掻いた。ようやく普段の調子に戻ってきたな。

 とはいえ、俺に言われても困る。頭脳系の作戦は佐藤に聞いてほしい。俺は力技でなんとかする以外の方法を知らないのだ。

 俺は再び海に視線を投げた。



「……たぶん、大和の国とレイティス国の戦争は俺たちが何をしたところで止まらないだろう。世界中に戦火が広がるのも、もはや確定といっていい。結局のところ、魔王の思惑を阻止するのは不可能だ」


「どうしてだい? 会談の内容をアメリアから聞いただけだけれど、レイティスに借りパクされた大和の国宝とやらをこっそり取り戻して来たらいいだけじゃないの?」


「いいや。問題はいくつかあるが、まず国宝を取り戻しただけで終わると、戦争の勝敗が決まらないから近いうちに違う火種で燃え上がる可能性が高い。そしてその場合、大和の国が望むような賠償金もレイティス国は支払わないだろう。あちらにとっても、王妃の事故の復讐も兼ねている戦だろうから」



 今起こっている戦争はどちらかが完全に侵略されるか、正式に降伏したという証がなければならない。でないと止まらないのだが、事態はそう単純でないのが面倒なところだ。

 早い話、レイティス国側について大和の国を徹底的に潰せばいいのだろうが、それだと侵略を肯定したことになる。調子に乗ったレイティス国は魔族に唆され、そのままの勢いで人族領にあるもう一国のヴェンデス国に攻め入り、そしてその後獣人族領やエルフ族領へも向かうだろう。そうなると世界大戦と何も変わらない。それに、こっそりであってもレイティス王につくのは俺たちの心情的にも無理だ。

 とはいえ、大和の国についたところでレイティス国を降伏させることは不可能でもある。魔族が後ろにいるからこそレイティス王はどれだけ劣勢になろうと降伏という選択は取らないし、劣勢になれば魔族が出てくる可能性が高い。それに、逆に大和の国がレイティス国へ侵攻し占領できたとしても、レイティス国の領土は不要であると木花サクヤが言っていたので、負けたレイティス国は属国になるかもしれないが、それ以外はそのままだ。なので、また属国脱却(それ)を理由にして戦争が起こる可能性がある。

 つまり俺たちが得た情報をまとめると、両国に終戦のための落としどころがないのである。たとえ俺のステータス値が勇者よりも強かろうと、戦争を前にすればこれだ。人間一人ではできることに限りがある。


 いや、一つだけ間に合うかどうかの方法があるが、俺一人では無理だ。最低でもジールさんの協力が必要になる。そして、その方法だとジールさんは敬愛するサラン団長の遺志に背くことになってしまう。だから俺もそれをジールさんに頼むかどうか躊躇していた。

 俺は脳裏に浮かんだ案を首を振って打ち消す。



「あと、大和の国が本格的に戦争に傾いたのは、反戦派代表だった神成家当主神成ミキがその婚約者を殺されたことで、好戦派の木花サクヤと手を取り合ったことが大きな原因だ。神成家が持つのはこれまで神子を輩出し続け、国を支えてきた求心力。それが好戦派に傾くことによって国内のバランスが一気に崩れた。御三家の中でも新興の月見家が取って代わった程度では抑えきれないほどに。……まあ、これを元に戻そうにも、死者を蘇らせるのはできないからな。神成家としても落としどころがない限り止まらない」


「ふーん。なるほど、国もお家も大変なんだねぇ。」


「お前のところも大概だけどな」


「うーん、違いない! で、なんでそれを僕に?」



 藤色の瞳がじっと俺を見据える。俺は、その目から逃れるように再び海を見た。




 本日ついにアニメ最終話です!

 頂き物の秘蔵のお酒を開けました!いえーい!


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