第2話 〜ステータス〜
王様は忙しいのかそれだけ言うと引っ込み、また突然水晶を持って登場したお爺さんが引き続いてステータスについて説明をしてくれた。
気配の消し方がとても上手い。この爺さんやりおるな……。
「皆様、心の中で“ステータス・オープン”と唱えて頂きたい」
お爺さんはそう言って、意味ありげに微笑んだ。
俺たちはすぐさま“ステータス・オープン”と唱える。すると、俺たちの期待を裏切らないようなRPG風味溢れる光るボードが目の前に現れた。
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アキラーオダ
種族:人間 職業:暗殺者Lv.1
生命力1800/1800 攻撃力1200 防御力800 魔力700/700
スキル:算術Lv.5 交渉術Lv.4 暗器術Lv.1 暗殺術Lv.1
曲刀技Lv.1 短刀技Lv.1 気配隠蔽Lv.MAX 気配察知Lv.1
危機察知Lv.1
エクストラスキル:言語理解 世界眼Lv.1 影魔法Lv.1
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おおおおお……。改めて見ると、かなり暗殺に偏ったスキルだ。職業が暗殺者だからだろうか。それに、存在感を希薄にする『気配隠蔽』のスキルにかけてはレベルがカンストしていた。
「晶、ステータス出たか?」
と言うクラスメイトの言葉に、俺は頷いた。
クラスメイトは少し……いや、かなり興奮気味だ。まあ、日本ではありえないような現象に興奮するのも無理はない。
俺も、小説のような展開に興奮を隠しきれない。今まで生きてきてよかったとさえも思っていた。が、ほとんど情報がないためこの身が危険に晒されているのも事実だ。と、俺の脳内の冷静な部分が突っ込む。少しはしゃぎすぎたかもしれないから一旦落ち着こう。
「お前は職業、何だったんだ?」
「俺は風魔法師。晶は?」
「暗殺者」
「流石、教室でも近くにいたはずなのに急に消えたり現れたりしてただけあるなぁ。絶対にお前は忍者とかそこら辺だと思ってたよ」
「うるせぇよ。好きで消えてるんじゃない。まあわざとなのが大半だけど」
そう。俺が本気で隠れようとしたら誰も見つけることが出来ない。悲しいことに、小さい頃から隠れんぼで見つけてもらったことがないのだ。缶蹴りをしていてもヘタしたら缶を蹴るまで味方にさえも気づいてもらえないことがあったのだから。
ステータスについて、おかしな所はなかった。俺は日本でも『気配遮断』スキルのレベルが高かったのだろう。そうでなければ、俺はただの影の薄いキャラだったということになる。その可能性は高いのか? ……いや、虚しくなるから考えるのを止めよう。
ステータスについて、おかしなところはなかった。いや、最初からレベルMAXがあるのはおかしいのだろうか。それとも、この世界では当たり前なのだろうか。
日本にいた頃の経験も反映されているらしく、『算術』と『交渉術』も上がっていた。
『算術』はまあ学校で習っていた、いつ使うのか分からないような数式やらのお陰だろう。
『交渉術』は八百屋のおじさん相手に、食費節約のために値切りまくったからかな。おじさんに嫌われかけてたけど、今としては良かった。何が起こるか分からないこの状況で、戦闘系のスキルではなくてもスキルレベルが高いのは嬉しいものだ。
「……さて、勇者は誰だろうな」
「ああ、でもまあ、大体想像はつくよな」
そう言ってチラリと視線を向けると、ある一人の男子が大勢の女子に囲まれてにやけていた。いや、表向きはしらっと無表情だが、口角は少し上がり気味だ。
俺達のクラスのイケメン、佐藤司である。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。まるで絵に描いたような王道の勇者で、我が学校の生徒会長様だ。ただ、ハーレム願望があるのとポーカーフェイスが出来ないのが玉に瑕だな。彼が勇者でないのなら、むしろ誰がなるのかと言うくらい勇者に適任な男で、本人も自分が勇者であることを疑っていないだろう。
そして、実際彼が勇者のようだ。表情を見れば一目瞭然である。女子たちも分かっているのか、いつもより囲んでいる数が多かった。そして彼女のいない男子達が歯ぎしりをしながらそれを眺める。場所が違うがいつもの光景だ。みんな、いつものペースにやっと戻ってきたようだった。
そういえば、俺のそばで話しかけてくるこの風魔法師の男子生徒は誰だろう。クラスでも孤立している俺にたまに話しかけてくるのだが、目立ったところもない奴だから全然覚えていない。今更、お前誰だと聞けるはずもないし、謎は深まるばかりだ。
「それでは勇者様方、この水晶に手をかざしてくだされ。この水晶はステータスを読み取り、表示する魔法具です。是非とも、皆様のお力を見せていただきたい」
お爺さんはそう言って、手に持っていた水晶を掲げた。
俺は顔を顰める。やはり、ステータスは公開しなければならないようだ。どうにかして回避出来ないだろうか。何の情報もないこの状況でステータスの公開はとても危険だ。
俺が読んでいた小説でも、召喚した国に主人公である勇者が軍事利用されるものがあった。ここがそうだとは限らないが、用心に越したことはないだろう。何しろ、俺達はまだほとんどこの世界のことを知らないのだから。
俺はどうにかして解決策を考えようとあたりを見回した。
「では、そちらの方からお願いしますぞ」
この部屋の壁際にはピクリとも動かない鎧が並んでいる。遠目からなので分からないが、全員もしくは何人か兵士が紛れ込んでいることを考えると下手な動きは出来ないな。どうしたものか。
4月26日ー大幅に修正。