第287話 ~進路~
アウルムとその妹が来ていたというアメリアの話には驚いたものの、誰も被害を受けなかったのならば良しとしよう。
いくら神子として覚醒したとはいえ、アメリアはまだその力をどう使えばいいか分からない状態だ。それなのにあれだけ狙っていたアメリアではなくアウルムは俺との戦いを優先したために不在と分かれば素直に引き下がり、冷静そうな妹もそれを容認している。それほどまでに俺と戦いたかったのか、それとも他に何か狙いがあったのか。結局また謎が増えたな。
「佐藤、次はどこへ行く?」
「は、俺が決めるのか!?」
目を見開く勇者に俺はため息を吐いた。相変わらずだなこの勇者。
「俺の目標は家に帰ることだった。だから最有力候補のマヒロがいて、なんか意味深な伝言をしてきた魔王に会うために魔族領を目指していたんだ。だが今は魔王の企みと戦争を止めることが先決で家に帰るのは二の次になる。ただ目指せばよかった今までとは違って、俺一人じゃすでに始まった戦争を止めるなんて大それたことできないから案を出せと言っているんだ」
頭いいんだから戦争の止め方の一つや二つ知ってるだろ。
そう言うと、勇者は口に手を当てて考え込む。
「……そう、だな。まず、俺たちには情報が足りない。だが他は知らないけど俺たちが知っていることはある。例えば魔族が干渉していたというのを知っているのはおそらくレイティス王とここにいる俺たちだけで、戦争を吹っ掛けられた“大和の国”側も知らないはずだ。つまり、対戦国である“大和の国”を含めた他国の中ではただの人族同士の領土争いでしかない」
「で?」
「つまり、“大和の国”には魔族と関係なしにレイティス国と戦争をする理由があるんだ。そこをどうにかできれば解決の糸口にはなるんじゃないかな」
「要は、戦争理由を探ってそれを解決すれば戦争は終わるかもってことか」
「そう。まあそんな簡単なことじゃないし俺たちだけではどうにもできないことかもしれないけれど……。とにかく今は情報が欲しい。だから行くとするなら“大和の国”だと思う」
なるほど一理ある。
現状俺たちの立場としてはどちらの国にも帰属していない第三者だ。第三者だからこそできることはあるかもしれない。
「ノアやジールさんは人族として、リアは獣人族としてどうだ?」
難しい顔で考え込んでいた三人に尋ねる。
「何度か“大和の国”へ行ったことがあるが、あそこは特に国民の仲間意識が強く、自分の命よりも家名や誇りを大事にするよくわからん国だ。だからいざ戦争をするとなるとおそらく止めるのは難しいぞ。流れに身を任せるやつと頑固者ばかりだからな」
「そうですね。食料生産も盛んで水も豊富にありますし、レイティス国ほどではありませんが資源が豊富で戦に向いた国です。また、魔族の援軍を考慮しない戦力差としてレイティス国は“大和の国”の4倍の兵力を誇りますが“大和の国”には当代の金ランク冒険者が2人いますから、一概に“大和の国”が劣勢とは言えないかもしれません。大国レイティス国の隣国でありながらこれまで吸収されずにきただけはありますよ」
「なるほど」
頷きながら二人の情報を頭に入れていく。
そういえば今世界に金ランク冒険者は4人いるんだったか。アメリアの妹のキリカと“大和の国”の2人。あと1人はクロウか?
「獣人族はおそらく静観を選ぶでしょう。血の気の多いものたちが傭兵として参戦する可能性がありますが、国としては動かないかと。というか、私がいた頃のウルクだったら漁夫の利を狙って両国が消耗した段階で手を出してくるかもしれません」
何も分からないまま突然隣国に戦争を吹っ掛けられ、獣人族からも狙われている“大和の国”が可哀想になってきたな。ジールさんの言い方ではずっとレイティス国にも狙われていたようだが。
と、それまで静かに話を聞いたリンガがすっと手を挙げた。
「あー、そのウルクだが、今はラグーン家が没落し、新たなウルク国の王家が立ちそうなのは知っているか? 戴冠式が今日の予定だったから、すでに新たな王が立ったあとかもしれないが」
「いや、知らないな」
リアが王家を出たのは知っているが、そのまま王家が没落するとは。それほど守り手と言う職業が重要だったのか、それともグラムの悪事を隠しきれなくなったのか。
「新たなとは言っても元々ウルクの正当な王家だったのだがね。その新たな王だが、自分が王家の血筋だとは知らないまま一般庶民として育ってきたそうだ。そして生きるために冒険者となり、銀ランクまで登り詰めた」
銀ランク冒険者から一国の王か。随分出世しているな。冒険者として自由に生きてきたのならしがらみが多くなった分面倒も増えそうだけど。
へえと頷く俺にセナが意味深長な笑みを向けてきた。
「そんな彼には心酔している冒険者がいるらしいぜ。直接命も救ってもらったとか? なあ“闇の暗殺者”サマ?」
リンガの言葉をセナが引き継ぎ、俺を見てニヤニヤと笑っている。久しぶりに聞いたその名に思わず顔を顰めた。
「え、何その名前ダッサ」
「もう、悠希ちゃん素直に言いすぎだよ。私はかっこいい二つ名だと思うけどな~」
「やっぱりそれお前のことなのか?」
「……俺から名乗ったわけじゃない」
勇者たちの引いた目よりも、思わず漏れ出た感じの上野の言葉が一番グサッと来た。唯一細山が羨ましそうに見てくるが、こいつも食事のことを考えると大概おかしな奴だからなあ。
他の反応はともかく、どこかで噂を聞いていたらしい京介の訝し気な目には一応手を振って弁明しておく。
「で、直接命を救ったってことは俺の知り合いか? 誰だ」
「ウルクの冒険者ギルドで足の不自由な幼馴染共々命を救ったのだろう? 思い出せないか?」
ウルクの冒険者ギルド、幼馴染と並べられると一人の顔が思い浮かぶ。
グラムと初めて対面した際にいた、赤い髪にくすんだ金の瞳を持つわんこ……ではなくライオンの獣人。
「ラウル、か?」
「え……」
『あいつが……?』
確かにあのときあいつも俺のファンだのと言っていたが。あいつが新たな王?
実際にラウルと会ったアメリア、夜も目を見開いて驚愕していた。
「そう、ラウル・レグルス様。冒険者のときは“旋風のラウル”と呼ばれ、恵まれた大きな体を持ち風のように俊敏に動ける、大鎌を主な武器としている人物だ」
いや、そこまでは俺も知らん。
ケリアに散々馬鹿だと言われていたあいつが王でウルクは大丈夫なのか? というかケリアも一緒なのだろうか。
「レグルス家はライオンの獣人の家系でね。目立つからとうの昔にラグーン家に暗殺されて途絶えたとばかり思っていたけれど、まさか直系が堂々と、しかも冒険者をしているとは誰も思いもしなかったさ」
あいつ普通にグラムがギルドマスターをしているウルクの冒険者ギルドに入り浸っているみたいだったけどな。堂々としすぎて逆に気づかなかったのか、アメリアに目を奪われていたのか、ウルクの冒険者ギルドでグラムとラウルも顔を合わせていたが何かに気づいた様子はなかった。まあリンガの話が正しければラウル自身も知らなかったのだから紛れていたのは狙ったわけじゃないだろうけど。
「まあそれはともかく、彼なら心酔している君が声をかければ力を貸してくれるんじゃないか?」
「声ねえ……。かけるとしてもそれは最終手段だな。情報はありがたいが」
『なぜだ? 主殿は戦を止めたいのであろう? 戦力を借りて早々に圧し潰した方が早いと思うが』
首を振った俺の言葉に夜が首を傾げた。
俺はその背を撫でながら答える。
「まず、グラム暗殺から動いていたとしても、ラグーン家が持っていた軍が丸々ラウルのものになったわけじゃないだろうし、まだ国内の掌握もできてないだろう。それに、さっき佐藤が言っていたように今はまだ魔族側も表には出てきていない、人族同士の戦争だ。だから俺たちが同盟国でもない獣人族領の援軍を頼むと、レイティス国に魔族の援軍を頼む口実ができてしまう。そうなると魔族は秘密裏に干渉していた人族領だけではなく、獣人族領にも手を出して世界大戦を起こすだろう。止めるために動いてんのに逆に被害を広げることになる」
『なるほど。魔王の狙いは世界中の人間を生贄にすることだったな』
納得したらしい夜の言葉に頷いて俺はふとノアとジールさんに目を向けた。
「そういえばノアは人族だがレイティス国に親戚とかいないのか?」
「ん? ああ、一応出身地ではあるし血の繋がりがある者もどこかに残っているかもしれんが、すでに絶縁したので問題ない。見守る我が子も亡くした今、骨を墓に納めてやるくらいしかやることもないし、“大和の国”側であってもお前たちについて行くさ」
懸念事項をさらりと流すノアは、強がりではなく本当になんとも思っていないらしい。まあ家族の形も千差万別だしな。
「ジールさんは? もしも“大和の国”の味方になるのならレイティス国の敵ってことになる。騎士団は解散しても兵として残ってるんだろ?」
「そう、だね。でもそれが兵士だ。サラン団長がいなくなっても、騎士団がなくなっても、王と国を守護してきた誇りを失ったわけじゃない。騎士たちも私も、やり方が違うだけですべきことは変わらない。たとえ敵になってしまってもね」
少し悲しそうに微笑みながらジールさんは言った。
心中は複雑だろうが、ジールさんは変わらず俺たちと一緒に来てくれるらしい。レイティス国に詳しい人がいるのは本当にありがたい。
「決まりだな。ノア、進路を変えてくれ。“大和の国”へ」
「ああ。了解した!」
来週にはアニメの放送も控えていますし、昔よりちょっとは文章力が上がっただろうと思い、少しずつ一話から順に見直しをしていきたいと思います。展開は変わらずなので読み返しは不要ですが余計な文を消したりするので前よりは読みやすくなるかも?
自分の文章読み返すのって鳥肌が立って苦手なんですよね~




